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国連・子どもの権利委員会、気候変動に関する子どもたちからの申立てを受理不能と判断――これまでの経緯

 スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさんをはじめとする12か国の子ども16人が、アルゼンチン、ブラジル、ドイツ、フランス、トルコの5か国を相手どり、子どもの権利条約に基づいて十分な気候変動対策をとるよう求めていた申立てについて、国連・子どもの権利委員会は、国内救済措置が尽くされていないことを理由に受理不能とする決定を行ないました(10月11日発表)。

 とりいそぎFacebookで取り上げておきましたが、Facebookをやっていない方でも参照しやすいよう、過去の関連投稿も含めてこちらに転載しておきます。決定の詳細については時間のあるときに紹介したいと思います。

2019年9月24日付投稿

 スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさん(16歳)をはじめとする12か国の子ども16人が、アルゼンチン、ブラジル、ドイツ、フランス、トルコの5か国を相手どり、子どもの権利条約に基づいて十分な気候変動対策をとるよう求める申立てを、国連・子どもの権利委員会に対して行ないました。個人通報制度を定めた「通報手続に関する選択議定書」(2011年)に基づく行動です。
 
★朝日新聞:グレタさんら、子どもの権利救済申し立て 気候危機巡り
https://www.asahi.com/articles/ASM9S1CRXM9RUHBI032.html
 
 CNNの記事もシェアしておきます。

★ CNN: Greta Thunberg and 15 other children filed a complaint against five countries over the climate crisis
https://edition.cnn.com/2019/09/23/world/united-nations-greta-thunberg-children-climate-change-human-rights-complaint/index.html

※だいぶ省略されていますが、日本語の記事も出ていました。→〈グレタさん、国連演説後に温暖化対策求める申し立て
 
 報道にもあるとおり、アメリカは子どもの権利条約そのものも上記選択議定書も批准しておらず、日本や中国は条約こそ批准しているものの上記選択議定書は批准していないこともあって、申立ての対象にはなっていません。

 委員会が申立てを受理するためには、国内救済措置を尽くしたことをはじめとする諸条件が満たされている必要があります。これらの点について申立てでどのような主張が行なわれているかは現時点では不明で、本案審査が行なわれるかどうかも何とも言えませんが、「気候危機は子どもの権利の危機」というのはそのとおりです。(中略)

 なお、通報手続に関する選択議定書および委員会の手続規則の日本語訳はこちらを参照。

 個人通報制度に基づいて委員会が行なってきた決定の日本語訳(一部)はこちらを参照。
 
【追記】申立てに関するもう少し詳しい情報がこちらの記事↓に載っています。子どもたちの代理人は、国際的法律事務所である Hausfeld LLP と、米国の非営利環境法団体の Earthjustice が務めるとのことです。

★ Treehugger: Group of children files complaint of rights violation over climate crisis
https://www.treehugger.com/environmental-policy/children-file-complaint-rights-violation-over-climate-crisis.html

2019年9月30日付投稿

 気候変動問題をめぐって12か国の子ども16人が国連・子どもの権利委員会に対して行なった申立ての詳細が明らかになりました。申立ての対象になっているのは、子どもの権利条約の国際的実施機構のひとつである個人通報制度を定めた「通報手続に関する選択議定書」(2011年)の締約国となっている国々のうち、アルゼンチン、ブラジル、ドイツ、フランス、トルコの5か国です。
 
★ Maverick Citizen: The children's petition to the UN - what's it all about
https://www.dailymaverick.co.za/article/2019-09-30-the-childrens-petition-to-the-un-whats-it-all-about/
 
 申立書を含む資料はこちらに掲載されています。
 
 記事および申立書(A4版で101ページ)の詳細を紹介している余裕がありませんが、記事では子どもの権利委員会のアン・スケルトン(Ann Skelton)委員のコメントが掲載されています。それによると、申立書は委員会のもとに確かに届いたそうです。

 ただし、前掲投稿でも述べておいたように、委員会はまず通報の受理許容性について審査する必要があります。国内救済措置が尽くされたか否かという点について、申立書では、▼子どもであるために費用のかかる訴訟手続を多数の国で進めることができない、▼気候危機は領域を超えた問題であり国内裁判所では扱うことができない、などの理由が挙げられているようですが、委員会がどのような判断を下すか、注目されます。

〔コメント欄への追記〕
●個人通報選択議定書の起草過程にも言及しながら、予想されるハードルについて解説した記事です。(直接リンクすると Page Not Found になるので、ブログ記事一覧から閲覧してください。10月2日付の投稿です)

-Eurochild: Greta's strategic litigation before the UN Committee on the Rights of the Child and what it could mean for child rights advocates
https://www.eurochild.org/news/

●グレタさんらの申立てに対し、ブラジル、フランスおよびドイツは申立ての不受理を委員会に対して求めたようです。それに対して申立人の子どもたちは反論しています。これ自体は通常のやりとりで、この後、委員会は申立てをどのように取り扱うか(不受理とするか、受理して本案審理に進むか)決定することになります。

-The Guardian: Greta Thunberg and children's group hit back at attempt to throw out climate case
https://www.theguardian.com/environment/2020/may/05/greta-thunberg-and-childrens-group-hit-back-at-attempt-to-throw-out-climate-case

● 子どもたち側の反論が公表されています。

-Human Rights Watch: Young Climate Activists' UN Complaint Against Germany
https://www.hrw.org/news/2020/06/18/young-climate-activists-un-complaint-against-germany


2021年6月5日付投稿

★ OHCHR: Committee on the Rights of the Child Adopts Concluding Observations on Reports of Luxembourg and Tunisia and Concludes Eighty-seventh Session
https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=27145&LangID=E

 国連・子どもの権利委員会の第87会期(5月17日~6月4日)が終了し、▼次回の一般的意見(26号)のテーマは「子どもの権利と環境(とくに気候変動に焦点を当てて)」に決定されたこと、▼今会期中にルクセンブルクとチュニジアの報告書審査がオンラインで行なわれたことは、noteへの投稿でお知らせしました。

 個人通報関連の動向ですが、気候変動が子どもに及ぼす影響について12か国の子ども16人が5か国を相手どって行なっている通報について、聴聞が実施されたとのことです(手続規則の19で、申立人等に対して「面前で、またはビデオ会議もしくは電話会議を通じて、通報の本案に関するさらに詳しい説明または質問への回答を行なわせることができる」旨、定められています)。おそらくまだ受理許容性について検討している段階で、本案審査を行なうかどうかは決定されていないと思いますが、今後の展開が注目されます。(後略)


2021年10月11日付投稿

【国連・子どもの権利委員会、気候変動に関する子どもたちからの通報を受理不能と決定/Communications concerning the adverse effects of climate change were found inadmissible by the UN Committee on the Rights of the Child 】

 通報手続に関する子どもの権利条約の選択議定書に基づき、グレタ・トゥンベリさんをはじめとする12か国の子ども16人がアルゼンチン、ブラジル、ドイツ、フランス、トルコの5か国を相手どって申し立てていた気候変動に関する通報について決定が行なわれた旨、先日のnoteで報告しておきましたが、先ほど一連の決定が公表されました。

 noteの記事で「プレスリリースの書きぶりから推察するに、条約違反の認定には至らなかったのではないかという気もしますが……」と記しておきましたが、やはり、国内救済措置が尽くされていないとの判断で受理不能という結論です。決定(英語)は第88会期のページの一番下に掲載されています。

 決定の詳細についてはあらためてnoteで報告しますが、とりあえず速報としてお知らせしておきます。(中略) 国内救済措置が尽くされていないという理由で通報が受理不能とされた前例として、以下の事例↓も参照。
https://www.facebook.com/yujihirano.arc/posts/807631266398744

 個人通報制度に基づくこれまでの主な決定については筆者のサイトを参照。

〔コメント欄への追記〕
Wow! Korea:国連「温室ガスにより “児童の権利”に悪影響を与えた国に対し責任問う」
https://www.wowkorea.jp/news/korea/2021/1012/10318439.html

「ある国の温室ガスの排出が他の国の児童の権利に否定的な影響を及ぼす場合、その国に責任を問うことができる」として救済の可能性を認めつつ、今回は手続的不備があったとして受理不能としたものです。

 この点につき、自由権規約委員会による2020年1月の判断も参照。
https://www.facebook.com/yujihirano.arc/posts/771457836682754

Reuters: U.N. panel says it can't rule on climate case brought by Greta Thunberg
https://jp.reuters.com/article/us-climate-change-un-greta/u-n-panel-says-it-cant-rule-on-climate-case-brought-by-greta-thunberg-idUSKBN2H11FA

Earthjustice: UN Committee on the Rights of the Child Turns its Back on Climate Change Petition from Greta Thunberg and Children from Around the World
https://earthjustice.org/news/press/2021/un-committee-on-the-rights-of-the-child-turns-its-back-on-climate-change-petition-from-greta-thunberg-and


2021年10月12日付投稿

【UN Committee on the Rights of the Child published an open letter addressed to the young authors of the communications concerning climate change for explanation and encouragement】

 昨日の投稿で、気候変動に関する子どもたちからの通報を受理不能と判断した国連・子どもの権利委員会の決定を紹介しました(コメント欄にいくつか関連記事を紹介しています。日本のメディアの報道は、ネットではいまのところ見当たらないようです)。

 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のプレスリリースも昨日付で発表されています*。

★OHCHR: UN Child Rights Committee rules that countries bear cross-border responsibility for harmful impact of climate change
https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=27644&LangID=E

 さらに、本日(10月12日)、通報の申立人である子どもたちに決定の概要を説明する公開書簡が委員会名で発表されました。
https://www.ohchr.org/Documents/HRBodies/CRC/Open_letter_on_climate_change.pdf

 本件通報に関しては初めて聴聞が実施されましたが(第87会期(2021年5~6月):以前の投稿参照)、このような公開書簡が作成されたのも初めてです。受理不能の決定を行なわざるを得なかったものの、この問題を引き続き重視していきたいという委員会の姿勢が明らかにされています。

 決定の内容を理解するうえでもわかりやすい資料ですので、週末ぐらいまでには日本語に翻訳しようと思います。(追記/日本語訳を公開しました)

* このnoteの記事の見出し画像は、本件プレスリリースを転載した reliefweb の記事のサムネイル画像です。

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平野裕二
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