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国連・子どもの権利委員会が気候変動問題についての通報を行なった子どもたちに宛てた公開書簡(全訳)

 以下の記事の続きです。
1)国連・子どもの権利委員会、気候変動に関する子どもたちからの申立てを受理不能と判断――これまでの経緯
2)国連・子どもの権利委員会、国は気候変動の有害な影響について国境を越えて責任を負うと裁定(OHCHR)

 国連・子どもの権利委員会は、10月12日、通報の申立人である子どもたちに決定の概要を説明する公開書簡(PDF)を発表しました。異例な対応です。今回の決定を理解するうえで貴重な資料でもあるので、全文を訳出します。

 通報手続に関する子どもの権利条約の選択議定書(OPIC)および関連の手続規則については、日弁連のサイトに掲載されている筆者の日本語訳を参照。なお手続規則はこのほど改訂されていますが(CRC/C/62/3/Rev.1)、日本語訳の修正はそのうち行ないます。なお、日本はOPICを批准していないため、日本の子どもが権利侵害について子どもの権利委員会に訴えることはいまのところできません。

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申立人のみなさんへの公開書簡

Chiara、Catarina、Iris、Raina、Ridhima、David、Ranton、Litokne、Deborah、Carlos、Ayakha、Greta、Ellen-Anne、Raslen、CarlおよびAlexandra様

件名:Sacchi et al v Argentinaおよび4つの同種事案について

 この歴史的事案を子どもの権利委員会に持ちこんだみなさんの行動の重要性を認知するために、こうしてお手紙を書いています。みなさんが行動したのは自分たち自身のためでしたが、世界中の多くの子どもたちが、みなさんが経験しているものと同じ影響と悩みを経験していることを私たちは理解しています。委員会がみなさんの事案について長い時間をかけて議論したことを知ってほしいと思いますし、私たちは、みなさんの申立ての重要性と緊急性を完全に理解しながらも、通報手続に関する選択議定書(OPIC)に基づいて与えられた法的権限の限界のなかで活動しなければならないという事実と格闘しました。そのため、以下に書いた事案の説明の簡略版からわかっていただけるように、みなさんは、いくつかの側面については成功しましたが、その他の側面についてはそうではありませんでした。

 私たちは、みなさんが今回の決定の前向きな側面にエンパワーされること、また気候変動に関する正義を求めて闘うために自分の国と地域で、そして国際的に行動し続けてくれることを希望します。私たちは、みなさんのメッセージを他の子ども・若者と共有するために、私たちが書いた事案の説明の簡略版を活用してくれるよう奨励します。みなさんの事案は、これらの問題に関する委員会の意識を高め、私たちが共有している切迫感を浮き彫りにすることにもつながったので、私たちは、次の一般的意見で、気候変動にとくに焦点を当てながら子どもの権利と環境について取り上げるという決定を発表済みです。私たちは世界中の子ども・若者と相談することを計画しており、この重要な事案の申立人であるみなさんに、次の一般的意見の作成に向けた過程で意見をシェアしてくれるように要請します。

敬具

子どもの権利委員会


事案の説明の簡略版

 16人の子どもたちが、国連・子どもの権利委員会(CRC委員会)に訴えを送りました。この訴えは、5つの国(アルゼンチン、ブラジル、フランス、ドイツおよびトルコ)が、生命・健康・文化に対する自分たちの権利と、気候変動に関連して行なわれる決定において自分たちの最善の利益を第一次的に考慮される権利に、悪影響を――現在も、そして将来においても――及ぼしているというものでした。子どもたちの出身国はさまざまであり、世界のさまざまな地域に渡っています。子どもたちは、気候変動が自分たちの生活にどのような影響を及ぼしているか、例を挙げて示しています(地球温暖化が気温の上昇を引き起こし、そのことによって病気、山火事、干ばつ、暴風雨が助長されることなど)。子どもたちは、海面下に沈みつつある小島嶼とうしょ国への影響や文化的な狩猟・漁猟慣行への影響、そして気候変動が世界中の子どもたちのメンタルヘルスに及ぼす影響について説明しています。

 この事案では、子どもたち(その後18歳になった人もいます)は訴えの「申立人」と呼ばれます。各国はいずれも、5つの異なる事案で少しずつ違った主張を行なっていますが、この簡略化した事案の説明では、これらの国々をまとめて「各国」と呼びます。申立人は、地球温暖化の危害を多くの国が集団的に助長しているからといって、どの国も責任を負わないということにはならないと主張しました。

 CRC委員会は、このような訴えに対処する際、通報手続に関する子どもの権利条約の選択議定書(OPIC)と呼ばれる国連文書で決められた規則にしたがいます。訴えを委員会に送ることができるのは、子どもたちが訴えの対象にしようとしている国が、委員会には自国を相手どったこのような事案を受けつける法的権限があると同意している場合のみです。

 この事案は非常に重要なものです。世界が現在直面している巨大な問題であり、子どもたちが強い感情を抱いている問題である、気候変動に関するものだからです。これは、口頭聴聞ちょうもんと呼ばれる特別な会合(申立人の弁護士と各国の代表が主張を行ない、委員会から出された質問に回答する場)をCRC委員会が持った、初めての事案でもあります。委員会は、これとは別に申立人のオンライン聴聞も行ない、気候変動の影響や、この事案を委員会に持ちこんだ理由について説明してもらいました。

 CRC委員会は、訴えを受けつけたときはいつも、事案を受理できるようにするための規則が守られているかどうかを最初に決めなければなりません。事案のこの段階は、受理可能性審査と呼ばれます。

 CRC委員会が行なわなければならなかった最初の決定は、この訴えが「締約国の管轄かんかつ内」にあるかどうかということでした。世界のさまざまな地域の子どもたちに影響を及ぼしている気候変動についての事案は、複雑です。普通なら、国が責任を持つのは、その国の地理的境界の中にいる子どもたちの権利の侵害についてだからです。けれどもこの事案では、子どもたちは、訴えの対象であるそれぞれの国で起きている炭素排出が、世界のさまざまな地域で暮らしている子どもたちの生命、健康および文化に影響を及ぼしていると訴えていました。そのため申立人は、国がとった(またはとらなかった)行動の有害な影響(その影響が地理的境界を超えて広がる場合を含む)についてその国の責任を問えるかどうかという点に関する通常の規則は、環境への影響に関わる場合には異なる視点から考えるべきであると主張しました。

 CRC委員会は、この点について申立人に賛成しました。委員会は、各国における炭素排出が気候変動の悪化を助長していること、また気候変動がこれらの国々の境界の外で暮らしている子どもたちの権利に悪影響を及ぼしてきたことを認めました。

 委員会は、国は自国の地理的領域内で生じる炭素排出を管理下に置いており、他国の子どもたちに危害が及ぶことが合理的に予見できる場合でさえ排出量を削減するための十分な措置をとらないときは、「国の管轄内にある」子どもたちから提出された訴えを委員会として受理すると決定しました。どんな訴えでも受理できるということではなく、子どもたちに対する危害がきちんと説明されなければいけませんし、あらゆる場所のあらゆる子どもに危害が及ぶだろうという曖昧な声明であってもいけません。子どもたちは、この事案で申立人が行なったように、自分たち1人ひとりが経験している危害を説明しないといけないのです。申立人が述べた危害と自分たちの権利への影響に関する説明は、委員会として「はい、こういう事案は受理します」と言うのに十分なものでした。

 OPICに基づいて事案を受理するためには、もうひとつのハードルがあります。救済措置を提供するための独自の司法制度(裁判所を含む)がそれぞれの国にはあり、一般的規則として、子どもたちはまず、訴えの対象である国の裁判所または手続を通じて救済措置を得ようと試みることが求められます。このことが重要なのは、公正への道筋は下から開かれていかなければならないためです――その国の裁判所が、子どもたちが自分の権利侵害について訴えを起こし、合理的な期間内に適切な救済を受けられるように調整された司法制度を提供するべきなのです。ただし、まずは少なくとも国内レベルで事案を提起することを試みなければならないという規則は、絶対的なものではありません。この規則には例外があり、この事案の申立人は、その例外が自分たちには当てはまると主張しました。国内レベルで事案を提起するのには障壁がある、時間がかかりすぎる、自分たちがまさに望んでいる結果は得られないだろう、というのがその理由です。CRC委員会はこのような主張を慎重に検討し、口頭聴聞では、各国に対し、子どもたちが国内裁判所に事案を提起できるかどうか、それには国外に暮らしている子どもや弁護士を頼む余裕のない子どもでさえも含まれるかどうかについて、多くの質問が出されました。最終的に、CRC委員会は、これらの質問に対する各国の答えは合理的であると認めました――各国は、申立人が国内裁判所に事案を提起しようと試みることができたはずだということを示せたのです。委員会は一般的にこの規則を厳しく適用しており、その国の裁判所に事案を提起してもたぶんうまくいかないだろうと言うだけでは十分ではありません。その理由は、CRC委員会のOPIC〔訳者注/OPICに基づく委員会の手続〕は世界のすべての裁判所にとって代わるためにあるわけではないからであり、国内レベルで司法へのアクセスを強化していくことが重要だからです。そのため、今回の訴えはこのハードルを越えることができませんでした。

 全体として、この事案はいくつかの点で成功を収めました。

 第1に、申立人の勇気と決意により、この問題が、子どもの権利を専門とする唯一の国際的苦情申立て手続の注意をひくことになりました。

 第2に、委員会は、生命・健康・文化に対する子どもの権利および意思決定において自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利が気候変動の影響を受けることを認めました。各国は、委員会はそもそもこの事案を受理するべきではなく、OPIC〔に基づく手続〕は気候変動問題について議論する適切な場ではないと述べましたが、委員会はそれでもこのような決定を行なったのです。

 第3に、委員会は、たとえ炭素排出がA国で生じたものであり、その有害な影響を経験するのがB国、C国またはD国の子どもたちである場合であっても、このような事案を取り扱うことができると決定しました。炭素排出は、これについての規則を自国で作ることができるのですから、各国が管理できるものです。炭素排出と子どもへの危害との間につながりがあるかぎり、そしてその危害が相当のものであり、それについて申立人が適切な説明を行なうかぎり、委員会がこの事案を受理するというのには十分なのです。

 最後に、この決定は、自国の司法制度に関する各国へのメッセージでもあります。委員会は、OPICに調印した国々に対し、それぞれの国の子どもたちがこのような訴えを行ない、適正に対処させることができるようにすることを期待します。しかし、子どもたちが司法にアクセスできない場合、または子どもたちの訴えが適正に対処されない場合には、OPICに基づき、ふさわしい国際的議論の場である委員会に事案を提起することができます。

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平野裕二
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