11月11日、アゼルバイジャンのバクーでCOP29 (第29回国連気候変動枠組条約締約国会議)が始まりました(~22日)。
-国連広報センター:適応するか、滅びるか――国連、気候サミットCOP29での緊急行動を呼びかけ (UN News 記事・日本語訳)https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/51251/
-ユニセフ(日本ユニセフ協会):COP29開幕 「子どもの権利守る、気候対策を」 各国にユニセフ訴え https://www.unicef.or.jp/news/2024/0157.html
気候変動の文脈における人権の促進および保護に関する特別報告者をはじめとする複数の国連人権専門家も、11月11日付で声明を発表し、気候行動において人権保護に優先的に取り組むよう各国に求めています。
- OHCHR - COP29: States must prioritise effective climate action and sufficient finance in accordance with human rights, say experts https://www.ohchr.org/en/press-releases/2024/11/cop29-states-must-prioritise-effective-climate-action-and-sufficient-finance
一方、経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約(社会権規約)の監視機関である国連・社会権規約委員会 は、「経済的、社会的および文化的権利と持続可能な開発の環境側面」 (Economic, Social and Cultural Rights and the Environmental Dimension of Sustainable Development)に関する一般的意見の草案 を10月23日ごろ公開し、意見募集を開始しました(~2025年1月6日)。
- CESCR calls for written contributions to the draft general comment on Economic, Social and Cultural Rights and the Environmental Dimension of Sustainable Development https://www.ohchr.org/en/calls-for-input/2025/cescr-calls-written-contributions-draft-general-comment-economic-social-and
委員会はこれまで「持続可能な開発と経済的・社会的・文化的権利」 に関する一般的意見の作成 に取り組んできており、2023年2月24日にはこれをテーマとする一般的討議も開催しています(その過程で子どもたちとの協議の機会を持ったのも興味深い点です)。今回は、持続可能な開発全般ではなく、その環境に関わる側面と社会権との関連について掘り下げることにしたようです。気候変動をはじめとする環境問題を正面から取り上げた国連人権条約機関の一般的意見/勧告としては、女性差別撤廃委員会の一般的勧告37号(気候変動の状況下における防災のジェンダー関連の側面、2018年) や子どもの権利委員会の一般的意見26号(とくに気候変動に焦点を当てた子どもの権利と環境、2023年) がありますが、今回の一般的意見が採択されれば、それらに続くものとなります(なお、健康権の享受における人種差別についての人種差別撤廃委員会の一般的勧告37号 〔2024年〕でも、気候変動その他の環境問題と健康との関係について簡単に触れられています)。
一般的意見草案の構成 委員会が発表した一般的意見草案の構成は次のとおりです。
I.目的および範囲 II.委員会の実行 III.地球規模の環境危機の文脈における一般的な国家の義務 ・漸進的実現(2条(1)) ・中核的義務 ・利用可能な最大限の資源(2条(1)) ・国際的な援助および協力(2条(1)) ・域外義務と事業体(2条(1)) ・差別の禁止(2条(2))IV.地球規模の環境危機の文脈における具体的権利に関連した国家の義務 ・男女の平等な権利(3条) ・労働の権利(6条) ・公正かつ良好な労働条件に対する権利(7条) ・労働組合を結成しかつ労働組合に加入する権利(8条) ・社会保障に対する権利(9条) ・家族の保護(10条) ・十分な生活水準に対する権利(10条) ・到達可能な最高水準の身体的・精神的健康に対する権利(12条) ・教育に対する権利(13条・14条) ・文化的生活に参加する権利および科学の進歩による利益を享受する権利(15条)V.不利な立場に置かれた個人および集団にとっての含意 ・先住民族 ・農業、牧畜および漁業の従事者 ・将来世代VI.救済措置および説明責任
中核的義務 社会権規約委員会は、「各権利の最低限の不可欠なレベルの充足を確保することは各締約国に課された最低限の中核的義務である」 という見解を早い段階で明らかにし(「締約国の義務の性格(規約第2条1項)に関する一般的意見3号、1990年、パラ10)、それぞれの権利について何がこのような義務に当たるかを特定していますが、今回の一般的意見草案ではこの点に関わって次のように述べられています。
20.規約締約国には、経済的・社会的・文化的権利の不可欠なレベルの充足を確保する中核的義務がある。委員会は、このような不可欠のレベルは健康的な環境(安全な気候を含む)およびそのような環境の尊重に依存するのであり、各国は気候変動の緩和を要求されることを認識するものである。締約国には、これらの権利の不可欠なレベルの享受を短期的、中期的および長期的に保障するために必要な環境条件を保全することによって規約上の権利を充足する中核的義務がある。このような中核的義務の履行には、飲料水源の保護、生活環境における有害汚染物質の削減および重要な生態系(森林や湿地など)の保全が含まれるが、これに限られるものではない。このような文脈において、かつ優先的課題として、締約国は、社会権を不可欠なレベルで実現するために必要な環境上の基準(environmental baseline)を脅かす環境危害を防止する(または防止が不可能なときは緩和する)ために、利用可能なすべての資源を用いてあらゆる努力を払わなければならない。このような基本的環境条件を保全するための政策および措置においては、人権が尊重され、かつ、他のすべての経済的・社会的・文化的権利の不可欠なレベルの享受との慎重なバランスが図られなければならない。 21.国際援助を提供しかつそのための協力を行なう立場にある締約国その他の主体にとっては、このような中核的義務を履行し、かつ地球規模の環境危機を緩和する(または可能なときはその有害な影響を防止する)ことが特段の義務である。気候変動は、経済的・社会的・文化的権利の不可欠なレベルの享受そのものを脅かす。したがって、気候変動の影響を防止し、緩和しかつこのような影響に適応することは、国際協力の文脈におけるすべての国の重要な義務である。気候変動に対処するための国際協力との関連では、経済的・社会的・文化的権利の後退を意図せずして引き起こすことまたは他の環境上の脅威(生物多様性の喪失および環境汚染を含む)を悪化させることを回避するため、努力が払われなければならない。
その他、子どもについてとくに言及されている「家族の保護」 と、子どもに関わりが深い「教育に対する権利」 および「将来世代」 に関する箇所も訳出しておきます。正式に採択されるまでに大幅に修正される可能性もありますので、ご注意ください。
家族の保護(10条) 58.子どもは、気候変動および環境危害に対してとりわけ脆弱であり、汚染および有害化学物質の影響をとくに受けやすい。子どもは環境ストレッサーの影響をより強く経験し、その影響は生涯を通じて持続する場合もある。環境危害は、5歳未満の子どもに対してとりわけ苛酷な影響を及ぼす。環境劣化は、今日および将来の子どもたちの権利ならびに将来世代の子どもたちの権利に影響するものである。 59.子どもにとって、食料および水の危機は、栄養不良のリスクを含む特段のリスクとなる。家族にとっての稼得機会、とくにインフォーマル部門における稼得機会の破壊は、児童労働および極度の貧困の増加につながりかねない。気候関連事象は、学校脱落率を高め、精神的健康を支える社会的・経済的体制を破壊し、かつドメスティックバイオレンスにさらされる機会を増やす可能性がある。災害は、発達および情緒的ウェルビーイングにも影響し得る。とくに脆弱な状況に置かれている子どもは、環境危害からのさらに不均衡な影響に直面する。たとえば、環境危機は児童婚と関連する暴力の駆動因を増幅させるのである。 60.国は、子ども時代に有害物質および汚染にさらされることがないようにするための環境上の保障措置を執行するとともに、到達可能な最高水準の健康に対する権利を保障するべきである。国は、子どもに配慮し、権利を基盤とし、多部門にまたがり、包摂的かつ横断的であり、科学を基盤としており、かつ、子どもの権利の全面的かつ効果的享受のための関連の国際的指針に合致した措置をとらなければならない。措置には、子どもにとってのリスクの長期的アセスメントが含まれるべきである。このようなアセスメントにおいて、子どもは意見を聴かれかつ参加する権利を有する。国は、自分たちの将来に影響を与える決定における子どもと青少年の参加および包摂を保障するための保護のしくみを発展させるべきである。子どもが人権擁護者となるときは、人権擁護者としての子どもの地位を十分に承認することが求められる。
教育に対する権利(13条・14条) 73.教育は、人権であると同時に、他の人権を実現する不可欠な手段でもある。教育は環境保護においてきわめて重要な役割を有しており、気候変動、環境劣化および生物多様性の喪失への対処における鍵である。教育に対する権利は、教育が対処すべきものとされているこれらの同じ課題によって、危機に瀕している。たとえば、教育へのアクセス、教育インフラおよび教育上のアウトカムは、地球規模の環境危機、とくに気候変動による悪影響を受けている。極端気象現象、海面上昇、洪水、森林破壊、猛暑または厳寒、水へのアクセスの制限その他の課題は、通学、学習のプロセスおよび成果ならびに生徒のウェルビーイングを危険にさらす可能性がある。 74.持続可能な開発、人権および環境保護(気候変動を含む)のための教育は、生涯学習のプロセスとして、かつ良質な教育の不可欠な一部として評価されかつ捉えられなければならない。このようなタイプの教育は、あらゆる年齢の学習者に対し、相互に関連している世界的課題(気候変動、生物多様性の喪失、資源の持続不可能な利用および社会経済的不平等を含む)に対処するための知識、スキル、価値観および行為主体性(agency)を与えるものである。このような教育は、あらゆる年齢の学習者をエンパワーすることにより、十分な情報に基づく決定を行ない、かつ社会変革および地球への配慮のための個人的・集団的行動を起こせるようにすることにつながる。 75.気候変動に対処するための教育および訓練の重要性は国連気候変動枠組条約およびパリ協定でも認められており、その文脈において、各国政府は、気候変動関連の政策および行動に関してあらゆるステークホルダーを教育し、エンパワーし、かつその関与を得るよう求められている。環境に関する価値観が、教育および学校環境で用いられる教育手法、テクノロジーおよびアプローチを包含する形で、あらゆる教育専門職の養成および研修に反映されるべきである。国は、環境保護および気候変動に焦点を当てながら、あらゆるレベルの教育に持続可能な開発のための教育を統合しなければならない。 76.地球規模の環境危機は気候関連の移住につながることになろう。一部の地域は居住不可能になり、または洪水の被害を受けることになろう。学校インフラもこれらの変化の影響を受けることになり、人権を基盤とする空間計画の対象とされなければならない。委員会は、締約国に対し、遠隔学習のための解決策を構想しかつ実施するとともに、たとえば暑さからの保護、水および衛生設備へのアクセス保障ならびに通学路の状態の改善などを通じて、教育インフラが変化しつつある条件に適応できるようにする解決策を立案するよう、奨励する。教育へのアクセスを確保するためには、災害への備えに特段の注意を払うことが必要である。
将来世代 91.規約にはいかなる時間的制限も掲げられておらず、そこに掲げられた権利は人類のすべての構成員に適用される。規約上の権利は、将来世代の経済的・社会的・文化的権利を尊重しかつ保護する締約国の義務が認識されなければ、実現されることはないだろう。 92.委員会は、食料安全保障および関連の生計手段、十分な量の安全な水、社会保障制度の持続可能性、文化遺産の保全および継承、世代間衡平に影響を及ぼす公衆またな環境への容認し得ない危害、ならびに、規約上の権利を充足する持続可能な方法の利用との関連で、将来世代の経済的・社会的・文化的権利について懸念を表明してきた。 93.規約第2条に定められた漸進的実現義務および同第11条に定められた不断の改善の義務は、将来世代およびこれらの世代による経済的・社会的・文化的権利の公平な享受を正当に顧慮しながら解釈・適用されなければならない。すなわち、締約国には、持続可能な開発および地球規模の環境危機に関連する意思決定において将来世代の権利が考慮されることを確保する義務があるということである。そのための手段には、将来世代による経済的・社会的・文化的権利の享受を確保するため、現在の資源採収および持続不可能な消費・生産パターンを制限することも含まれる。
一方、今回の一般的意見草案には若者に関する言及はとくに見当たりません。気候変動をはじめとする環境問題への取り組みについて若者が重要な役割を果たしていることに鑑み、きちんと触れておく必要があるように思います。ご意見のある方は、募集要領 にしたがって来年1月6日までに意見書をお送りください。