刑事 印字による被告人の記名はあるが署名押印のない控訴申立書は無効 2441
【事件番号】 最高裁判所第1小法廷決定/平成30年(あ)第1409号
【判決日付】 令和元年12月10日
【出 典】 判例タイムズ1471号16頁
刑訴規則60条は,「官吏その他の公務員以外の者が作るべき書類には,年月日を記載して署名押印しなければならない。」と規定しているが,本件控訴申立書は,日付欄の「30」の部分を除き,控訴申立人である被告人の氏名の部分を含め全て印字されたものであり,被告人の署名押印のいずれもないものであった。なお,本件控訴申立書が封入されていた封筒には被告人の住所とともに被告人の氏名が自署されていた。本件は,このような本件控訴申立書による控訴申立ての効力について無効と解すべきである旨の職権判示をしたものである。
刑訴規則60条が申立書等の書類に署名押印を要求する理由は,①申立書等の記載自体から何人が作成者であるか,換言すれば,当該書面による訴訟行為の主体を明確にさせること,②当該書面が作成者本人の意思に基づき真正に作成されたか否かを確認する手立てとすることにある,とされている(河上和雄ほか編『大コンメンタール刑事訴訟法〔第二版〕第1巻』536頁等)。一方で,書類の作成方式に瑕疵がある場合の効力については,刑訴規則60条に違反することを理由に一律に無効とするものは見当たらず,当該書類の性質(個々の訴訟行為の性質),作成方式の瑕疵の程度等により,その効力を判断すべきものと解されている(河上和雄ほか編『大コンメンタール刑事訴訟法〔第二版〕第1巻』537頁。河上和雄ほか編『注釈刑事訴訟法〔第3版〕第1巻』547頁)。
弁護人が上訴申立書を起案し,被告人に交付して提出を委ねるような場合には,被告人に必ず署名押印をして提出するよう注意を促すなど弁護活動において留意すべきところと思われる。