◆シャント手術術前説明②◆
*過去の自分のブログの転載です。
🍀🍀🍀
執刀医S先生から受けた手術説明の続き。
具体的な手術内容に入るので辛かったりキツかったり生々しかったりします。
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今回の手術は二つ。
『体肺動脈シャント』
『動脈管離断』
簡単に言うと、現在薬で開けている動脈管に代わる人工血管を繋ぐ手術。
これにより薬の点滴が不要になる。
あくまで現状維持のための手術であって、状態が好転するものではない。
手術方法は『胸骨正中切開法にて心臓に到達。動脈管を離断し、体肺動脈シャント造設を行う。血行動態や酸素飽和度が低下した場合は人工心肺を装着する可能性がある。止血を確認。閉胸。』(手術説明書より)
当日は朝8時に手術室に入る。
入室後、全身麻酔や人工呼吸器の挿管、点滴のライン確保などの前処置に時間がかかり、実際に手術が始まるのは1~2時間後。
手術自体は3時間程度の予定だが、あくまで目安。
胸骨正中切開法とは、左右の鎖骨の間からみぞおちまで皮膚を切り、さらに胸骨を縦に切り心臓に到達する方法。
胸骨とは胸にある板状の骨。
心臓は心嚢という膜に包まれているので、その膜も切る。
ゴアテックスという素材で出来た人工血管で、鎖骨下動脈と右肺動脈を繋ぐ。
人工血管は娘ちゃんの体の大きさから4mmを使用。
この太さは現状では太すぎるので、術後しばらくは血液が流れすぎてしんどいと思う。
だがこれ以上細いとこの先成長した時に今度は細すぎてしまうので、この太さがベストだと考えている。
人工血管を繋いだ時点から動脈管を開いている薬は不要になり、動脈管を離断する。
今回の手術は心臓を止めずに行うが、場合によっては酸素飽和度の低下などにより『人工心肺』を使用する可能性がある。
血液を固まりにくくする抗凝固剤を投与し、大静脈と大動脈に管を取り付け血液を人工心肺装置に循環させる。
人工肺で血液に酸素を与えて、ポンプを使って全身に血液を送り出す。
ただあくまで人工物であるため体への負担が大きく長時間は使えず、使っても30分程度と見越している。
人工心肺を使用することによる合併症としては『全身臓器への負担』と『出血傾向』と『肺血管抵抗の上昇』があげられる。
『出血傾向』は血液を固まりにくくする抗凝固剤を使用するため、出血が止まりにくくなる。
『肺血管抵抗の上昇』は本来なら流れやすいはずの肺血管だが、人工心肺を異物と認識して抵抗が上昇し、血液が流れにくくなる可能性がある。
そのため使わないで済むならばその方がよく、もし使用する場合でも長時間の使用はしないようにしたい。
手術後は心臓の腫れや出血がないことを確認してから胸を閉じる。
数日間は傷の脇にドレーンという管を入れて血液や水を排出させる。
不整脈が出た場合に使用する体外ペースメーカーの電線も胸に差したままになる。
これらは不要になったら引き抜く。
今回の手術の合併症は次のようなものがある。
①心臓機能の低下。
強心剤や血管拡張剤の投与で対応する。
薬剤の効果がない場合は補助循環(人工心肺みたいなもの)を使用することもあるが、長期は使えない。
②脳神経障害。
人工心肺使用時や元々チアノーゼがあった場合は発生することが多い。
血栓が脳に到り梗塞を起こすことがある。
ほとんどは一過性だが、後遺症を残すこともある。
③感染症。
術後は体力も低下し抵抗力も低下するため、肺炎などの感染症になることがある。
④輸血による合併症。
⑤不整脈。
脈が早くなる頻脈や、反対に遅くなる徐脈という症状。
早くなったり遅くなったりする場合もある。
酷い場合には体外ペースメーカーを使用する。
⑥出血。
輸血で対応。
⑦肝機能障害。
人工心肺の影響で出る場合がある。
ほとんどは一過性で自然治癒する。
⑧腎機能障害。
人工心肺や術後の心機能低下の影響で出ることがある。
心機能が回復すれば徐々に改善される。
⑨心嚢液貯留。
心臓とそれを包む膜(心嚢)の間に水が貯まること。
ドレーンから排出される。
⑩横隔神経麻痺。
心臓を包んでいる心嚢には呼吸に関与している神経が走行している。
手術中にこの神経に触れてしまったりすることにより、呼吸状態が悪くなる可能性がある。
⑪反回神経麻痺。
動脈管の近くを通っている神経で、声帯機能を司っている。
やはり手術中に触れてしまうことにより麻痺し、声が出なくなったり誤嚥などの症状が出る。
⑫不測の出来事。
最大限の注意を払い最善の努力をするが、こればかりは残念ながら0には出来ない。
これらが手術一般と人工心肺に関する合併症。
他に娘ちゃんの場合は次があげられる。
⑬人工血管の機能不全、サイズ不足。
人工物には血液が固まり付着しやすいので流れが悪くなったり、成長にともない血流量が足りなくなったりする場合がある。
その場合はカテーテル治療や再手術の可能性がある。
⑭肺動脈狭窄。
人工血管を繋いだ部分は成長しないため、その部分が狭くなる場合がある。
同じくカテーテル治療や再手術の可能性あり。
⑮体血流量と肺血流量のバランス不全。
現在の動脈管より人工血管の方が太いため、肺へ血液が流れすぎてしまいしばらくはしんどくなる。
⑯冠動脈の問題が起こる可能性。
何が起こるか起こらないか予測がつかない。
以上のことから、今回の手術の危険率は3~4%とした。
あり得ない話ではあるが、娘ちゃんが100人いたらそのうちの3~4人が残念な結果になるということ。
決して低い確率ではないが、高くもない。
手術後はICUに入り、面会は親のみで一日3回。
これは感染を防ぐため。
状態を見て一般病棟に移動になる。
🍀
…以上が執刀医のS先生から受けた説明と作ってきてくれた娘の手術説明書、そして小児心臓外科が作っている手術全般の説明書からまとめたもの。
あまりの内容の濃さと怖さにしばらく放心した。
信じるしかない。
祈るしかない。
大丈夫。
大丈夫。
娘は大丈夫。