相続人による、被相続人所有不動産の無償使用と特別受益(土地を無償使用して建物建築し同居の場合)
Q 被相続人所有の土地上に、相続人が自宅を建てて居住していた場合、敷地利用に関する特別受益が認められるか。
A 原則として認められる。被相続人所有「建物」に同居していた場合とは異なる。
特別受益として扱う対象としては、
①土地を無償使用したことで仮にこの土地を賃借していれば支払うべきだった地代相当額を特別受益とする考え方、
②使用借権の評価額分を特別受益とする考え方
などがあるが、多くの裁判例で②を前提とする解決がなされている。
下記で東京地方裁判所判決/平成27年(ワ)第12587号、平成27年(ワ)第37078号を一例にあげる。
事案としては、被相続人(花子)が、原告の夫である冬彦に対し、その自宅の底地として花子の所有する土地を無償貸与し、冬彦は自宅を建築し、花子及び原告と同居。この敷地の使用貸借は、花子が原告の居住の便宜を図ったものであるとして特別受益にあたるかが争点の一つとなった事案。
「4 争点(3)(原告側に対する生前贈与(特別受益)の有無)について
(1)ア 生前贈与4-1(自宅の使用借権)については、証拠(第1事件乙12の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、花子が原告の夫である冬彦に対して所有する本件土地4及び5を無償貸与し、冬彦は、花子の相続開始時に同土地上に自宅を所有して原告と共に居住していたことが認められる。法的には花子と冬彦との間の使用貸借であったとしても、実質的には、花子の子であり相続人である原告が、上記自宅に使用借権が付されたことにより、遺産である本件土地4及び5から、使用借権相当額の利益を特別受益として得ていたものと評価すべきである。そして、鑑定の結果(本件鑑定書3-1)によれば、本件土地4及び5に対する使用借権の割合は10%であり、花子の相続開始時(平成22年9月〈略〉日)の価額は1385万6758円(=平成31年更地価額1億6674万8000円×時点修正率83.1%×使用借権割合10%)であると認めるのが相当である。
そうすると、生前贈与4-1による原告の特別受益は、1385万6758円と認められる。」
※特別受益を肯定した他の例(同居×、アパート経営目的の敷地貸与)・・・東京地判平15・11・17判タ1152号241頁「甲野商店の経営が思わしくないため,原告の生活の援助のために本件土地を原告のアパート経営のために使わせようとしていたこと,・・・本件土地の使用貸借権は,相続開始時において2000万近い価値があり,さらに本件土地の新規賃料は,鑑定の結果によれば相続開始時点で月額33万8000円と高額であることからすれば,太郎と原告との間の本件土地の使用貸借契約の締結(使用貸借権の贈与)は,まさに原告の生計の資本の贈与であるといえ,特別受益(民法903条1項)に当たるというべきである。」