欧州評議会のランサローテ委員会、「新興テクノロジーによって容易にされる性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に関する宣言」を採択
欧州評議会・ランサローテ条約(性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に関する条約、2007年)の履行状況を監督するために設けられているランサローテ委員会は、同条約の実施に関する指針を見解・声明・宣言などの形で随時示していますが(最近の例として、子どもに対する性犯罪についての公訴時効に関する「見解」など参照)、11月7日には「新興テクノロジーによって容易にされる性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に関する宣言」を採択しました。
★ Council of Europe - Newsroom on Children's Rights: Lanzarote Committee adopts a Declaration on the protection of children against sexual exploitation and sexual abuse facilitated by emerging technologies
https://www.coe.int/en/web/children/-/lanzarote-committee-adopts-a-declaration-on-the-protection-of-children-against-sexual-exploitation-and-sexual-abuse-facilitated-by-emerging-technologies
今年の「子どもの性的搾取・性的虐待に反対する欧州デー」(11月18日)のテーマは「新興テクノロジー:性的搾取および性的虐待からの子どもの保護にとっての脅威と機会」(Emerging technologies: threats and opportunities for the protection of children against sexual exploitation and sexual abuse)とされており、これを踏まえた対応と考えられます(11月5日にはこのテーマに関する能力構築イベントが開催されており、AIをはじめとする近年のテクノロジーの発展についてのバックグラウンドペーパー〔PDF〕も提出されています)。
宣言ではまず、「情報通信技術(ICTs)によって容易にされるあらゆる形態の子どもの性的搾取および性的虐待が引き起こす深刻な危害」を認識し(パラ1)、とくに「人工的に生成・修正(たとえばディープフェイク)された子どもの性的虐待表現物により、それが子どもを勧誘(グルーミング)し、威迫しかつ強要して性的活動(ライブの子どもの性的虐待表現物の製造を含む)に参加させまたはこれを目撃させるために利用される場合も含めて引き起こされる特有の危害」を強調しています(パラ3)。
一方、「これらのテクノロジーが、性的虐待を防止しかつ性的虐待から子ども保護するための努力を増進させ、かつこれらの犯罪の捜査および訴追を容易にするための手段および機会を提供する可能性もあること」(パラ4)を認知したうえで、欧州評議会閣僚委員会の「デジタル環境における子どもの権利の尊重、保護および充足のためのガイドライン」(2018年)や、国連・子どもの権利条約、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する同条約の選択議定書、同選択議定書の実施に関するガイドライン(国連・子どもの権利委員会、2019年)の解説報告書なども参照しつつ(パラ11)、ランサローテ条約の締約国がとるべき具体的措置として13項目を挙げています(パラ13)。以下、その部分を訳出します(太字は平野による)。
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13.ランサローテ委員会は、ランサローテ条約の締約国に対し、新興テクノロジーによって容易にされる性的搾取および性的虐待から子どもを保護するため、次の措置をとるよう求める。
a.法律、政策および国内実務において、ランサローテ条約の規定およびランサローテ委員会が採択した勧告(委員会の見解、声明および宣言に掲げられたものを含む)が全面的に実施されることを確保すること。
b.新興テクノロジー、AIにより生成されもしくは修正された表現物、バーチャルリアリティ経験またはハプティックディバイスによって容易にされる、あらゆる形態の子どもの性的搾取および性的虐待(子どもの性的虐待製造物の制作を含む)ならびにこのような犯罪の幇助および教唆の犯罪化を検討すること。
c.ランサローテ条約第20条第3項に基づく、「実際には存在しない子どもの擬似描写または写実的画像のみによって構成されるポルノ的表現物の製造および所持」に関わる留保を撤回する可能性を検討すること。
d.新興テクノロジーによって容易にされる子どもへの性犯罪に対する制裁が、被害者に引き起こされる深刻な害を考慮に入れた効果的な、均衡のとれたかつ抑止効果のあるものであることを確保すること。
e.子どもに性犯罪を行なうことを目的とする新興テクノロジーの悪用から利益を得ている者の責任(accountability)を強化すること。
f.被害者の特定および保護、加害者の特定ならびにこれらの犯罪の発見、捜査および訴追を目的とするこれらのテクノロジーの活用を検討すること。
g.ランサローテ条約第11条および第14条にしたがい、これらの犯罪の被害者が利用可能な保護措置および被害者支援サービスにアクセスできることを確保すること。
h.犯罪を行なう可能性がある者を対象とする予防的介入および子ども同士の有害な性的行動に対処するための予防的介入を含む、予防のための取り組みを増進させること。
i.ランサローテ条約第5条にしたがい、子どもに日常的に接する専門家が、これらのテクノロジーに関連するリスクを理解しかつ当該リスクを特定するための訓練および関係するいかなる子どもも援助するための方法に関する訓練を受けることを確保すること。
j.子どもの性的搾取・虐待の規模および加害者によるテクノロジーの利用に関する一般公衆の意識啓発を強化すること。
k.子どもを対象として、親と協力しながら、発達の一環としての子どもによるテクノロジーの利用に関する教育・訓練および子どもが示す有害な性的行動に関する理解を向上させるための教育・訓練を提供すること。
l.テクノロジーの発展の継続における犯罪および被害の現在の傾向を定期的に評価しかつ検証するためのデータ収集を強化すること。
m.これらの犯罪との闘いを向上させるための国際協力を増進させること。
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関連して、欧州評議会の諮問・監督機関である議員会議が今年4月19日に採択した「オンラインの暴力からの子どもの保護」に関する決議 2547 (2024) も参照。
なお、上記宣言のパラ12でも留意されていますが、EU(欧州連合)でも、「子どもの性的搾取および児童ポルノとの闘いに関する枠組決定2004/68/JHA」(2003年)に代えて「子どもの性的搾取および子どもの性的虐待表現物との闘いに関する指令(Directive)」を採択することが欧州委員会から提案されています(審議状況はこちらのページを参照)。この分野では、これからまだまだ動きがありそうです。