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アルゼンチン政府、国連・子どもの権利委員会の要請を受けて3児の母の送還を中止

 アルゼンチン政府は、通報手続に関する子どもの権利条約の選択議定書に基づく国連・子どもの権利委員会の要請を受けて、3児の母親に永住資格を付与することを決定しました。

★OHCHR: UN Committee welcomes Argentina's suspension of deportation of a mother of three
https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=26196&LangID=E

 ロサリオ(Rosario)という名前のみが明らかにされているペルー国籍の母親は、2000年に移住目的でアルゼンチンに入国しました。ところが入国時に薬物を所持していたことで収監刑を言い渡され、出所後の2004年に国家移民局から退去を要求されたものです。ロサリオさんは退去強制決定の撤回を求めて最高裁まで争いましたが、2019年5月、最高裁により申立てを却下されました。

 この間、ロサリオさんはアルゼンチンで出会ったパートナーとの間に3人の子どもをもうけていました(それぞれ2008年・2009年・2019年生)。2019年7月に3人の子どもたちが子どもの権利委員会に対して申立てを行なうと、委員会は、退去強制によって子どもたちが母親と離れ離れになれば回復不可能な被害が生じるおそれがあるとして、アルゼンチン政府に対し、選択議定書第6条に基づく暫定措置を要請して退去強制決定の執行停止を求めました。アルゼンチン政府は要請を受けてロサリオさんの退去強制を保留し、最終的に2020年7月に永住資格を付与することとしたものです。

 プレスリリースでは、
「お母さんに遊んでもらうのが好き。とても楽しい時間だから」(長女、12歳)
「ママが大好き。笑わせてくれるの」(次女)
 という子どもたちの言葉も紹介されています。ロサリオさんは、
「子どもたちといっしょにいられるように支援してくれた皆さんに、とても感謝しています。これで子どもたちの成長を見守れます」
 とコメントしています。

 委員会の個人通報作業部会で座長を務めるアン・スケルトン委員(南アフリカ)は、
「ロサリオさんが退去強制になれば、子どもたちは母親と離れ離れになるか、唯一知っている国、国籍国である国、自分たちが生まれた国であるアルゼンチンからの退去を余儀なくされていたでしょう。どちらの選択も、子どもたちの人格的統合性、アイデンティティ、発達に影響を及ぼしていたはずです」
 と述べるとともに、
「アルゼンチンが退去強制の見直しにあたって子どもの最善の利益を第一義的に考慮したこと、また子どもの権利委員会が要請する暫定措置の拘束性を認めたことを称賛します」
 と政府の対応を評価しました。

 委員会による暫定措置の要請を受けて、あるいは委員会に通報(申立て)が行なわれたことをきっかけとして、委員会による正式な決定を待たずに状況を是正するための対応がとられた例はこれまでにもあります(以前Facebookで紹介したデンマークおよびスペインの事例を参照)。

 これらの事例は、(人権条約機関の要請等に誠実に対応しようとする姿勢が政府の側にあるなら、という条件付きではあるにせよ)人権条約に基づいて設けられた個人通報制度の有効性を示すものです。日本でも速やかな受入れが求められます。現在、女性差別撤廃条約実現アクションによるオンライン署名日本の裁判にジェンダー平等の視点を!女性差別撤廃条約「選択議定書」の批准を求めますも行なわれていますので、ご協力をお願いします。

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平野裕二
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