国連・自由権規約委員会、子どもの国籍取得権をめぐる決定でオランダの規約違反を認定
自由権規約(市民的および政治的権利に関する国際規約)の監視機関である国連・自由権規約委員会は、個人通報制度に基づいて行なった決定で子どもの国籍取得権(規約第24条3項)に関わる問題を初めて取り上げ、オランダの規約違反を認定しました(2020年10月19日付決定/12月28日公表)。
★ OHCHR: The Netherlands violated child's right to acquire a nationality, UN Committee finds
https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=26631&LangID=E
★ UN News - Netherlands violates nationality rights: UN rights committee
https://news.un.org/en/story/2020/12/1081062
申立人は、2010年にオランダのユトレヒトで生まれたデニー・ジァオ(Denny Zhao)という少年です。委員会への申立ては、母親と弁護士が代理人となって行なわれました。
デニーの母親は15歳のとき(2004年)に人身取引でオランダに連れてこられ、売春を強要されていました。2008年に脱出に成功したものの、警察は人身取引犯を特定できなかったとして捜査を終結し、彼女は出入国管理法上「不法滞在外国人」に分類されています。父親とは連絡がとれず、息子の認知もされていません。
デニーの母親は両親から遺棄されたため中国の戸籍に登録されておらず、息子の国籍を証明する手段がなかったことから、デニーはオランダの登録記録で「国籍不詳」(unknown nationality)とされました。無国籍児として国際保護を得るためには、オランダ法上、「国籍不詳」から「無国籍」への登録変更が必要ですが、デニーがいかなる国の国籍も取得していないことを証明する確定的証拠は提示できなかったためそれも不可能で、母子は庇護申請を棄却された外国人用の施設に収容されたまま、ずっと退去強制のおそれにさらされてきました。
自由権規約委員会は、「子どもの権利」に関する委員会の一般的意見17号(1989年)*やUNHCR「無国籍に関するガイドライン4:無国籍の削減に関する 1961年の条約第1~4条を通じたすべての子どもの国籍取得権の確保」(PDF)も参照しながら、オランダによる規約違反を認定しました。
一般的意見17号(1989年) ※日本弁護士連合会訳を平野が修正
8.……この〔第24条3項の〕規定の目的は、無国籍であるという理由で子どもが社会および国によってより低い保護しか与えられないことを防止することにあるものの、必ずしも、自国の領域内で出生したすべての子どもに国籍を付与することを国に義務づけるものではない。しかしながら国は、すべての子どもが出生時に国籍を有することを確保するため、国内的におよび他国と協力してあらゆる適切な措置をとることを要請される。これとの関連で、国籍取得に関わる嫡出子と婚外子もしくは両親が無国籍者である子どもとの間の差別または親の一方もしくは双方の国籍上の地位に基づく差別は、いかなるものであれ、国内法上認められるべきではない。……
そのうえで、委員会はオランダ政府に対し、以下の対応をとるよう促しています。
● 申立人に対して十分な賠償を行なうこと。
● 無国籍者としての登録およびオランダ国民としての承認を求めた申立人の申請の棄却決定を見直すこと。
● 申立人の生活状況および在留許可について見直しを行なうこと。
● 将来同様の違反が行なわれることを防止するため、無国籍認定手続の設置、国籍申請資格要件に関する法律の見直しなどの措置をとること。
自由権規約委員会の古谷修一委員(早稲田大学法科大学院教授)は、今回の決定について、
「国には、自国の管轄下にあって他のいかなる国の国籍も取得できない無国籍の子どもが法的保護を受けられないまま放置されないことを確保する責任があります」
「国籍に対する権利は、個人、とくに子どもにとっての具体的保護を確保するものなのです」
とコメントしています(前掲プレスリリース参照)。
国籍を取得する権利は子どもの権利条約第7条でも保障されており、自由権規約委員会の今回の決定は子どもの権利委員会の個人通報審査にも影響を及ぼすと思われます。