ガールズバーで元No.1キャバ嬢に5時間指名され続けた話
ガールズバーの体験入店に行った際に元No.1キャバ嬢に気に入られ、営業終了まで5時間指名され続けた話です。
(※体験入店とは・・・夜のお店のお仕事1日体験のこと。ちなみに夜職の人のユーモアとして学校のオープンキャンパスや企業のインターンを「体入みたいなやつ」と言うことが挙げられる)
場所はとある北関東のガールズバーである。その地域では評判の良いらしいそのガールズバーに私は体験入店に来ていた。以前勤めていたスナックを3か月ほどで辞めて以来、夜のバイトを探していた時期のことだ。前の店を辞めた理由としては時給の低さ、オーナーと不倫関係にあるママと馬が合わない、客層が良くないといったことが挙げられる。「え、何でこの人がママ?」という人はだいたいオーナーとデキている。夜職版銀魂のタイトルである。体入に行ったガールズバーはその地域であれば老舗らしく客入りも良かった。ガールズバーだが前の職場よりも提示時給が高く、先輩スタッフも優しく雰囲気がとても良かった。
(夜職のだいたいの時給相場はガールズバー≦スナック≦キャバクラ・クラブである)
そんな中、女性二人組のお客様がフリーで来店した。
ガールズバーは女性のみでも来店できるところが多い。「女性料金」を設定している店が多く、男性よりも1000円以上安く飲める。
また、ガールズバーはキャバクラの「アフター」で使われることもしばしばある。アフターとはキャバ嬢が営業終わりに客と飲みに行くことである。キャバクラは2時頃閉まる店が多いが、ガールズバーは朝まで営業していることが多いからだ。男女で来る場合は女性料金が適用されない店もある。この辺は店によるとしか言えない。
女性二人組が夜の店に来るのは複数のパターンがある。
①働いている女の子(キャスト)の知り合いである場合←最も多い
②興味本位←まあ少ない
夜の世界は同業者との付き合いを大事にする人が多い。他店の女の子がこの前うちの店に来てくれたから、お礼として指名で他店に顔を出すといったことも多々ある。
今回来てくれたお姉さま二人はどちらかというと②だった。
2人の雰囲気でいうと確実に夜の人間なのだが(スタンド使いみたいな感じでだんだん同業者は分かるようになってくる)キャストやボーイの知り合いではなく、完全フリーの来店だったため店長が不思議がっていた。他店からの偵察か?などと憶測が飛び交っていた。
「今日体入のミズキ(仮名)です~、よろしくお願いします」
「ああ、よろしくね。適当に飲んで。ドリンク持ってきな」
席について5秒でドリンクが貰えることというのは非常にレアなのである。
夜の店ではキャストのドリンクはどこも一杯1000円ほどでお客様が奢ってあげて一緒に乾杯する、というシステムなのだ。だいたい席についてから5分~10分ほど話してからタイミングを見計らって「ドリンク頂いてもいいですか?」「一緒に乾杯してもいいですか?」などと聞くのがセオリー。
席に着いた瞬間にドリンクを勧めてくるのは金持ちか同業者の二択なのだ。
「お姉さんたちめちゃくちゃ綺麗ですね。もしかして同業の方ですか?」
「この子はそうだけどアタシは夜やったことないのよ。蕎麦屋だから。」
明らかに夜の人のユーモアである。この人こそがこの後私を5時間指名し続ける元伝説のキャバ嬢である。チェリーブラウンの艶やかなロングヘアー、101匹わんちゃんのクルエラでしか見たことないような毛皮を身に纏い、切れ長の瞳が美しかった。雰囲気でいえば叶姉妹の美香さんである。ここでは彼女を仮名として「美香さん」と呼ぶこととしよう。
「あなた、名前は何ていうの?ミズキ?じゃあミーちゃんだ」
席について5秒で貰ったドリンクで乾杯すると美香さんにそう言われる。お連れの女性は夏帆に似ていたので「夏帆さん」と呼ぶことにする。
二人はその日、7年振りに一緒に飲んだらしい。その時点でかなりの年齢不詳だったのだが、話から推測するに恐らくその地域の別店舗のキャバ嬢同士だったのだろう。
「この子なんてね、凄かったのよ。卒業の日にはお店の外にお花ズラーッて並んで」
「美香ちゃんでしょそれは」
「え?アタシは夜経験無いよ。ただの蕎麦屋だから」
夏帆さんは1店舗で長く勤めた元ナンバーワンキャバ嬢。黒髪のショートヘアで、素人がイメージする「女の世界のドロドロ」とは程遠いようなさっぱりした口調である。夜の世界では1つの店に長く勤めることはあまり一般的ではない。現実世界以上に転職が当たり前である。合わなかったらすぐ移転!という価値観を持つ人が多い。昼の仕事であれば転職を繰り返すのはあまり良しとされないが、夜の世界では当然なので何とも思われない。むしろ「店を変えたら売上が上がった」というケースも多々あるので環境を変えるのは大切なことだ。そんな中、移転せずにナンバーワンを貫いた夏帆さんは珍しいといえば珍しい。
夏帆さんは以前にもこのガールズバーに来店したらしく、その時に喋ったキャストを指名した。そのキャストをアコちゃん(仮名)としよう。
~登場人物のおさらい~
私→ガールズバーの体験入店に来た。源氏名はミズキ。
先輩キャストのアコちゃん→茶髪のショートカット。小動物系。
美香さん→私を指名し続けた元伝説のキャバ嬢。
夏帆さん→美香さんの元キャバ嬢仲間。サバサバ。
「ミーちゃん、今日体験なの?ごめんねおばちゃんがついちゃって。あなた学生?昼は何してんの?」
昼は学生で引っ越してきて日が浅いことを教えるとどう見てもおばさんとは言えない年齢不詳の美香さんは、
「お腹空いてない?なんか出前頼みな。店員さん、メニューいただける?てか出前取れます?」
馴染みのない人に向けて説明すると、夜の店ではだいたい出前を取ることができる。ピザハットなども取ろうと思えば取れるが、だいたいが近隣の飲み屋街の居酒屋からの出前である。だいたい2~3店舗ほどの居酒屋や寿司屋のメニューが置いてあることが多い。
「え、いいんですか!?めちゃくちゃお腹すいてます」
「何がいい?このステーキなんて美味しそうじゃない?」
「美香さんは何が食べたいですか?」
「アタシたち食べてきたからお腹いっぱい。ほら好きなの頼みな。」
「じゃあスパムおにぎりがいいです!」
「そんなんでいいの?もっと頼みなよ。ほらステーキとか!」
どうしてもステーキを頼ませたい美香さんに押され、結局スパムおにぎりとステーキとだし巻き玉子をオーダーした。ステーキだけバカ高かった。
その後、ステーキやだし巻き玉子をつまみながら美香さんと夏帆さん、そしてアコちゃんと客あるあるや人生相談で盛り上がった。
「キャバクラの女の子ってキャストっていうじゃない?ディズニーのスタッフさんも同じ呼び方するでしょ。キャバ嬢もディズニーのキャストも夢を売るって意味では同じだと思うの。アタシはミッキーマウス~って思いながら仕事してたもん。まあアタシは蕎麦屋だから夜経験はないんだけどね」
夜職の女はミッキーマウス。美香さんの言葉に、ミニーちゃんじゃないんだと思いつつ感嘆した。確かにそういう意識の持ち方は心が擦り減りがちな客商売ではかなり重要なのだ。
「あらドリンクないんじゃない?持ってきな!てかドリンクバーだから、この席。飲みたくなったら勝手に持っておいで」
格好いい。1杯1000円もするキャストドリンクをドリンクバー感覚で飲ませて頂ける席はそうそうない。でも美香さんのこの感覚、私は非常に共感できる部分があるのだ。夜の店で1番いい客はめんどくさくなくてたくさんドリンクを飲ませてくれる客だという共通認識があるので、自分が客として行ったらそれになりたい思いがある。実際、付き合いで男装コンカフェに行った際も私は全く楽しくなかったのにキャストが席に来た瞬間ドリンクいいですよと言ってしまった。そんなことしたら一瞬で同業だと見抜かれるが。
その後、話はアコちゃんの恋愛相談に移行。アコちゃんは付き合ってないけどお互い依存してる男がいるらしく、でもそいつは普通に他の女とも遊んでるらしく、率直に言ってクソおもろない話だったが美香さん夏帆さんは真剣に相談に乗っていた。アコちゃんはかなり病んでいるようで左手首にレッド・ギザギザ・ニューインジュアリーが見えた。縦にもいってた!(縦にもいく人は本物であることが多い傾向にある)
夏帆さんと美香さんの意見は両者のパーソナリティが反映されていて興味深かった。
夏帆さんはかなりボーイッシュ。絵に描いたようなサバサバ系。
「そんなクソみたいな男さっさと別れなよ。だって自傷行為するほど追い詰められてるわけでしょ?一緒にいてメリットが何も無いじゃん。」
「離れた方がいいですよね、やっぱり…。誰に相談してもそう言われますもん」
アコちゃんは相手の男が百害あって一利なしであることは重々承知なのだ。誰の目から見てもクソであることもわかっている。それでも離れられないからこうして思いを吐き出しているのである。
それに対して美香さんの助言はこうだった。
「アタシもあったよ、若い頃そういうの。お空から飛んじゃって大怪我したりもあった(笑) 離れるのはすごく勇気がいるし辛いかもしれないけど、3ヶ月も経てばそれで良かったと思うようになるかもよ。この人しかいないとか思っててもね、全然そんなことないのよ。世界は広いし人間ってたくさんいるもの。アタシも今は旦那も子供もいるから分かるようになった」
話から推測するに美香さんも精神のアレで色々大変な時期があり、この世から居なくなろうとしたこともあったようだ。表面だけを見れば美香さんは綺麗だし、喋りも面白いし、ステータスが非常に高い人だと思う。それでもどうしようもない何かがあって思い詰めていたわけだし、誰が何を抱えているか分からないなと改めて思う。
まあこれは第三者の意見だが、アコちゃんはだ大先輩からこんな風に助言をされても踏ん切りはつかないのだと思う。恋は盲目と言うように、そういうゾーンに入っている人間は相手の欠点よりも過去にちょっと優しくしてくれたとかそういう情報が大きく見えるものだろう。でも、ほぼ他人のアコちゃんの決して面白くはない恋愛相談に真剣に答えてくれる元キャバ嬢二人は大人として格好良かった。
結局のところ二人は閉店間際まで延長し続け、ずっと私とアコちゃんを指名し続けてくれた。その間も鬼のようにドリンクを飲ませて頂き、非常にありがたくかっこいいお客様だった。しかも「お酒じゃなくてジュースでもいいから持ってきな」と言ってくれる。これから女の子がいる飲み屋に行く予定の皆さんは覚えてほしい。すぐドリンク飲ませる、女の子に嫌なこと言わない、黙らない、酒強要しない。これをすれば少なくとも嫌われることはない。シャンパン開けるけど嫌われている客だって沢山いるし、破茶滅茶な金を使えば好かれるわけではない。
「じゃあ帰るわ。ミーちゃんありがとね。7年振りにこの子と飲みに出かけたけど良い夜だったわ」
連絡先も交換せず、後ろを振り返らずに颯爽と帰って行った美香さんと夏帆さん。
自分ももう少し歳をとって夜を辞めたらガールズバーで若い子に鬼のようにドリンクを奢れる格好良い大人になりたいという夢ができた夜だった。