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「障害のある子どもの権利」に関する国連・子どもの権利委員会と障害者権利委員会の共同声明(日本語訳)

 以下に掲げるのは、国連の子どもの権利委員会と障害者権利委員会が採択した「障害のある子どもの権利」に関する共同声明の日本語訳です。3月21日には共同声明のローンチ(発表)イベントが開催されていますので、そこでの議論の内容も踏まえ、別途コメントしたいと思います。なお、この記事の見出し画像はローンチイベントのフライヤーで使用されていた写真です。

共同声明
障害のある子どもの権利

子どもの権利委員会・障害者権利委員会

 (注)
2022年3月21日発表/3月22日公開(原文英語/Wordファイル
日本語仮訳:平野裕二
※細かい文言や脚注の表記方法は、今後の編集の過程で修正される可能性がある。なお、関連の一般的意見の日本語訳等へのリンクおよび目次は訳者が独自に付したものである。

1.子どもの権利に関する条約(CRC)と障害のある人の権利に関する条約(CRPD)は、すべての権利を権利の主体として認めている。CRPDは、障害のある人の固有の尊厳および「機能障害が人権の否定または制限の正当な根拠とみなされてはならない」という認識 [1] に基づく人権モデルを採用することにより、障害に対する医学的・慈善的アプローチの誤りを明らかにしている。両委員会は、CRCとCRPDに掲げられたすべての原則および権利が、障害のある子どもとの関係で相互に関連しており、かつ障害の人権モデルに裏打ちされていることを再確認する。


差別の禁止

2.両委員会は、障害に基づくあらゆる形態の差別、偏見およびスティグマが大規模に存在し、障害のある子どもの排除および周縁化につながり続けていることを深く懸念する。子ども、とくに障害のある子どもには、自分たちの経験を社会で共有し、参加し、かつ自己に影響を与えるすべての意思決定において意見を聴かれる適切な場が与えられていないため、差別は隠されていることが多い。

3.両委員会は、CRCおよび/またはCRPDの締約国が、あらゆる形態の差別(複数の差別および交差差別 [2] を含む)を撤廃するための措置をとる共通の義務を負っていることを想起する。これらの措置は、立法的、教育的、行政的、文化的、政治的、言語的その他の性質のものであり、かつ、保健・社会サービス、教育、司法、移住・庇護またはリスク状況および人道上の緊急事態などのあらゆる分野に及ぶことが考えられる。措置には、各権利の行使に相応した合理的配慮の提供その他の措置を通じた個別的支援が含まれることもあろう。措置は、時限的なものである場合も長期的なものである場合も考えられ、また法律上も実際上も不平等を克服するようなものであるべきである [3]。

子どもの最善の利益

4.両委員会は、締約国に対し、CRC第3条およびCRPD第7条に掲げられた「子どもの最善の利益」の概念を、障害のある子どもの発達しつつある能力〔および〕その事情に細心の考慮を払いながら、かつ、障害のある子どもが自己の状況に関連したすべての意思決定過程において情報を提供され、協議の対象とされかつ発言権を持てることを確保するようなやり方で、障害のある子どもに適用するよう促す。

子どもの意見の尊重

5.意見を聴かれる権利に関するCRC第12条およびCRPD第7条3項の基準は、締約国に対し、障害のある子どもの自律、意思および選好が他の子どもとの平等を基礎として十分に理解されかつ尊重されることを確保する目的で自国の法律および政策を検討するよう要求している [4]。締約国は、障害のある子どもが自己の意見表明を容易にするために必要なすべてのコミュニケーション方式(手話、点字、やさしいことば(Easy Read)、代替的・補助的コミュニケーション方式を含む)を提供されかつ利用できること、および、その意見が正当に考慮されることを確保するべきである。

6.CRPD第4条3項は、条約を実施するための法令・政策の策定および実施ならびにその他の意思決定過程に、障害のある子どもの団体またはこれらの子どもを代表する団体を通じ、組織的なやり方で「障害のある子どもを包摂する」ことの重要性を認めている。両委員会は、締約国に対し、CRC第15条で保障された結社の自由に対する権利を充足する義務の一環として、十分な資源による支援なども通じ、このような団体の設置および運営がやりやすくなる環境づくりを求める。締約国は、条約を実施するための協議および参加に関して、インクルーシブで、子どもにやさしく、透明な、かつ表現および思想の自由に対する障害のある子どもの権利が尊重されるプロセスのための戦略を策定しなければならない。

暴力、虐待および搾取の解消

7.両委員会は、障害のある子どもに対する差別により、これらの子どもが、ファミリーホーム、精神保健施設、教育施設または子どものケアのための施設などのあらゆる場面で、体罰、ネグレクトおよび虐待を含む暴力の被害を不均衡なほど受けやすくなっていることについて、著しく懸念する。両委員会は、障害のある子どもに対する、治療を名目とするさまざまな形態の暴力(とくに障害のある女児の非自発的不妊手術)が蔓延していることを、深く懸念するものである。このような暴力は拷問および不当な取扱いに相当する可能性がある。障害のある子どもはまた、物乞いをさせるための搾取、性的搾取、人身取引および強制労働(家事労働を含む)といったあらゆる態様の搾取の被害も、とくに受けやすい状況に置かれている。障害のある女児は、そのジェンダーを理由とする特定の不当な取扱いまたは有害慣行の対象とされることが多い。

8.両委員会は、締約国に対し、障害のある子どもに対する暴力を解消するための包括的戦略を緊急に採択するよう求める。このような戦略は、社会の意識啓発、親の教育、専門職の訓練、自己の権利およびその行使方法に関する障害のある子どもの教育などの防止措置から構成されるべきである。被害を受けた障害のある子どもの回復にとって適切な、アクセシブルな支援サービス・手続の設置および強化が求められる。暴力および虐待の捜査・訴追プロセスは効果的、アクセシブルかつ子どもに配慮したものであるべきであり、加害者は責任を負わされなければならない。

インクルーシブ教育に対する権利

9.両委員会は、質の高いインクルーシブ教育のためには、1人ひとりの子どもの多様な教育上の要求、能力、可能性および選好に応じて教育制度を修正しながら、すべての子どもを同じ一般教育制度において平等に教育することが必要であることを強調する。両委員会はまた、質の高いインクルーシブ教育に対する権利が普通教育制度(mainstream education system)および特別/隔離教育制度という2つの教育制度の維持とは両立しないことも、再確認するものである。インクルーシブ教育を確保するため、あらゆる段階の教育過程で、早期介入、アクセシブルな学習環境および個別の支援が提供されなければならない。両委員会は、締約国に対し、障害のあるすべての子どもが、合理的配慮の否定を含む差別を受けることなく、平等な機会に基づいて教育に対する権利を実現できることを保障するよう、強く求める。

家族生活に対する権利

10.締約国は、障害のある子どもの家族生活に対する権利を、他の子どもとの平等を基礎として尊重しなければならない。両委員会は、すべての子どもが、人格の全面的かつ調和のとれた発達のため、家庭において、幸福、愛情および理解のある雰囲気のなかで成長するべきであることに同意する。両委員会は、障害のある子どもの施設措置について深く懸念するとともに、締約国に対し、障害を理由とする施設措置に終止符を打ち、かつ、コミュニティにおける在宅の子どものための支援の発展を促進するよう求めるものである。締約国には、両条約にしたがい、障害のある子どもに対するあらゆる形態の差別および隔離を解消するため、具体的な時間枠および十分な予算をともなった、明確で焦点化された脱施設化戦略を採択する義務があることを、両委員会は想起する。施設に措置されるおそれがより高いのが一般的である、知的障害または心理社会的障害のある子どもおよび高水準の支援を必要とする子どもに対し、具体的に注意が払われるべきである。両委員会は、締約国に対し、CRPD第第23条5項およびCRC第23条1項にしたがい、障害のある子どもおよびその家族のためのインクルーシブかつ支援的なサービスをコミュニティにおいて提供するよう求める。


[1] 障害者権利委員会・一般的意見6号、パラ9。
[2] 交差差別(intersectional discrimination)が行なわれるのは、子どもが障害および他のいずれかの種類の地位(人種、性、言語、宗教、民族、ジェンダーまたは他のいずれかの個人的もしくは社会的条件)に基づいて差別され、独自の特性を有する新たな形態の差別が生じる場合である。障害者権利委員会・一般的意見6号、パラ37。
[3] 障害者権利委員会・一般的意見3号、パラ20。
[4] 障害者権利委員会・一般的意見1号、パラ36;子どもの権利委員会・一般的意見12号、パラ21。


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平野裕二
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