エッセイ<アイドルになることができなかったぼくへ>

なんでアイドルが好きなのか?という問いがあります。それに対するぼくの回答はいつだって「彼/彼女たちはヒーローだから」というものです。そしてそれは、いつだってぼくがなりたかった理想像でもありました。

小さい頃から目立ちたがり屋で、なんでもかんでも目立とうと必死になる。そんな子供だったぼくの原点は「あまり褒められなかった」というところにあります。

「ぼくはヒーローになれない」

生まれつき視力が弱く、かつコミュニケーションが下手な子供だったぼくを見て両親は「少しでも自分の力で悪いところを改善できるように」という思いから、褒めるよりもできないことを注意する、場合によっては叱り付ける、という形で育てることを選びます。今となってはそうした育て方を理解できるようにもなったのですが、子供だったぼくはそうしたやり方をうまく噛み砕くことができませんでした。加えて生来の不器用さも重なり、ぼくは褒められた経験があまり多くない、そんな環境で育ちます。

その中で、ぼくが思う1番褒められる人は、テレビの中の「ヒーロー」でした。弱い立場にある人を救い、誰かを幸せにする。そんなヒーローがぼくは小さい頃から大好きでした。ここから転じて、ぼくの中で「ヒーロー」は「褒められる人」の代名詞になっていきます。例えば、華麗なゴールを決めるサッカー選手。あるいは、人を笑わせるコメディアン。もしくは、大観衆を湧かせるギタリスト。そうした「ヒーロー」に憧れて、ぼくはとにかく人の前に立つ機会のあることを片っ端からやり始めました。

そうやって色々なことをやっていったぼくですが、途中からあることに気付きます。それは「どうやら思い描いていたヒーローには、ぼくは向いていないらしい」ということでした。勉強も、スポーツも、友達も、ある程度まではこなすことができました。ですがその「ある程度」を軽々と超えていく人間が、幸か不幸かぼくの周りにはたくさんいました。そうしてぼくは、ヒーローになることを諦めます。それは多くの人が辿ってきた道で、しかし残酷な道でした。

ぼくのヒーローは舞台の上で

そうやって腐ってしまったぼくは、それでもなぜか諦められずありとあらゆるものに手を出します。漫才、バンド、コント、演劇、歌い手。本当にありとあらゆるものに手を出して、都度敗北を味わって泣く、そんな日々の繰り返しでした。そうして過ごしている中ですっかり負け犬根性が身についてしまったぼくは、ある日友達に誘われて地下アイドルのライブに行くことになりました。

いやー、衝撃だったね。

誤解を恐れずに言うと、アイドルオタクという言葉がプラスの意味合いで取られることってほとんどないんですよ。「気持ち悪い」「なんか臭い」「ヤバい(悪い意味で)」とかなんとか、とにかく罵詈雑言の方が圧倒的に多い。そして正直、そう言われるだろうなってポイントがあっちこっちに転がっている。だけど、アイドルはそんな客席を見てて、あまつさえ愛までくれるわけですよ。なんなら、世間一般で言うところの「負けてしまった」割合の高い人たちの存在を全力で肯定して、その人たちが「力になってる」とまで言ってくれる。

これをヒーローと呼ばずして、なんと呼ぶんですか。

まあこの感覚は、たぶん自己肯定感の高い人には伝わんねえだろうな、と思います。「お金払ってチェキ一枚撮って汗だくになって帰るだけでしょ?」「アイドルって付き合えないんだよ?」うるせえバカ!!!!!!!こんなに人救ってる子たちがヒーローじゃねえわけねえだろうが!!!!!!!

そうです。ぼくにとってのヒーローは、舞台の上にいました。そしてその存在は、確実にぼくを救ったのです。

「ぼくはヒーローになりたい」

アイドルの存在に救われたぼくは、アイドルにのめり込みました(あくまでぼくなりにですが)。過去にヒーローになりたかったぼくの代わりに、彼/彼女たちがヒーローになってくれる、そういう感覚があったからです。

それと並行してぼくの中には、かつて諦めてしまった気持ちがふつふつと湧いてきました。すなわち「ヒーローになりたい」という気持ちです。彼女たちを応援するのは楽しかったし、無限に見ていられるなと思いました。ですが、観客とステージの間には圧倒的な差があって、そこを超える方法がわからない。アイドルのライブを見れば見るほど、救われる自分と救われない過去の自分がいて。そんな時に出会ったのがアニソンDJでした。こうしてぼくのDJ生活が始まることになります。

つまり、ぼくがDJを始めたのは、ぼくが「アイドルになるための最後の手段」でした。歌が歌えるわけでも、キレッキレのダンスができるわけでも、とびっきり可愛いわけでもないぼくが「アイドル=ヒーロー」になるために、最後に残ったのが好きな音楽で、その1つの手段が、DJだった。

おかげさまでそこそこ名前も知っていただき、かつてライブを見ていたアイドルさんと共演させていただくなんてことも増えました。そうやってDJさせてもらうたびに、あの時ステージを見て「なんでおれは見てるだけなんだ?」と思っていたぼくのことを思い出したりして。

その度に、あの時思ってた形でのヒーローではないけど、まあこれも悪くないよな、なんて思うのです。

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