虎白1月号
発達障碍の王女
第1話 転生
「はぁー、私はなんで人と違うのだろう?」
そう考えるのが辛い、特に最近は生きるのに嫌悪感を抱くほど嫌だ……
こういう考えになったのは、遡る事一年前の冬のとある出来事だった…
「やったー、これでいじめから解放される」
私は、中学までいじめに会っていた。その為、いじめの少ない地元の高校に進学する為に必死に努力をして無事に入学をした。
しかし、入学後待ち受けていたのは、これまでとはまた違った新たないじめだった。
「おい、結奈体力なさすぎでしょう」
「てか、考え方幼すぎでしょう?」
「結奈さん、少しは自力で解決してくださいよ」
こんなのが私の日常だ。先生も同級生から嫌がらせ行為を受けるのが日常で、そんな事を受けていると次第に勉強と言うよりかは学校と言う場所に行きたくなるものだが、私は親が厳しいのもあってか無理やり学校に行っていた。
そんな事を考えていると身を切るような寒い冬の季節のとある日のことであった。私は、今日も学校と言う名の強制労働を終えて教室から出ようとした時だった、担任が私を呼び出して来たのだった。
「結奈、後で応接室に来てくれ」
そう言うと担任は、洗濯物かごを持ってどこかに去って行った。
何か、嫌な予感がする・・・・・・
そう思いながらも私は、言われた通りに応接室に向かった。私が応接室と呼ばれる所に行くと少し高級な一人掛けのソファーが木目調の小さな机を挟むような感じで二席ずつ置かれていたのだ。
「結奈、今回呼び出したのはわかってるやろう?」
そう担任は、私に高圧的な態度で質問をしてきたのだった。
「進級の件ですか?」
そう私が答えると担任は、このままの成績では進級が出来ないと言う事を告げてきた。まぁ、高校は義務教育ではないから頭が悪ければ進級や卒業が出来ない事は知っているが、今の世の中で高校出てないと就職先なんかないと言うのも事実で、進学をしたくて進学したわけではなかったので、追試の為に今から勉強して置けと言う忠告でも言われるのかなと思って聴いていた。
しかし、担任は私が一番嫌う提案と言う名の命令を言って来たのだ。
「そこで、お前に発達障碍の検査を受けてきてこい」
私は、全く持って理解が出来なかったのだ。なぜなら、自分はそう言う風に思っていないのもそうだし過去に何度も検査したが、異常は認められなかったのだ。
「嫌です。なんでありもしない為に検査しないといけないのですか?そんなの時間の無駄でしかないじゃないですか?」
そう私は、不機嫌そうにくそ教師に向かって言った。
だって、過去に検査をしても異常性が見つかってないと言う事は、事実であって発達障碍と言う障碍じゃないと言うのが明白である。だって発達障碍であるならば、幼少の頃からその症状は見られているし、これまでの検査に置いて異常性が確認されるはずだ。ましてや親がその情報を私に隠すメリットが無いのに隠すのかと言う疑問が生まれる。
しかし、これまで親が私にそう言った事を言ってこないのであれば私は、発達障碍ではない、別の精神疾患の可能性があるからの検査に行けと言うのなら別に今すぐにいく必要が無い。精神病なんて、所詮気の持ちようによって何とでも出来るものだからと言う風に考えていた。だからだろう、わざわざ時間と金を無駄にしてまで検査をする為に病院に行く必要が無いと言う私なりの持論を言ってしまったのだ。
「なら、留年する方向でいいのだな?」
さすが大人と言う他無い。教師とて大人と子どもと言う区別をするなら大人だ。大人と言うのは、大抵汚い手段を使って相手を自分の思い通りに操り人形にする為に汚い手段を使うものだ。そしてこの考えは、いつの世も変わらないものである。どこかで聞いたが、馬鹿は賢い物に騙されて使いつぶされると言う事を聞いた事がある。まさしく今の私の幼稚な考えをまるで手に取るように分かっているのだろう。クソ担任は、私に対して圧力をかけてきた。勿論だが、留年と言うのは嫌だ。同じことをもう一年する事になると言う事よりも高校は、大学と違って年齢関係ないと言うわけではないのである。だから留年と言うのは、したくないのだがこれ以外の方法が無いと言うのも事実である。
そう言う風に唸りながら十分ほど時が流れて、私はこの苦渋の命令を受け入れる事にした。
「わ、わかりました」
そうして私は、地域の中で最大クラスの総合病院に向かい受付を済ませて、受付の人が私を呼びにやってきたのだ。そうして私は、診察室の中に入ると一人の美しい白髪のおじいちゃんがにこやかな顔で私を向かい入れてきた。
「今日はどうされたのですか?」
「実は・・・・・・」
私は、白滝と書いてある名札を見てこのお爺ちゃんが白滝と言う人なんだと言う事を認識した。そのお爺ちゃんに私は、これまでの事を一通り話すした。
「・・・・・・と言うことなんです」
「そうですか、一度検査をしてみますので、日を改めてまた来てなぁ」
「検査ですか・・・・・・」
「検査と言っても、そう難しいものではないから気楽にしておけば大丈夫じゃよ」
そう私は、半ば諦めかけたように言葉を吐き出すと白滝のお爺ちゃんは、何も心配する必要は無いよと言う感じで私の不安感を無くすような感じで言って、私は、診察室を後にして帰宅の途に就いたのだった。
そうして検査を終えて初診日から二週間が経った日、私は残酷な現実と向き合う事となる事を知らずに病院の診察室に入った。
「白滝先生、結果はどうだったですか」
そう私は、不安と優越感と言う感情が入り混じる中、お爺ちゃんに結果を聴く事にした。
「うーん、結果は軽度の発達障碍じゃな」
そう言って医者は、私にとって辛い現実を突き付けてきたと同時に私の中で何か心の中で大事な何かが壊れた気がしたのだった。そんな私だが、この病気で言われているある一つの疑問を白滝のおじいちゃんに聞く事にした。
「白滝先生、この病気は完治しないと言う事は本当なの?」
そう私は、白滝のおじいちゃんに何気ない質問を投げた。
「確かに、完治は出来ないのじゃが、薬によって症状を緩和する事は出来るのじゃが、薬と言っても、色々種類があってなぁ」
そう言うと白滝のお爺ちゃんは、引き出しから三つのリーフレットを出して、一つずつ説明をし始めた。その説明を要約すると、私の病気は、ADHDと言う俗に言う注意欠陥多動症と呼ばれるもので、その中でも多動と言うのが強いらしいのだ。あとは、自閉症とかも併発しているらしいのだが、自閉症に特化した薬は現在の所ないらいしいので、多動を抑える薬であるコンサータ・インチュニブ・ストラテラと言う三つの薬があるらしく、コンサータは依存性が強いが効果は強いらしいのだ。そしてストラテラと言うのは、コンサータの逆で依存性は低いが効果は弱い為すぐに効果が現れないものであると言うことだった。その中間に位置するが、最新の治療薬であるインチュニブと言う薬なのだ。
「で、どれがいい?」
そう言って三つの薬のリーフレットを私に差し出してきた。私は、三つの薬のリーフレットを見てその中から最新の治療薬であるインチュニブと言う薬に決めた。
「これでお願いします」
「なら、この薬を処方しておくから、また来週にでも話を聴かせな」
そう言って私に先生は、最新の治療薬であるインチュニブを処方して貰って病院を後にした。
病院に行った翌日私は、くそ教師に昨日の病院で言われた結果を伝える事にした。
「先生、昨日病院に行って来て、軽度の発達障碍と診断されました」
「あ、そうか」
そう言って先生は、職員室に戻って行った。
「何か、嫌な予感がするけど気にしすぎかな?」
そう呟いて私は、教室に戻った。しかし、私の嫌な予感と言う物は何気に当たる物である。今回に限ってそんな事は無い物だと信じたいが、運命と言う物は残酷な物だと言う事をこの時の私は、知らなかったのだ・・・・・・
そうして時が流れて一年が経過して運命の季節がやって来た。
「ですから、先生私は、大学に行きたいんです」
「だから、結奈が行ける大学なんてないんだ」
なぜこの状況になっているのかと言うと今年の秋まで遡る事になる。私も高校二年生になったので進路にそろそろ決めないといけない時期に差し掛かっていた。そうして担任と進路の面談をしているのだが、担任は就職をさせたいらしいのだが、私は大学に進学をしたいと言う意見で真っ向から対立している状態なのだ。だが、今回の面談は何かが違うと言う事を私は、察していた。その予感は、残酷にも的中してしまう事になるのである。
「結奈、主任を呼んで来るから待っておけ」
私は、一瞬で血の気が引くのが分かった。そして先生が出て行った。
「はぁ、またあの熱血教師の話すのか」
去年の担任は、私の学年主任と言う立場と兼任していた為、今年から新しい先生が来てそれが私の担任になったのだ。まぁ、負担軽減があるのだろうけど私にしたら厄介な先生が増えたと言う感じである。
そんな事を思いながら過ごしていると主任と担任が帰ってきた。
「結奈、お前の事を考えて指導してくれているのだぞ?」
「はぁ、そんな感じには見えませんけど?」
「結奈、お前にそんな事が言えるだけの成績はあるのか?」
私は、沈黙をした。確かに成績は悪いし、就職コースの私が大学に進学なんて無理な話しだ。そんな事は、百も承知しているしかし、去年みたいに担任の言い訳になるわけには行かないのだ。ここで就職を選べば教師の言いなりになるだけじゃなく親から離れたいと言う私の悲願とも言える計画がすべて台無しになってしまうその為にも、大学進学と言う道を叶える必要があったのだ。
「だけど、日本史だけで行ける大学に行けばいいのでわ?」
「お前、そんな大学があると思うのか?」
「仮に進学しても、お前の苦手な英語を学ばないといけないのだぞ?」
すると少し黙っていた主任が口を開いた。
「あのさぁ、結奈お前の言い分も分かるが、大学行けば俺たちみたいにお前の事かばってくれる人はいないのだぞ?」
「主任の先生の言う通りだ。就職なら少しは、お前の事を会社側に説明してやるが大学はそんな事してくれんぞ?」
「別にそんな事しなくても大学に行ってその事を学べばいいのではないですか?」
私がそう言うと主任は、呆れながら深いため息をついた。
「お前にさぁ、そんな事が出来るとは到底思えないな」
「と言いますと?」
「だってお前は自分の障碍の事を認めてないのだろう?そんな奴が変わるとは思えないな」
私は、沈黙した。だが、なぜだろう目から冷たい涙が溢れて出て来た。
「はぁ、もういいからわしの車で駅まで送ってやるから校門で待っておけ」
私は、そう言われて荷物を持って校門で待って先生の車で駅に向かった。
「じゃ、親にしっかり伝えてくれよ」
「あ、はい」
そう主任が言うと私は、主任の車から降りてホームに向かって歩いた。
もう、この世界に生きるのが嫌だ、死んだら楽になれるのかなぁ・・・・・・
そんな事を考えながら電車を待っていると機械的な中性ボイスの案内が誰も居ないホームに鳴り響いた。
「まもなく特急列車が通過します、黄色線までお下がりください」
そう駅のアナウンスと共に電車の接近を知らせる音楽が流れた。私は、自分の学生証を破り捨てて、胸元から一枚の遺書を鞄の中に入れた。
「来世があるなら、健全で生まれ変わりますように」
そう呟いて薄暗い闇と電車の光に照らされながら私の命は散った。
「う、うーんここはどこだろう?」
そう、体を起こすと辺りには、白色の菊の花と真っ赤に染まる彼岸花が辺り一面に咲き誇っていた。
「そうか、ここはあの世かー」
そう思いながら体を起こして、歩きながら立派な菊の花や彼岸花を見ながら歩いていると立派な朱色に塗られた鳥居とその奥にまる時代劇で見るような建物が見えた。
「あれは、神社かな?」
私は、気になったので鳥居をくぐってその建物の中に入って行った。
「立派な建物だなぁ、まるで名古屋城の御殿みたいだなぁ」
そんな事を呟きながらも建物の中を歩いていると後ろから誰かが声をかけて来たのだった。
「あなた、ここに何か用?」
「いや、ここはどこなのかなぁと気になったんで、なんで帰ります・・・・・・」
そう言って私は、帰ろうとする私に対して彼女が私を呼び止めてきたのだ。
「ちょっと待ちなさい、あなた」
「私に何か用ですか?」
「ねぇ、あなた天下統一に興味ない?」
そう彼女が妙な提案をして来たのだ。
「いや、興味はありますけど、何か?」
そう言うと少女は、私の目の前に一枚の地図を持って来たのだ。
「ねぇ、あなた戦国時代は好きかしら?」
「えぇ、好きですけど、その前にあなた誰なの?」
私は、ずっと気になっていた事を聴く事にした。すると少女は、忘れてみたいに自己紹介を始めた。
「私の名前は、萌花姫命でこの社の管理をしているのよ」
そう彼女は、自慢げに自己紹介をしたが、私は正直に言うと彼女に興味はなかった。
「でその神様が、私みたいな人間に何か用なんですか?」
そう言うと神は、深いため息をついた。
「はぁ、あなた驚かないのねぇ」
「まぁ、死んでしまっているのであまり驚かないですね」
「まぁ、いいわ。それよりあなた、やり残した事はないの?」
そう言うと私は、視線を逸らしてしまった。確かにやり残した事は沢山ある。
「もう、いいんだよ、死んでしまったんだし・・・・・・」
生きている間は、なんでも出来るが死んでしまっては何も出来ない。どこで聞いたか知らないが私の親がよく言ってた言葉だ。
そう言うと神は、ため息をついた。
「なら、私にあなたが生前やろうとしてた事聞かせてよ?」
「まぁ、いいですけど詰まらないですよ?」
「それでも聞きたいのよ」
神は、私に向かって目をきらきらしながら見つめてきた。
私は、神を名乗る彼女に対して深いため息をつきながらも彼女に私の夢について話す事にした。
「はぁーわかりましたよ、その代わりに笑わないでくださいよ?」
「えぇ、もちろんよ」
「私の夢は、差別や争いの無い平和な世の中を作りたかったんだよね・・・・・・」
「いい夢じゃない、せっかくならその夢叶えて見ない?」
「えぇ、そんな事が出来るの?」
「うん、少しわたしについてきて」
そう言うと神は、私の手を引っ張りながら建物の奥の部屋に連れ去れて行った。
「ねぇ、ここはどこどこ?」
私は、彼女に連れられて四畳ぐらいの部屋に連れて来られた。
「えぇ、私の部屋だけどどうしたの?」
普通の友達みたいな感じで、私の質問に答えたのだ。
「いや、いや普通初めて会った人を部屋に招いたりする?」
「うーん、別に気にしないよ?多分、あなた私に襲ったりするような人じゃないでしょう?だから部屋に招いただけだよ。普段なら内陣と言われる所で相手するけどね、後ずっと立ってるのしんどいでしょ?そこらへにあるソファーに座っておいてー」
そう言いながら彼女は、タンスの中をゴソゴソする彼女を見ながら私は、彼女の言うソファーに座って待つ事にした。
しばらく待っていると彼女は、一枚の黒の紙に金色と朱色の字が書かれた紙を持ち出した。
「あの、その紙ってなに?」
「あぁ、この紙は、転生神霊と言う霊札だよ」
そう普通の札みたいな感じで彼女が言うけど、明らかに普通の札じゃなく何か特別な札の物だと言う事を察した私は、彼女に札について聴く事にした。
「その霊札って特別なものでしょう?私みたいな人間に使って大丈夫なの?」
「えっ別に特別な物じゃないよ?私しか使えない札だから大丈夫だよ」
「それを特別と言うんだけど、本当にいいの?別の人に使った方がいいよ?」
私は彼女に提案をすると彼女は、首を横に振った。
「私があなたと一緒に行きたいのよ」
「えっ、私とですか?」
「えぇ、あなたみたいな人を待っていたの」
私は、ふと彼女に気になった事を聴く事にした。
「ところで、転生って元の世界に戻されるの?」
すると神は、首を横に振った。
「流石に元いた世界に戻る事は出来ないけど、あなたが好きな事とあなたの夢が叶えられる世界を作り出す事は可能よ?そして私も一緒について行ってあなたのやりたい事を私がサポートする為の霊札だよ。それでどのような世界に行ってみたいの?」
そう答える彼女に私は、子供の頃に夢見ていたあの世界に転生が出来るのかについて聴いてみた。
「なら、剣と魔法の世界に転生する事って出来るの?」
こんな無茶苦茶な要素に戦国と言う異色とも言える世界が実際に作れるものなんだろうかと言う一抹の不安を抱えながら彼女に言ってみた。
「えぇ、余裕よ」
そう言うと彼女は、虎と熊の絵が描かれた襖を開けた。
「ねぇ、こっちに来て」
そう言うと彼女は、私に手招きをしてきた。私は、彼女の手招くされるまま違い棚と掛け軸がかけられた同じぐらいの部屋に通された。
「あのぉ、ここはなにするところなの?」
そう彼女に聞くと彼女は、何当たり前の事を聴いているのと言う感じで見てきた。
「なにって問われると霊札を機能させるための部屋かな?」
そう言うと彼女は、違い棚に置かれていた巻物を取り出して掛け軸の所に掛けた。
「じゃ、これから転生神霊を機能させるけど、この世界で大丈夫よね?」
そう彼女は、私に最後の確認をして来た。
「うん、問題無いよ?」
「じゃ、さっき渡した紙のやつ読んでくれたらいいから」
「わかったよ」
「じゃ、始めるよ?」
そう言うと彼女は、霊札を取り出して彼女と私は、呪術を展開し始めた。
「北方に君臨するは、緑帝の玄武。南方に君臨するは、朱王の朱雀なり」
彼女が唱えに続いて私も呪術を唱える事にした。
「西方に君臨するは、白帝の白虎、東方に君臨するは、水王の青龍なり」
「「我らの願い奉るは、守護獣の筆頭にして四神の長の麒麟よりし授かりし天神霊書の覚書の書に記載なり我ら願いを聴き給え、汲々如率令」」
そうして私と彼女は、呪術を唱え終わると不思議な光に囲まれながら私の設計した世界に転生して行った。
第2話 当主の就任と母の死
「兄上、どうすんだ?」
「お前達は、居城に籠って結奈の警護してくれ」
「しかし、兄上の率いる軍では王女率いる軍には、到底勝ち目はないぞ?」
「だがここに居ては、若宮家の血が途絶えるそうすれば、こやつの祖父に顔向けなど出来ない・・・・・・」
「わかりました兄、いや陛下、ご武運を・・・・・・」
「結奈、すまぬな、情けない父で・・・・・・」
「お父様・・・・・・」
「姫様、参りましょう・・・・・・」
「うぅ、またあの日の夢かぁ」
そうか、今日であの出来事から十三年が経つのかぁ・・・・・・
「結奈、朝食の支度が出来ております」
「そ、そぅ、ありがとう」
「大丈夫なの?」
「えぇ、大丈夫よ、なんでもないわよ・・・・・・」
私にとって今日は、二つの意味で大事な日なのだ。一つは、私の誕生日で、もう一つは、父と兄の死によって私の家の没落と言うある意味呪われている日でもあった。
「ねぇ、萌花、お母さんわ?」
「お館様でしたら、自室で執務を取っておられます」
「はぁ、お母さん体弱いのに・・・・・・」
この状況になったのは、十三年前に起きたお家騒動が原因なのだ。
十三年前……
ここには、若宮王国と言う巨大な王国があった。しかし、妹の姫華を総大将とした反乱軍が王城に攻めて来た。そして父や兄達は亡くなった。
「結奈様、少しよろしいでしょうか?」
私と秘書の萌花と一緒に朝食をしていると一人の家臣が入って来た。私達は、箸を置いた。
「どうされたのですか?」
「結奈様、この後大広間にお越しいただきませんでしょうか?」
私は、いきなり言って来た家臣の言葉に驚いた。そんな私を見て、萌花は家臣に質問をした。
「どなたが、結奈様をお呼びなのですか、後あなたは誰なのか答えなさい」
そう言うと家臣は、口を開いた。
「失礼しました、私は、お館様の侍従でございます」
「で、要件はなにかしら?」
「お館様より、結奈様を大広間にお越しいただきますよう、お館様直々のご命令でございます」
「結奈様いかがいたしますか?」
萌花は、私に聞いて来た。私もこのような呼び出しは、始めた。なぜなら、いつもは自室に呼び出すのに今回は、大広間と一番格式の高い部屋に呼び出されたのだからだ。
「わかりました、朝食が済み次第支度をして向かいますのでお館様にお伝えください」
「かしこまりました、結奈様」
そう言うと侍従は、去って行った。すると萌花は、私に聴いて来た。
「ねぇ、結奈少し聞きたいのだけどあなたのお母さんってどんな人なの?」
「そうか、萌花はまだ会った事が無いのね」
「えぇ、しばらくの間あなたと離れていたからねぇ・・・・・・」
「で、優しい人なの?」
そう言う風に聞いて来る萌花に私は、少し迷った。なんせ母との思いではほとんどいい思い出はないのだ。
「えっ優しいのかな、私にとって鬼のような人だけどね」
「それって結奈だけじゃないの?」
「酷くない萌花?」
「酷くないわよ、それよりも待たせるのは良くないし早く用意して大広間に向かうわよ」
「う、うん」
こうして私は、自室に戻り支度をして大広間に向かった。
三十畳と言う広さを誇る大広間に着くと既に大勢の家臣が集まっていた。だが、いつもと違って皆表情が硬いと言うか暗いのだ。私は、萌花に少し聞いた。
「萌花、なんで皆こんなに顔が暗いの?」
「恐らく、例の噂かと・・・・・・」
「あぁ、あの噂ね、お母様に限ってないでしょう」
例の噂と言うのは、一月前から城内に流れているお館様が隠居して私が当主になるのではないかと言う噂である。当然私もお母さんの容態を見ているが、そんな事はないだろうと信じていたと言うよりかはそう思いたいと言うのが本音である。
そんな事を考えていると上段の間の襖が開いた。
「お館様、ご出座でございます」
そう言うと全員が頭を下げた。
「皆さん表をあげなさい」
そう言って頭を上げるとお母さんが座っていた。すると家臣の一人が口を開いた。
「お館様、本日は家臣全員を招集されていかが致しましたか?」
すると、お母さんはため息をついた。
「皆が噂している通りのことです」
そうすると広間にいる家臣に動揺が走った。
「皆の衆落ち着きなさい、とりあえずお館様のご説明をお願いします?」
そう言って家老が静粛させるとお母さんは、説明をした。
「先の白虎城の戦いで、当家は甚大な被害を出したのは分かっておるな」
「それは分かっております」
先の白虎戦とは、昨年起きた戦争の事で、新帝國である白鷺軍と白虎城に籠る旧若宮王国軍との戦いの事である。この戦いによって虎臥家の当主である養父と義兄も亡くなったのだ。この時の戦争に私と母も虎臥城で白鷺軍と交戦をしたが、白虎城の落城と共に降伏をした。
「しかし、それは新帝國が原因であって当家はなにもしていないですか・・・・・・」
「確かにそなたの言う通りだ、しかし処罰を受けた違うか?」
そう言うと家臣達は黙り込んでしまった。それを気にせず言葉を続けた。
「ましてや私も先の戦で当たった傷のおかげで私の寿命も短い・・・・・・」
「お言葉ですがお館様、今の当家率いる者など・・・・・・」
そう家老が言った。確かに私もまだ十四歳だ。確かに家を率いるのはまだ早いのは分かっている。かと言って虎臥家の血族は私と新帝國の王女しか血は繋がってないのも事実である。
「結奈、ここに来なさい」
お母さんは、私を上段の間と呼ばれる一段上がった十畳ぐらいの所に来るように呼び出した。私は、理解が出来ないまま言われた通りに上段の間にあるお母さんの隣に座った。
「この結奈を虎臥家第五代目当主として就任させる」
そう宣言すると広間に居た家臣達は、驚きのあまりに言葉が出なかった。すると家老が口を開いた。
「お館様正気ですか、結奈姫はまだ十四の少女でございますよ?」
「それがどうしたのですか?」
「いえ、少々早すぎではないかと思いますが・・・・・・」
「先代は、十九で家を継いでいますけど何か?」
「しかし、十四の少女に率いれますでしょうか?」
「あなた、この子の異名を知ってそれを言えるの?」
「いや、それは存じていますが・・・・・・」
「なら文句はないわよね」
そう言うと家臣達は、頷いた。こうして私は、虎臥城の主にして第五代目の当主に就任をした。私が当主として就任して一週間ほどの日が経ったある日の夜のことだった。
「御隠居様、大丈夫ですか?」
「急げ、医者を呼べー」
「灯りを付けろー」
その夜、私は、八畳ぐらいの自室で書物を読んでいたのだが、城内がやたらと騒がしかった。
「やたら騒がしわね、まぁ私に関係ないか」
そう呟いて私は、書物の続きを読む事にした。
「大変よ、結奈、お館様が…」
そう血相を変えた萌花が私の部屋に入って来た。私は、萌花の顔色見て何かお母さんにあったのだとすぐに察した。
「とりあえずお母さんの部屋に案内して、状況は行きながら聴くわ」
そう言って私は、母から貰った水鏡を閉じて自室を飛び出した。
「御隠居様の容態が急速に悪化して今夜にでも亡くなるのではないかと、医師の方が・・・・・・」
「回復の見込みはないの?」
「いえ、ないとの事です・・・・・・」
「そんなはずはないわ、あの人に限って・・・・・・」
そんな会話をしていると母の部屋についた。私は、勢い良く部屋の襖を開けた。
「お母さん、目を覚ましてよ・・・・・・」
私が付くころには、母は目を瞑ってまるで今でも消えそうなろうそくの火のような息の中母は、薄っすら目を開いた。
「うるさいわよ、当主が情けない・・・・・・」
「でも・・・・・・」
「桔梗、すまぬがこの馬鹿娘と二人で話したから出てくれぬか・・・・・・」
「御意、お館様」
そう桔梗と呼ばれた家臣は、萌花と医者と共に母の部屋を出た。
それと同時くらいだろか、お母さんがか細い声で話し出した。
「結奈、そんな顔しないの・・・・・・あなたを見るのが空からになるだけなのよ?」
「そんなの嫌だよ・・・・・・」
泣きそうな心を抑えながら返事をすると母は、それを見透かすような感じで私に言って来た。
「あなたは、この家の主なのよ・・・・・・」
「そんなの関係ないよ・・・・・・」
「大切な人の死は辛い事よ。でもそんな事・・・・・・沢山あるのよ?」
「うぅ、うん」
「ねぇ、結奈、最後に良い当主の秘訣を・・・・・・伝えてあげようか?」
「うぅ、うん」
「捨てる神あれば拾う神ありよ・・・・・・」
「どういう意味よ・・・・・・」
「あなたの変な優しさや努力は、いつか報われると言う事よ・・・・・・夢叶えなよ・・・・・・結奈―」
「お母さん、お母さん-----」
その夜私の母は、月明かりと太陽に照らされながら天界にある若宮宮殿に向かった。
その後の事は、あまり覚えていない。唯一覚えていたのは、十畳ぐらいの母の部屋で、母の霊体を抱きしめながら寝ていたことぐらいだ。普通は、死ぬと冷たくなるのだがその日だけは、母の生きている時よりも暖かく感じたのだ。
その後私は、母の葬儀を行ったが私の心には、謎の穴が開いてしまった。