国連・障害者権利委員会、インクルーシブ教育に対する権利をめぐってスペインの条約違反を認定
国連・障害者権利委員会は、ダウン症の子どもを親の意思に反して特別教育センターに措置したことに関して、障害者権利条約の個人通報制度に基づく決定でスペインの条約違反を認定しました(8月28日)。インクルーシブ教育に関する決定はこれが初めてとのことです。
★ OHCHR: Spain violated the inclusive education right of a child with disabilities, UN Committee finds
https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=26263&LangID=E
事案の概要は次のとおりです。
● ダウン症のあるルーベンはスペイン北西部の都市レオンの普通学校に通っており、2009年に10歳で4年生に進学するまで、特別教育アシスタントの援助を受けながらクラスメートや教職員とも良好な関係を保っていた。
● ところが4年生になると状況が悪化し、教員による重大な不当な取扱い・虐待の疑いも浮上した。ルーベンの両親の訴えにもかかわらず、この点について実効的な調査は行なわれなかった。
● ルーベンが5年生になっても状況は改善されず、新しい担任は当初、ルーベンに特別教育アシスタントが必要だとは考えず、両親の抗議を受けてようやくアシスタントがついた。しかしルーベンは学習や学校生活に困難を抱えるようになり、学校側から行動を問題視されるに至った。
● 2011年6月、州教育局は、両親の反対にもかかわらず、ルーベンを特別教育センターに措置することを認めた。両親はこの決定に対して異議申立てを行なったものの認められず、逆に当局から、子どもを特別教育センターに行かせることを拒否したという理由で刑事告発された。
● ルーベンは、2017年5月、父親とともに委員会に対して個人通報を行なった。
検討の結果、委員会はスペインによる条約違反を認定し、▼現在は私立の特別教育センターに在籍しているルーベンがインクルーシブな職業訓練プログラムに編入できるようにすること、▼ルーベンに賠償金を支払うこと、▼虐待の訴えが実効的に調査されるようにすることなどを促しました。マルクス・シェファー(Markus Schefer)委員は、
「締約国〔スペイン〕当局が、ルーベンの教育上のニーズと、普通学校への通学を継続できるようにするために必要とされる合理的配慮について、徹底したアセスメントまたは綿密かつ詳細な検討を行なったとは思えない」
とコメントしています。
委員会はさらに、今後の対応として、▼障害のある児童生徒のいかなる教育隔離(普通学校の特別教育ユニットを含む)も解消すること、▼障害のある児童生徒の親が、インクルーシブ教育に対する権利を主張したことを理由に訴追されないようにすることなども促したとのことです。
決定の全文(CRPD/C/23/D/41/2017、いまのところスペイン語のみ)はこちらからダウンロードできます。
インクルーシブ教育に対する権利については、障害者権利委員会の一般的意見4号(2016年、仮訳:石川ミカ・日本障害者リハビリテーション協会/監訳:長瀬修)も参照。