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使い方に品性が現れる
できれば人を、下品だと思いたく無い。
見下すことになるからだ。そこにはチリチリと罪悪感が焼きつき、セットになっている。
だがそう思えば思うほど、下品なものが目に付いた。
*
大好きな店が渋谷にある。
そこはもう何回も通っている。門をくぐれば「いいらっしゃいませぇー!!」と大きな声で挨拶され、乾杯!を席でやっていると、一緒に手でグラスを作って乾杯してくるお兄さんたちがたくさんいる。ときには、こっちからドリンクを奢ると、本当に嬉しそうに飲みながら仕事してくれたり。余計な遠慮はそこにない。
その楽しい雰囲気が全部料理に現れていて、大味だけど豊かな味のお店だ。「とびきり旨いチャーハン開発しちゃったんですよ、食べます?」なんていう裏メニューのお誘いもたくさんある。
よくあるようで、今は本当の意味ではあんまり存在しない、元気印のお店。最初に入った瞬間、真ん中の調理場で接客しながら調理するお兄さんたちが本気で笑っているのが目に入った。その笑顔に手を引かれたような感覚で店に入ったのを覚えている。その日から、そこは定期的に通いたくなる味と、会いたくなる人がセットの特別な場所となった。
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その日も店に入っていくと、平日で割りと落ち着いたテンションの店内に先客がいた。
上の方を金髪で染め、下の髪をきれいにわけて黒のままにしている男の人で、お店の入り口に近い真ん中の席で普通にお酒を飲んでいた。
席に着くと、奥からぱぁっと笑顔で店長が走ってきた。ただでさえ細い目がすぐになくなるぐらい、感情表現が豊かな人。
「来てくれたんすねぇ!」
「来たよぉ。今日は落ち着いてるね」
「っすね。でも、これから荒れるかもしれません」
店長は少し困ったような心配そうな顔でちらっと先客の方を向いた気がした。あっと思ったがそこには深く触れずに、メニューからいつも食べる2品を注文した。
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30分も経たないうちに、私はその視線の意味を理解する。
金髪の先客が、何かの水割りをジョッキで10杯いっきに頼み、カウンターに並べ始めてからが始まりだった。お兄さん達の中で一番の酒豪と、5杯ずつで一気飲み対決をするらしい。
日本では、珍しいな。私はぼんやりとそう思った。酒豪と金持ちの多い北京ではよく見た光景だ。嫌な思い出の景色がガッツリと頭をもたげて、私は慌てて首を振った。
案の定、店で一番の酒豪に金髪の先客は敵わず、残り3杯になったジョッキを掴んで外に出て道にぶちまけた。道路の上、放射状に広がったダークグレーのシミが、あーあと言いたくなる虚しさを語っている。
そこから彼は、札束を机に出したまま、暴れるように酒を飲んだ。鼻が不自然に高い女の子を呼び、彼女の腕や首を噛みながら、テキーラを喉に入れた。いったぁい!女の子の叫び声と彼がグラスを荒々しく置く音が響いている。
そんな彼らをみて思う。
そんな一生懸命楽しそうに働く人たちの目の前で、酒を作らせ、一気飲みをさせ、自分は飲めない分は全て捨てる。
金がある。金があるから、何したっていいだろう?
まるで、そう言っているようだ。
今までの環境下で、お金が割とある人たちに出会うことが多かった。お金がある人にとり、お金があるというのは正義だ。使い方も本人しだいだ。それは間違いない。だから、“金があるから何したっていいだろ”を全身で体現してる人たちを、いやというほど見てきた。
そのたびに、つよく私は思う。
これだから、ほら。
人格以上のお金が身につくって、なんて下品か。品性よりも先にお金が身につくって、いかに不幸か。
男も、女も、人も、お金じゃない。
その横で、一緒にいた人は、その彼を「すげえすげえ」と言っていた。ホストで22で、あんだけ金あって、ナンバーワンでしょ?すげえや。
何がすごいんだよ?私は思った。なんであれをすごいと思うんだよ?
吐き気がして、体が熱かった。ダメだダメだ、コントロールできなくなる。
お金を稼ぐことじゃない。お金の使い方に品性は現れる。そこは、人との欲望とセットになっているせいで、露実にその人となり全てが現れる。
般若のような自己顕示欲を掲げて、女の首や腕を噛みながら、食べ物や飲み物を捨てながら、使う金など存在しない。泡と同じだ。
*
気付くと、私はいつのまにか帰ると口にしていた。隣の人は驚いて少し待てといった気がしたが、まぁまぁ、もういいでしょう、そんなことを言いながら、自分のカードでお会計を済まし、そそくさと外に出た。
体の粗熱が取れないままに湿度の高い風に当たる。
品性とお金の繋がりに考えを馳せながら、
答えが出ないことに苛立ちながら、
渋谷の地下に潜った。
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