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天然ゴム実用化の歴史

天然ゴムの発見
 1493年、新大陸を発見したコロンブスの二回目の航海にて、彼らは西インド諸島(現在のハイチ)の先住民の子供達が木の樹液を固めたボールで遊んでいるのを見つけ、そのボールを持ち帰った。
 ヨーロッパに初めてゴムが伝わったきっかけとされている。

ゴムノキ 参考画像
ゴムノキの樹液 参考画像

 パナマのゴムノキ(ゴムの木)はパナマゴムという品種だが、日本で観葉植物として流通しているのはインドゴムと呼ばれ、北西インドからマレーシア辺りを原産としている。

 ゴムノキから採集された樹液はラテックスと呼ばれ、ラテックスを固めたものが天然ゴムだ。我々が使っているゴム手袋や接着剤などの原料である。

チャールズ・グッドイヤー(Charles Goodyear)

チャールズ・グッドイヤー 参考画像


 時代は大きく下り1800年代、ゴム製品が様々に開発され始めたが耐久性に問題があった。ゴムは劣化しやすい。低温下では弾力性が失われ、高温下では粘着性が生じたり亀裂が入ったりする。紫外線にも弱い。
 現代人の感覚としても、先入観なしにゴム製品を見てみれば、この不思議な素材の可能性を強く感じるのだから、当時の人々のゴムへの期待感は相当のものがあったと推察させられるが、実用性が伴っていなかった。

 そんな問題を解決したのが、チャールズ・グッドイヤーという発明家だ。

 彼は1800年にアメリカに生まれた。学問した後に実家に帰り農機具の製造業を営み、その後フィラデルフィアに転居して同じように農機具を作る。
 初めは好調だったが徐々に雲行きが怪しくなり、最後は破産した。債務者として刑務所にも収監された。
 彼は30歳頃からゴム製品に強い興味を持っており度重なる失敗と試行錯誤を経て、1839年、ゴムと硫黄を混ぜると強度が高まる(=加硫法)ことを発見した。
 加硫法によって架橋構造(かきょうこうぞう)が出来る。名称からイメージできる通り天然ゴムの分子の鎖の間に硫黄が橋を作ることで分子同士が強固に結びつき、弾力性と耐久性が高まり、耐熱性・耐寒性まで獲得する。
 もはや当たり前になっていて驚く機会もないのだけど、車のタイヤは毎日地面とグリグリ摩擦してもへっちゃらだし、消しゴムは握ってもグニャッとならないし、ホースなんて春夏秋冬を屋外で過ごしても裂けずに使用できる。
 これらはすべて加硫法のおかげだ。凄すぎるだろ。

 加硫法がなければ、我々は今も夏はベタベタ冬はコチコチのゴムを使い続け、あらゆるゴム製品の寿命は短く、安定性と安全性が保障されていなかったかもしれない。チャールズ・グッドイヤーは世界を変えたと言っても過言ではない。

チャールズ・マッキントッシュ(Charles Macintosh)

チャールズ・マッキントッシュ 参考画像

 もう一人、ゴム製品製造において忘れてはならないチャールズがいる。
 チャールズ・マッキントッシュ(Charles Macintosh)だ。
 彼の名前「マッキントッシュ」を耳にしたことがある方も多いのではないだろうか。古のapple製品ではない。
 防水布のコートが有名なブランドMackintoshだ。Mackintoshはこの科学者の名前に因んでいる。
 ここまで言ってしまえばほとんどネタバレなのだけれど、ご想像の通り、彼は防水布を発明した。

 彼は1766年にスコットランドで生まれ、趣味で化学の研究を行っており、好きが高じて化学物質の製造を始めた。
 当時の製鉄業で用いられる石炭は副産物としてコールタールというドロドロした厄介者を大量に生み出した。防水性があるので船の防蝕・防さび等に使用されたがあまりにも量が多い。海洋汚染の原因にもなる。

 マッキントッシュはコールタールが天然ゴムを溶かす性質を見つける。そしてゴムを溶かした液体を二枚の布の間に塗り付けて圧着することで、防水性のある布を発明したのである。
 しかし彼の防水布は耐久性が低く実用に耐えなかった。天然ゴムの弱点を克服出来てていなかったのである。
 ここで先述したグッドイヤーの加硫法が生きる。防水布の共同開発者であるトーマス・ハンコック(Thomas Hancock)は防水布の実用のために加硫法を導入した。 

トーマス・ハンコック 参考画像

 そして出来上がった耐久性のある防水布でコートを作った。イギリスは雨の多い国だ。コートは大ヒットする。そして現代まで続くMackintosh社が生まれることとなった。


まとめ

 簡単ではあるがゴムの発見から実用に至るまでの2人のチャールズ加硫法を紹介した。
 ゴムという素材には不思議な魅力がある。
 伸縮性、弾性、粘性があり、衝撃を吸収し、柔らかい。柔らかさはそれだけで価値がある。

 アメリカの心理学者ハリー・ハーロウ(Harry Harlow)が行った人の心がないとしか思えない残酷な実験代理母実験」というものがある。
 針金で作られミルクを提供してくれる母親と、柔らかい布で作られミルクを提供しない母親を作り、小猿がどちらを選ぶか実験した。
 結果、小猿はミルクを飲むときだけ針金母に近づいたが、それ以外は布母に抱き着いて安らぎを求めたのである。また布母が近くにいると安心して周辺の探索もできた。
 この実験は愛着形成において身体的な接触は食事よりも重要であることを示すものだが、我々が根源的に柔らかさを求めることも示唆しているだろう。
 柔らかさは好ましさだ。ゴム製品は第一印象に加点されて始まる。だからこそ大いに技術が進歩し、これからも我々の生活に身近な素材として活躍するのだろう。

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