懐かしいって愛おしい
数ある動画サービスの中からNetflixを選んだのは、中国の作品を中国語字幕(繁体字)で観れる、唯一のサービスだったからである。
いくら毎日仕事で使うと言っても、中国の友達が居ると言っても、日本で生活していく中で、じわじわと語彙が抜け出ていくのを実感し、焦りを感じることが増え、もう一回家の中での生活でも中国語の標準語に触れる時間を作らなければと思った。
そんな話を職場でしていると、同僚がそれならと言って勧めてくれたのが『流星花園』というドラマだった。(日本語で言うとなんだろう…『流れ星の降るガーデン』だろうか)これは日本の「花より団子」の中国版リメイクである。
日本版「花より団子」が出た頃のことを思い出す。当時高校生だった私は、例にもれず友達とキャーキャー言いながらそれを見るのを、一番の楽しみとしていた。でももう、高校生ではないという事実が、それを見始めるのを少し億劫にさせてくる。あのときほどラブコメに浸ることもないだろうし、うわぁ…となんとも言えないモヤモヤさえ感じるかも、と思ったが、2018年版だし、以前住んでいた上海が舞台だということで、見てみようかと思った。
だが、これがまた大きく予想を外れたところで、私をキュンとさせてくれたのである。
その画面の中に広がっていたのは、以前にもまして発展し、大都市、最先端都市になりつつある上海と、
路地裏の、決してお金持ちではない、それでも明るく暮らす人々がいる両方の上海。
それ2つが相まっている、私自身が知っている上海だった。
お金持ちの御曹司と、どこにでもいるような(という設定の)元気で活発な女の子の話なのでその格差が描かれるのは半ば当然ではあるけれど、
その設定がまた上海の両側面を描き出すのにぴったりの、なんとも巧妙な偶然だったのである。
思い出の中にある上海のトップクラスの富裕層の家は、日本のタワマンがただの家に見えるくらい、お城なんですか?一体何人が住んでるんですか?という感じだったし、(この写真の背景みたいな感じ。良い写真が見つからなかったのはご容赦を。)
普通の庶民の人たちが住む家は、この写真の背景のように雑多でごちゃっとしていて、電線がショートしそうなぐらいぐちゃぐちゃに張り巡らされて、ドアの金属部分もサビきっているような、決してキレイとはとても言えない場所だった。(それでもテレビなのできれいな方なのだろうが)
その2つの差は、とてもとても大きいものだった。
今でも覚えている。ずっとまえに、上海の夜景が見える高台に行ってきらめくようにテラテラに光るテレビ塔などを見つめたとき、真下をふと見ると、夜にはほとんど明かりのついていない集落のような一角が見えたことを。
そうか、その大きすぎる格差そのものが上海のこの空気を作っている、何もかもが混ざっていて、一人一人の境遇も取り巻く環境も違うけれど、全体的に発展し、上がっていく気配があるから、みんなものすごくエネルギーがある。そのころ、そう思った。
そして、その何もかもが混ざった空間でいきる人々の間には遠慮がない。
ドラマの中では、「中国ドラマ」の想像や期待をいい意味で叶えてくれるトンデモ展開が続く。
平気で女の子の顔に弁当をぶっかけるわ、
「さる」ってあだ名をつけたり、
女の子が男の子に向かって「このパイナップル頭が失せろ!!!」みたいなこと平気でいったり。
ただの演出・・・と言えど、日本のテレビでやれば、すぐに苦情が飛んできそうなことばかりだ。
でもその全てがいい。
演出が過激だからいいのではない。
ぜんぶが、ちゃんと懐かしさを連れてきてくれるからだ。
上海の女は強い、そう昔から言われているけれど、
ちゃんと「上海の女は強く」描かれている。
老人を大切にする中国の若い人の心が、ちゃんと描かれている。
中国の高校は厳しくて、制服は無くって、ジャージが制服みたいなもので。
中国の人の服装はやっぱり日本のそれとは少しずつ違って、中国の人だなぁという感じがする。
そうやって昔から長く続く流れの中に、新しい流れが編み込まれている。
若い人はタピオカミルクティーをよく飲んで、携帯電話で支払いをすませ、wechatで会話をする。
女の子は、韓国風の透明感あるメイクをしている。
バイトだってそれなりの給料が出るようになって、楽しそうに大学に通いながらお金を稼いでいる。
そうやって少しずつ変わって、少しも変わらない上海の姿が、
本当に懐かしくて、心からキュンとさせられるのである。
高校生のとき、上海で誰かの家に集まって、展開にドキドキしながら見た「花より団子」をこんなに懐かしく、愛おしい気持ちで見ることになるとは思っても居なかった。
秋の夜長が、こんなに優しい気持ちで過ごせているのは初めてかもしれない。
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