【朗読】プリンアラモード
小さい時
お父さんが連れてきてくれていた。
お母さんと喧嘩した時
宿題の難問に頭から湯気が出ている時
愛犬が空に引越しをした時
とにかく気持ちが沈んだ時には必ずだ。
店内はあまり広くはなくて
でも満席にはなったりしないぐらいの小さな喫茶店
そこはいつも優しい音楽と
コーヒーのいい匂いがしていた。
だけど
僕が頼むのは
ソーダ水とプリンアラモード
ここのソーダ水はイチゴとメロンとブルーハワイから選べる。かき氷定番の3つの味って言ったらわかるかな
そこに50円プラスするとアイスクリームを乗せてくれて小さい時の僕には豪華な飲み物だった。
そして、プリンアラモード!
こいつがすごいんだ。
正直、ほかのお店のは知らないんだけど
色んなフルーツが乗ってて、甘さ控えめの生クリームに
バニラアイスに、なんと三段重ねのパンケーキまで一緒になっているんだ。
主役がプリンかパンケーキかって、いつもわからなくなって、その戦いには今もなお、決着はついてない。
そんなとにかくすごいプリンアラモードとソーダ水をなんでもないことのように頼んでくれて「うまいか?」と聞いてくるお父さん。
僕は「うん!」と答える。
泣いたまま食べた日はちょっと涙味がまざるけど
食べ終わる頃には、沈んだ気持ちがぴょこっと浮いてきちゃうから、やっぱりとにかくすごい。
中学生になって高校生になって大人になった僕。
だんだんとお父さんとは来なくなっていた。
来る時は友達と。
たまにひとりで。
それと彼女と。
ここのプリンアラモードって
こんなに高かったんだなってわかるようになると
お店や商品だけじゃなく、お父さんも凄かったんだって思えた。
今日
僕はその喫茶店で両親に彼女を紹介する。
本当は家でのほうがいいかもしれないけど、彼女と出会ったのもここで、ふたりともあのプリンアラモードのファンで、そういうのも含めて話したいんだ。
今は、僕もお父さんみたいになんでもないことのようにプリンアラモードをひとのために頼めるようになっていて、その相手が彼女で。
だけど
いつもソーダ水にアイスを乗せるかは喧嘩しちゃう。
ただ
その喧嘩すら愛しくなる。
そんな彼女とずっと一緒にこれからを過ごしたいと話すんだ。
そうだ
今日ばかりはコーヒーでかっこつけようか。
end
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