人権擁護者としての子ども――権利保障ガイド
国連・子どもの権利委員会と各国のNGOを結びつける役割などを果たしている Child Rights Connect は、2020年12月14日、『人権擁護者である子どもの権利:実施ガイド』(The rights of child human rights defenders: Implementation Guide)〔PDF〕を刊行しました。執筆者はクイーンズ大学ベルファスト(アイルランド)子どもの権利センターの共同コーディネーターを務めるローラ・ランディ(Laura Lundy)教授です。
この実施ガイドは、国連・子どもの権利委員会が2018年に開催した一般的討議(人権擁護者としての子どもの保護およびエンパワーメント)のフォローアップを目的として行なわれた専門家会合で、このようなガイドが必要だという合意が形成されたことを受けて作成されたものです。子どもの権利条約および国連・人権擁護者に関する宣言(1998年)の関連条項を踏まえ、人権擁護者として行動する子どもたちの権利保障のあり方を提示しています(2018年の一般的討議の様子については、Facebookの2018年10月12日付・15日付投稿を参照)。
「人権擁護者である子ども」(child human rights defenders: CHRDs)という言葉については、2018年の一般的討議の際には「自己の人権、仲間の権利またはその他の人々(大人を含む)の権利を促進するための行動を起こしている子ども」と定義されていましたが、今回のガイドでは以下の定義が採用されています(p.7)。
子どもの権利を含む人権の促進、保護および充足のために行動している子どもは、たとえそのように自認していなくとも、または他人からそのように考えられかつ呼ばれていなくとも、人権擁護者である。
この定義は、 (a) CHRDsは子どもの権利についての活動のみ行なっているという誤解と、(b) 多くのCERDsはこの言葉を用いていない/子どもがCHRDsたりうることを大人が認めたがらないという現実に対処するために採用されたとのことです。
ガイドでは、とくに以下の権利が取り上げられています(第3章)。それぞれの権利に関わって国をはじめとする関係機関がとるべき対応も勧告されています。
1)4つの一般原則(差別の禁止/子どもの最善の利益/生命・生存・発達に対する権利/意見を正当に重視される権利)
2)親・保護者の権利義務
3)教育に関わる権利
4)危害からの保護
5)市民的・政治的権利(プライバシーに対する権利や誹謗中傷等から保護される権利を含む)
さらに、第4章では「子どもにやさしい司法:モニタリング・是正措置・救済措置」について、第5章では「CHRDsのための権利を基盤とするアプローチの実施」(第5章)について、それぞれ取り上げられています。
たとえば次のような指摘は本ガイドの基本的考え方を象徴するものと言えるでしょう(太字は原文ママ)。
……平和的な抗議が暴力的なものになるかもしれないという懸念に対する既定の対応は、子どもの参加をやめさせるのではなく、子どもの生命、生存または発達に対する脅威を取り除くために合理的なあらゆる努力を払うことであるべきである。(p.17)
別の箇所では次のような指摘も行なわれています(太字は原文ママ)。
……CHRDsにとってきわめて重要なのは、「最善の利益」を「福祉」または危害からの保護と同視して済ませることはできないということである。これも子どもの最善の利益の重要な側面ではあるが、唯一の側面ではない。子どもたちの市民的・政治的権利……も、いかなる検討にも要素として盛りこまれなければならない。このことは常に重要だが、CHRDsにとってはとりわけ重要である。最善の利益の原則は、子どもたちによるその他の権利の行使を(たとえば子どもたちの活動が子どもたちを危険にさらし、またはその教育に悪影響を及ぼす可能性があるという理由で)不当に制限する法律、政策および決定を正当化するために利用されることがあるためである。何が子どもの最善の利益であるかを判断するにあたっては、これらも重要な考慮事項ではあるが、考慮事項はこれだけには留まらない。(p.16)
ガイドを執筆したローラ・ランディ教授は、ガイド刊行の発表にあたって次のように述べています(太字は平野)。
「私たちは、許可に基づく――子どもたちが人権擁護者として行動することを認める――言説から、子どもの権利を基盤とする見方――子どもたちには人権擁護者として行動する権利がある――の承認へと移行する必要があります。私たちは、何歳からできる?――団体への加入、抗議への参加、ソーシャルメディアへのアクセスを何歳から認めるべきか?――と問うことをやめなければいけません。問うべきなのは、どうすればできる?――市民社会その他の主体は、どのように子どもたちを支援し、子どもたちがすべての市民的・政治的権利を行使することを可能にできるか?――ということであるべきです。私たちは考え方の枠組みを変えなければいけません。このガイドがそのきっかけとなることを願っています」
日本ではまだまだ子どもの意見表明・参加の取り組みが十分に進んでいませんが、このガイドで提示されているような視点に立って、権利としての意見表明・参加を推進していく必要があります。