社会的インパクト投資への挑戦 #人生を変える学び 五十嵐剛志 vol.1
――人は時に痛みを伴いながら、人生から学びます。苦しみながらも学びを掴み取った人は、時に別人のように変容を遂げ、その人らしく生き始めます。その時、どのような深い学びが起こったのでしょうか。また、同じ体験をしても学びに変えていかない人もいます。その別れ道はどこにあるのでしょうか。本連載「人生を変える学び」では、そのポイントをインタビュアーの武井涼子さん(グロービス経営大学院教員)に解説してもらいます。
連載第1回は、監査法人に勤める公認会計士からNPOのCFOに転身し内閣府を経てグロービスに入社、KIBOW社会投資で社会的インパクト投資を行う五十嵐剛志さんです。(全5回)
グローバルビジネスリーダーに憧れて会計士に
武井 :最初に今の五十嵐さんの夢を教えてください。
五十嵐:僕の夢は、社会的インパクト投資*のベストプラクティス(良い事例)を日本でつくって、それを体系化して世界に発信することです。そのためにKIBOW社会投資で社会的インパクト投資の実践をしています。それに加えて社会的インパクト投資を行う人を育てたいと思っているので、グロービスで講座を持つのが夢です。
*社会的インパクト投資……社会的リターンと経済的リターンの両立を目指して行う投資のこと。
武井 :素敵ですね。では、今日は五十嵐さんがどうして、そう思うようになったのかを聞いていきましょう。まずは、五十嵐さんのキャリアから確認していこうと思います。大学卒業後に公認会計士になられたのはどうしてですか?
五十嵐:最初に会計士になったのはすごくシンプルで、かっこいいと思ったんです。
武井 :どの辺をかっこいいと思われたのでしょう?
五十嵐:会計士の先生の講演に行ったときに、会計士はグローバルなビジネスのパスポートだと聞いて。
武井 :おお、なぜその先生はパスポートだと言われていたのでしょう?
五十嵐:ビジネスの基礎を一通り学び、知的体力がつくと。それはいいな、と思って割と安易な発想で勉強を始めました。
武井 :勉強中は何を考えられていましたか?勉強の内容を見てなるほど、これこそがグローバルビジネスへのパスポートだ「がんばろう」!という感じ?それとも、とにかく「どうでもいいから、受かってやろう」みたいな感じでしょうか。
五十嵐:正直、途中からは「とにかく受かろう」とばかり考えていました。気が付くと、視野をどんどん狭めて会計士の試験勉強以外のことは、1ミリも考えないぐらいの生活をしてました。
武井 :どれぐらいの期間、そうなさっていらっしゃいましたか?
五十嵐:僕は大学の4年間、ずっと勉強してて。
武井 :すごい!
五十嵐:プライベートもなく。いろんな大切なものを失いながら。
武井 :でも、青春を謳歌する女子大生とか、周りにうろうろしていますよね。
五十嵐:合コンにも行かず、飲み会にも行かず。
武井 :本当ですか!
五十嵐:そのときは、社会貢献とか、何も考えてなくて。
武井 :それは、グローバルビジネスへのパスポートを夢見てる状態ですもんね、まだ考えないですよね。
五十嵐:試験勉強になると、とにかく人に勝つことが全てなので。蹴落としてでも勝ちたい、と。
武井 :たしかに、試験には、人をそういう気持ちにさせる効果がありますものね。公認会計士試験には、大学時代に受かったのですか。
五十嵐:大学卒業して1年目で受かりました。
武井 :それは、なかなか優秀ですね。
五十嵐:いえいえ。1年間、無職で勉強に専念したんです。周りの友だちは就職してるのに。その時は「おかしいな、自分より努力してない人が楽しそうな生活をしているな」って。
武井 :ますます負けてはならない。
五十嵐:そうなんです。負けてはならない、悔しいって思って。何とか踏ん張って勉強して、運よく合格できたと。
思っていたのと違う現実
武井 :合格したあとは監査法人へ入社しますね、夢のグローバルビジネスへのパスポートを手に入れた実感は?
五十嵐:思っていたのと違うなって。
武井 :やはりそうきましたか(笑)。どの辺がどう違いましたか。
五十嵐:いきなり活躍できるイメージがあったんですよね。
武井 :分かります、分かります。何せ、パスポートを手に入れたんですもんね。
五十嵐:ですよね。自分はもう有頂天になってたので。
武井 :「受かったぜ、いえーい!」という感じですかね。
五十嵐:そうです、「受かったぜ」と。もう誰にも負けないと思ったんです。でも、当たり前ですが、就職先は、監査法人なんで、気づいたら周り全員も会計士で(笑)。そこからまた競争が始まるということだったんですね。そして、実は、そこで、僕は通常、新米の会計士がやる監査ではなくて、アドバイザリー業務をキャリアのスタートに選んだんですね。
武井 :どうしてアドバイザリー業務に?
五十嵐:会計士は、本来、「まず監査を3年経験する」というセオリーがああります。新米会計士の育成の仕組みも監査がベースにあるんです。
ただ監査に行けば監査のことは教えてくれますが、日本の企業の監査をしても、グローバルビジネスの基礎を学べるかっていうと、そうではないだろうな、と思ったんです。
武井 :なるほど。ご自分の求めていたグローバルな活躍のイメージと、監査業務は違ったのですね。
五十嵐:そうです。違いましたね。最終的には自分はビジネス、、、なんか抽象的なビッグワードですけど。そこで、グローバルビジネスリーダーになりたい。日本企業の監査をしてる場合じゃないなぁ、と。
武井 :たしかにグローバルリーダーと、監査とはちょっと違うイメージもありますね。
五十嵐:監査っていうのは財務情報の信頼性を保証するために行うので、基本的にチェックをしてミスを指摘をするのが仕事なんですね。でも僕は、チェックする仕事じゃなくて、もっと主体的に、あるいは経営者とともに同じゴールを目指して仕事がしたい、より難易度の高い仕事がしたいと。それを求めてましたね。
武井 :どんな経験でしたか、アドバイザリー業務は。
五十嵐:国際財務報告基準(IFRS)のアドバイザリー業務だったんですけど日本のメガバンクが相手で全員日本人、言語も日本語。グローバル感が全然なかったですね。
武井 :銀行に会計のことを教えるという仕事だったのでしょうか?
五十嵐:はい。でも教えると思いきやですね、もう相手も結構知ってるんですね。知識の量の戦いみたいな感じで。「こんなのありますよ、知ってますか」「知ってます」。相手が知っていたら価値になりませんっていう。
武井 :相手が知ってたら価値にならないわけですか。そうすると、どうしたら成功なんですか?
五十嵐:成功した体験は、ないかもしれない。
武井 :いつも相手が知ってたからですか?
五十嵐:というか、知識だけで価値は提供できないんだな、っていうことを学びました。
武井 :活躍したっていう実感は?
五十嵐:それは若干あります。
武井 :どんな活躍でしたでしょう?
五十嵐:新規事業の提案を積極的にしていて、経営陣は前のめりでそれを聞いてくれました。これからは財務情報だけでなく、社会性などの非財務情報の価値が高まっていくので、そのアドバイザリーや監査をやっていくべきだと提案しました。実際に案件化にも成功しました。
後にNPO(Teach For Japan)に行きたいって言ったときに出向させてくれたのは、その蓄積があったからじゃないかなと思います。
武井 :なるほど。でもビジネス界のグローバルリーダーとして個人で活躍したいっていう話と、NPOに行きたいって話には、随分ギャップがあると思うんです。NPOに行きたい気持ちがどう生まれていったのかを教えていただけますか。
五十嵐:もともとは、自分の利益にしか興味がなかったわけですよ(笑)。
武井 :そうですよ(笑)、偉くなりたい活躍したいって話でした。
五十嵐:そう、地位を高めたい。
武井 :勝とう、みたいな。
五十嵐:蹴落としてでも勝とうという一方で競争に疲れたなって感覚もあったんです。1番大きな出来事はやっぱり、体を壊したことで。体が動かなくなっちゃったんですね。
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