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国連・子どもの権利委員会の一般的意見26号(とくに気候変動に焦点を当てた子どもの権利と環境)第1次草案の概要と注目点

 国連・子どもの権利委員会が2022年11月15日に公表した一般的意見26号(とくに気候変動に焦点を当てた子どもの権利と環境)第1次草案の日本語訳を、1月1日にサイトで公表しました(第1次草案のチャイルドフレンドリー版については、公表されたその日のうちに日本語訳してnoteに掲載済み)。

【追記】(2023年9月1日)一般的意見26号の正式版の日本語訳公開にともない、第1次草案の日本語訳は削除しました。関心のある方はこちらの記事からPDFをご購入ください。

 第1次草案の構成は次のとおりです。

I.はじめに
 A.環境に対する子どもの権利基盤アプローチ
 B.国際人権法の発展と環境
 C.目的
II.主要な概念
 A.持続可能な開発
 B.世代間衡平性と将来世代
 C.利用可能な最良の科学
 D.予防原則
III.条約の具体的権利と環境との関係
 A.生命、生存および発達に対する権利(第6条)
  1.生命に対する権利
  2.生存および発達に対する権利
 B.到達可能な最高水準の健康に対する権利(第24条)
 C.教育に対する権利(第28条および第29条(1)(e))
 D.十分な生活水準に対する権利(第27条)
 E.休息、遊び、余暇、レクリエーションおよび文化的・芸術的活動に対する権利(第31条)
 F.先住民族の子どもの権利(第30条)
 G.差別の禁止に対する権利(第2条)
 H.子どもの最善の利益(第3条)
 I.意見を聴かれる子どもの権利(第12条)
 J.表現、結社および平和的集会の自由(第13条および第15条)
 K.司法および救済措置へのアクセス(第4条)
IV.清浄、健康的かつ持続可能な環境に対する権利
V.国家の一般的義務

 A.尊重し、保護しかつ充足する義務
 B.より重い義務
 C.情報へのアクセス
 D.子どもの権利影響評価
 (Eは欠落)
 F.子どもの権利と事業者部門
 G.国際協力
VI.気候変動
 A.国の義務、実施および説明責任
 B.適応
 C.緩和
 D.ビジネスと気候変動
 E.気候資金

 第1次草案では、まず〈II.主要な概念〉として4つの基本的考え方を掲げたうえで、〈III.条約の具体的権利と環境との関係〉で、条約に掲げられた具体的権利と環境(とくに気候変動)との関係を詳しく分析しています。さらに、近年の国連人権理事会決議国連総会決議で人権として確認された「清浄、健康的かつ持続可能な環境に対する権利」についても独立の章(IV章)で取り上げ、この権利の重要性を強調するとともに、その実現に向けて直ちにとられるべき行動を列挙しています(パラ71~74)。

 環境との関連で子どもにとくに保障されるべき権利に関する委員会の考え方は、第1次草案では言及されていないものの、ASEAN地域における安全、清潔、健康的かつ持続可能な環境に対する子どもの権利についての原則および政策指針(2021年10月公表)に掲げられた9つの一般原則とおおむね一致していると考えられます。あわせて参照・検討していただければと思います。

 ただ、「原則および政策指針」に掲げられた9つの一般原則では、十分な生活水準に対する権利(条約第27条)については明示的に言及されていません。この点、今回の第1次草案でこの権利にも焦点が当てられたこと(パラ39~44)は重要です。

 他方、気候変動に起因する災害などを理由として避難を余儀なくされた子どもに対する目配りは、第1次草案では必ずしも十分でないように思われます。十分な住居に対する権利との関連で「これらの規定は、気候関連または環境関連の危害で避難を余儀なくされた子どもにも平等に適用される」との記述はあり(パラ42)、また複数の形態/交差的形態の差別を理由としていっそうの障壁に直面する可能性が高い子どもとして「難民・移住者・国内避難民である子ども」も例示されていますが(パラ50)、国内避難(強制移動)に関する国連指導原則(日本語訳PDF)やスフィア基準/人道憲章と人道支援における最低基準(日本語訳PDF)も踏まえ、もう少し詳細な記述をしてほしいところです(前掲「原則および政策指針」では、原則24として「紛争・避難や環境関連災害・汚染等により生ずる身体的・心理社会的・経済的危害から子どもを保護するためのあらゆる適切な措置」の必要性が指摘されています)。

 このほか、「権利を基盤とする環境教育」のあり方が提示されていること(パラ31~35)、遊びやレクリエーションに対する権利を保障・実現するうえでの環境の重要性が強調されていること(パラ45~48)などは、日本でも関心の高い人が多いのではないかと思います。もちろん、子どもの意見表明・参加を保障・促進していく必要性についても詳しく述べられています(パラ56~61;この点については〈日本を含む国連・気候変動枠組条約の締約国、COP27で子ども・若者が果たす重要な役割を公式に認める〉なども参照)。

 これらの権利を保障していく国の義務の内容についても委員会の見解が詳細に提示されていますが、とくに「子どもの権利影響評価」の実施義務が再確認されている点を強調しておきたいと思います(パラ87~89)。日本は委員会から「子どもに関連するすべての法律および政策の影響評価を事前および事後に実施するための義務的手続を確立する」ことを勧告されており(第4回総括所見〔2019年〕、パラ19)、速やかな検討と導入が求められます。

 ほかにもさまざまな論点が取り上げられていますので、ご検討のうえ、適宜委員会に意見を提出していただければと思います。提出期限は2月15日です。提出方法についてはこちらのページをご参照ください(子どもたちの意見の提出については、第1次草案のチャイルドフレンドリー版を紹介した投稿を参照)。

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平野裕二
noteやホームページでの翻訳は、ほぼすべてボランティアでやっています。有用だと感じていただけたら、お気持ちで結構ですのでサポートしていただけると、嬉しく思います。