虎白 10月号

少女の居場所


第1話 いじめと消耗

 普通に生きなさい。普通に生きられないならこの国から出て行けばいいじゃない……
 そんな言葉で、人の価値なんか決められる世の中は変だなと思う。
 「はぁー今日はこれぐらいでいいか」

 そう呟いた私は、静かにタブレットの電源を押したのであった。
 「はぁー生きにくい世の中だな……」
 そう思いながら私は、机の時計を見たのであった。時計は、もう気付けば深夜十一時を指していた。
 「明日も学校かんごくに行かないと行けないのか」
 そう思うと心無しか身体が重くなるものである。だが、私の知っている世界と言うよりも親から教えられた常識と言うものに置いて、私みたいな中学生は学校に行かないといけないのである。高校入試と言う今後の人生を左右される戦争に勝ち抜く為に学校に行かないと行けないのである。でないと、この国で私みたいな凡人が生活をして行くのであれば、最低高校は出て置かないと今後の人生で苦労する事になると父から散々教えられてきたのだ。
 「せめて、高校は出て置かないと……」
 そう呟きながら私は、呪いの言葉のようにこの言葉を心の中で唱えながら目を閉じた。そんな中、ある日父から言われた言葉を頭の中をよぎったのだ。

 普通に生きられないならこの国から出て行けばいいじゃん‥‥

 そう言った父の言葉は、確かにそうだろう。だけど、私の中の私が許さないのだ。それは、今も学校でいじめて来るやつらから逃げるようで負けた気分になるからである。そうした葛藤を抱きながら、無情にも時だけは進んで言ったある日の朝であった。その時は、突然私に襲って来たのだ。

 「こら、もも。いい加減に起きなさい」
 「分かってるー」
 そう言って母が私の部屋に迎いながら言って来た。だが、起きようとしても身体が動かないのである。まるで、自分の身体の上に他人が乗っているようにだ。これが、アニメやゲームの世界なら私や他の人が近づいている為だけ見えないのかなと思うだろう。そして、一人になったらその姿を現して、みたいな展開だろうけどそんな夢みたいな話あるわけがないのだ。
 「もも、あんたいつまで寝ているのよ。あんた、あのくそ担任を見返すじゃないかったの?」
 そう一昨日の夜に私は、父と母との約束である、私を馬鹿にするやつらを見返すと言う約束を思い出した。
 「そうは、言っても身体が動かないんだよ」
 そう私は、母に訴えた。
 「あんた、そんなだから馬鹿にされるのよ。あのちんちくりん担任に甘えと馬鹿にされるのよ。さっさと着替えなさい、学校まで送ってあげるから」
 そう言って母は、私の部屋から去って行った。そんな母に私は、自分の気持ちを伝える事は出来なかった。もう、自分の為に母の人生を尊厳を失いたくないと思った。
 
 私って、なんで生きているんだろう……
 私みたいに母も妹も父のみんななんだ……

 そう思いながら私は、制服に腕を通して行く準備をした。おそらくこの時だろう。私の中で、何かが崩れ初めていたのだった。だけど、今となっては、どうでもよいのだ。

 そうして、学校生活と言う名を称した何かが始まったのだ。
 「おい、もも。この前、部活中にまたお漏らししたんだってな。汚たねぇー」
 「別にあんたに関係ないでしょ、あおい
 そう私は、言い返した。稲脇葵いなわきあおい、私の同級生でありテニス部に所属するエースであり、運動能力は学年の中でもトップクラスに良いのだ。
 「そうか、あんたって障害者っぽいから自分でお手洗いとか出来ないのか」
 そういつものように言って来た。そんな風に葵が言っているともう一人めんどくさい奴がやって来た。
 「葵、事実だとしても可哀想だよね。だって、ももはうちらと違うんだからさ」
 そう言うのは、葵と同じ部活で活動する住友優芽すみともゆめだった。優芽は、この葵と同じ部活のテニスのペアを組むほど仲がいいのだ。そして、両方とも私よりも頭も運動も出来るのである。
 「でも、こいつの妹は優秀なんだろう、可哀想にな」
 そう言って葵たちが去って行くと同時に授業が始まる予鈴が廊下に響いた。
 
 いつもの事だ。どうせ、私みたいな出来損ないの人間なんか……

 そう、次の言葉が出そうになった時、後ろから声がした。
 「おい、もも早く授業行かんと遅刻するぞ」
 そう声をかけて来たのは、私が所属する剣道部の顧問の岩波いわなみ先生だ。正直に言って私は、この先生は苦手だ。だけど、どこか嫌いになれない先生でもある。
 「岩波先生、これありがとうございました」
 そう言って私は、先生に借りていた社会科の資料集を返した。
 「もも、次お前の教室だから、この教材持って行ってくれ」
 「あ、わかりました」
 そう言って私は、岩波先生から授業で使うのだろう。地図を持たされて教室に向かうのであった。そうして、いつも通り授業が進んでいき、副顧問の火神かがみ先生の授業も終わって、部活も終わり帰り道にある小川に架かる橋の上で立ち止まってしまった。

 はぁーもう、私の存在ってなんだろうな
 
 そう思いながら日が山向こうに消える風景に移る川を覗き込みながら考えてしまった。学校では、周囲と違うからと言っていじめられて、部活でやった事でも嫌な事を言われ、帰れば、どうせ親から妹と比較をされる。こんな私に居場所なんか、果たしてあるのだろうかと思ってしまった。なんなら、ここから落ちたらもしかしたら、そんなろくでも無い考えも私の頭をよぎった。

 どうせ、死ぬ度胸なんか、この私にあるわけないか……

 だって、本当に死にたいとかそう言う事でストレスや自分の気持ちが整理できる人間なら勝手にやっている。私の妹である雪心ゆきみ は、そうなのだ。その証拠に彼女の腕には、薄っすらとだが傷が残っていた。
 「こんな所に居ても仕方がないか」
 そう私は、呟くと橋に立てかけていた竹刀袋を持って家に帰ったのだ。だが、後に考えるとこの時には、私の心はある意味壊れていたのかもしれない。なぜなら、目から涙が頬を伝っていたのだった。

第2話 少女とお婆さん

 「ただいまー」
 そう言って私は、家に帰ると玄関には、誰か来ているのかいつもよりも靴が多かったのだ。
 
 誰が、こんな時間に来ているのかな

 そう思いながら私は、階段の踊り場に鞄と竹刀袋を置いてリビングに向かった。
 「あら、もも。お久しぶり」
 「あ、どうも。穂波お婆さん」
 そう言って、私は、水を飲むために食器棚からコップを取って水を入れていた最中に穂波お婆さんからこんな事を言われた。
 「あのさ、もも。私のいる学院に来ない?」
 「ちょっと、穂波。いくら何でも直球すぎるでしょ」
 そう私の母が穂波お婆さんに言った。名倉穂波なくらほなみ、私の母の妹で今は、海外で仕事をしている。そんなお婆さんが
、なんで突然私の家にやって来ているのか私は気になった。
 「まぁ、姉さんそんな怒らないでよ。姉さんの好きな、白狼堂の練り切りを食べなよ。ももは、この前来た時に言っていた水島マグロすしでも食べる?」
 「いただきます」
 「なら、冷蔵庫に入れてあるから取って食べな」
 そう言って、私は冷蔵庫にある鮨を取って机に座って食べた。そうして、私は、お婆さんの持ってきた鮨を食べながら穂波お婆さんの話を聞いた。簡単に言うと、穂波お婆さんの住む水島連邦みずしまれんぽうにある中学に編入へんにゅうで来ないかと言うものであった。
 「ありがたい話ですが、それは出来ません」
 そう私は、お婆さんの提案を断った。確かにお婆さんの提案は、もの凄く魅力的な案であった。しかし、今学校を辞めれば妹をこれ以上傷付けるかもしれないのだ。そうなれば、私自身が後悔する事になると分かっていたのだ。
 「分かったわ、今日の所は帰るわね」
 そう言って穂波お婆さんは、席を立った。そして帰り際だった、私に穂波お婆さんが一枚の紙切れを私に渡して来た。
 「もも、死のうと思いそうになったら、ここに一度電話しなさい。私達が迎えに行くから」
 そう言ってお婆さんは、帰って行った。私は、片付けをして鞄と竹刀袋を持って自室に帰った。

 私は、渡された紙切れを開けた。そこには、明日の夕方、白狼神社はくろうじんじゃの本殿の横で待っていますと書かれていた。
 「一体、どういう意味なのか」
 そう思いながらゴミ箱に捨てようとしたが、なぜか捨てらずにいた。普段ならこんな紙切れなんか捨ててしまうものである。だが、この時に限って捨てられなかった。もしかしたら、この地獄から抜け出せるのかもしれないと期待をしたのかもしれない。そんな事を考えながら私は、眠りについた。

 翌日の夕方
 今日からテスト期間と呼ばれる時期である。この時ばかりは、少し気が楽になるわけがないのである。
 「はぁーテストか」
 そう私は、テストと言うものがはっきり言ってしまえばみた苦手だ。大学とかでは、レポートとかと小論文みたいなものを出して成績を出す科目がある。そっちの方が、点数とかも出されないからありがたいのである。
 そう思いながら私は、穂波お婆さんに渡された白狼神社へ向かった。この白狼神社は、私の地域にある神社で、山の中にある神社で近くには、獣道も存在するような所にある神社だ。そこには、長い不揃いの石段を登って行かないといけないのである。
 そうして登り終えて私は、辺りを見渡すとそこに穂波お婆さんともう一人の少女と言うよりも私と同じか少し上の女子が立っていた。
 「誰なの、その子は」
 「私は、水島真緒みずしままおだよ。あなたの一個上だよ。あと私の前では自然のあなたで大丈夫だよ?」
 「自然な私……」
 そう私は、呟いてしまった。私には、その言葉少し難しく感じてしまった。普通の人であれば、普段通りの振舞いをすればいいのだろうと解釈するのだろう。しかし、私にはその理解が出来ないのである。自然と言う言葉に引っ張られてしまって、前後の文から真緒の言いたいことを汲み取る事が出来ないのだ。
 そんな私を見てか、真緒が私に声を掛けてきた。
 「一人でいるようにリラックスしてくれたら大丈夫だよ」
 そう言い直したのだ。多分、私が理解していない事を感じて言い直したのだろう。
 「大丈夫です、真緒さん私に何か用があるのでわ?」
 そう本来の私が出そうな所を部屋に閉じ込めて、真緒の目的を聞くことにした。正直に言って、真緒の言葉は嬉しかった。だけど、本来の私を見て人が離れるのは、もっと辛いのである。だって、本来の私は感情表現の豊かな私の事を言っているのだろうと考えてしまった。そんな私をこの世の中は、受け入れることは無いのであると考える事にしていたのだ。
 その努力をする事によって、周りの人の言うになれると妄信していたのだ。それをするごとに自分が傷つけている事を知りながらもやってしまうのである。すべては、妹や親が傷つかないようにするためであった。それ以外に方法が無いと自分に言い聞かせたのだ。
 そんな私に何か思う所があったのか、真緒は思う事があったのだろう。
 「いや、穂波がいつも話すももに遭ってみたいかっただけだから」
 そう言う彼女は、どこか寂しそうな顔をしていた。その姿は、まるで昔の私を見ているようで胸が苦しくなった。私は、心の中でふとこんな事を思った。

 最低な人間だ

 そう思った。私だって、自分の感情を素直に出したいのだ。しかし、それを許さない私がどこかにいるのである。そんな事を考えていると真緒が言葉を続けた。
 「もし、ももが今の現状が辛いなら、に来たらいいわよ」
 そう真緒は、一枚のリーフレットを私に渡した。
 「あ、うん」
 「それじゃ、私帰るね」
 そう言って、穂波お婆様と共に真緒は帰って行った。その後ろ姿に私は、自分の気持ちを伝えようとした。しかし、言葉が出なかったのだ。このモヤモヤする気持ちを真緒に対してなんて伝えた分からなかったのだ。

 そのリーフレットを持って私は、自分の自室でテスト勉強をしながらそのリーフレットが気になっていた。
 「見るだけならいいよね」
 そうして私は、真緒から貰ったリーフレットを見たのであった。そこ一枚のメモ書きした紙が挟まっていた。
 
 誰かに噓をつくとその人の信頼関係はもろくなるだけで済む。しかし、自分に噓をつくと感情が消える。そして、それが日常だと思うと感情表現が難しくなるのだ。そう、かつての私のように……

 そうメモ書きの下におそらくは、真緒の携帯電話だろう番号が添えられていたのだ。
 なんだよ、自分も同じだったと言いたいのかと思った。だが、いつもみたいに、怒りに身を任せてメモ用紙を破り捨てることが出来なかったのだ。
 「もし、真緒のように変われるなら行こうかな」
 そう思うとどこか心が軽くなった。だが、今の現状を逃げ出すのは、少し違う気がしたのだ。

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