徳力さん角度補正済

「世間知らずだった自分へ」 noteプロデューサー徳力基彦氏 Vol.1

note公式アカウントの開始を記念してnoteプロデューサー・徳力基彦さんにスペシャルインタビューをしました。NTTからコンサルやベンチャーへの転職、社長就任など華麗なキャリアの裏には数々の苦悩や想定外の出来事がありました。そして、意外にもGLOBISとのご縁も深いのです。試行錯誤の連続のなかで「学び」はどのように道を切り拓く力になったのでしょうか。全3回のインタビューです。

ITというインフラに出会う

編集部:最初に入った会社(NTT)、大好きでいらっしゃったんですよね。

徳力:もともとはモラトリアムで、内定もらえなかったら留学しようかな、とか適当なことを考えてた学生だったんですけどね。

会社を好きになっていったキッカケは、同期です。当時のNTTは同期が全国に3000人、僕がいた東海支社配属だけでも300人いたんですけれど、その300人の中で目立つのに必死で、同期300人の飲み会の幹事をしたりしました。配属後も、各地にバラバラになった同期のつながりを保とうと、同期の名簿を作ったり、定期的に静岡や三重へ遊びにいったりもしてて。

編集部:すごいですね!

徳力:モラトリアム就活をしていましたけれど、同期はすごく面白いやつばかりで、すっかりNTTが大好きになっていたんです。

編集部:まず人を好きになって、そこから会社にも意識が向くようになった。

徳力:そうです。当時、社長の児島さんが「これまでの電話の会社から、マルチメディアの会社になるんだ」とおっしゃっていて、そこに貢献できたらいいな、と働いてたんですけど。

テクノロジーを駆使する会社を目指しているはずが、社内の仕事の仕方は旧態依然としている。「この会社を変えなきゃいけない!」と思っていました。

編集部:なるほど。最初は営業の仕事をされますよね。

徳力:全然向いてなかったですね。それは自分が社長になった時も同じで、僕は営業力に自信がなくて、買ってくれてもくれなくてもどっちでいいと逃げてしまう性格なんです。

編集部:すごく営業に向いてらっしゃいそうなのに意外です。NTT時代に転機になったことは何ですか?

徳力:社内のイントラネットづくりを任せてもらうようになったことですね。急に1人1台パソコン時代が訪れて、僕みたいなパソコン好きがえらく重宝されたんですよ。お役立ちリンク集や組織のトップの本部長のページを作ったりして営業部署にいながら、なぜか社内の情報共有推進に力を入れていました。

編集部:完全に広報……というか、ブロガーのような動きですね。

徳力:仕切るのが好きというか、幹事癖なんでしょうね。結果、人事に「本社の方が向いてるんじゃないか」と思ってもらえて、株主対応をする部署に異動になって東京に行くことになりました。

大好きな会社だからこそ、変えたかった

徳力:ただ、そこから寂しい東京生活がスタートします(笑)。というのも、当時NTTは再編成されて、西日本と東日本に分かれることが決まってしまって。東海地区の同期は西日本本社に行くようになってしまったんですよね。あまりに東京に友達がいなくて、最初の年のゴールデンウィークの5日間で会話した人は、コンビニの店員だけみたいな羽目になり(笑)。そこから1年以内くらいに、グロービス(・マネジメント・スクール)に通うようになるんです。

編集部:キッカケは何ですか?

徳力:残業代が増えてお金ができたのが大きかったですね。最初に受けたのは、クリティカル・シンキングの授業かな。

編集部:何か目的があったんですか?

徳力:単純に言えば、NTTで出世したかったんです。で、出世するならMBAかなと。ところが、会社のMBA留学枠がどんどん狭くなっていったんですよ。焦って調べて、グロービスを見つけたんです。

編集部:「会社を変えたい」という思いもありましたよね。

徳力:「同期たちとこの会社を変えたい!」という思いが一番強かったですね。すごく面白くて濃い同期がたくさんいて……彼らとなら、会社を変えられると信じていたんです。やる気のあるメンバーも多かったし、本当に優秀な人が多くて。ただ、一方で数年で優秀でやる気に満ちていた同期が会社のやり方に染まってしまっていくのも感じていて、焦っていたのはあります。

編集部:カルチャーを変えたかった?

徳力:僕、単純作業が大嫌いなんです。やりながら、この仕事に意味はあるのか?と思ってしまう。だから、もっと効率よく仕事をすればみんな楽しくなるのに、って。でも、同期すらなかなか受け入れてくれなくて。

編集部:信頼している同期にも。

徳力:そう。ショックでした。ただ、価値観の話ですからね。今はもう少し大人な対応ができると思うけど、当時は、偉い人になりたかっただけの人間なんで、うまく説明できてなかったように思います。

学びは「脱皮するくらいのインパクト」


編集部:グロービスでの体験で、印象に残っていることは何ですか?

徳力:今でもよく覚えてますけど、「ビジネスに正解はない」という先生の言葉。僕らはマークシートで育っているから、正解探し世代なんですよね。

だから、仕事でも正解を探す。「事例を教えてください」「私はどうすればいいですか?」みたいな。そういう意味では、グロービスの授業はめちゃめちゃ刺激的で。ディスカッションをすると、「同じテーマでも、違う会社に勤めている人はこんなに違う考え方をするんだ!」というのが見えて楽しかったですね。

あと、隔週の授業の間に、必ず飲み会やってたんですよ。「予習」という名の飲み会を。授業の後も飲みにいくし、予習でも飲みにいくし。

編集部:人との出会い、世界の広がりが大きかった。

徳力:もちろん、知識も大きいですよ。印象的だったのは、クリティカル・シンキングのクラスで扱ったケース。急成長している中でさまざまな問題が出始めている某航空会社が出てくるんですけど。みんな、この噴出している問題をどのように改善すればいいかを一生懸命考えていたんです。そこで先生がおっしゃった解が、「成長のスピードを止める」だった。「えっ!?」ですよ(笑)。ビジネスの正解的には「成長は正しい」と思うじゃないですか。でもそうか、スピードをゆるめるって選択肢もあるんだ、っていうのは衝撃的でした。

編集部:これまでの「正解」を覆された。

徳力:その点で、グロービスには感謝してます。いわゆるマークシートで正解を探して点を取れれば、それなりの人生を歩める社会で育った世代の人間だから、当時は相当脳みそが固かったと思います。

ただし、同じ授業を社内講座で受けてたら、そういう発想にはならなかったでしょうね。似たような考え方・価値観の人と議論するのと、多様な会社の多様な価値観の人と議論するのでは違う。本当の意味で「正解はない」という広がりが当時のグロービスでは体感できました。

編集部:そこで、転職が視野に入ったのでしょうか?

徳力:グロービスに通い始めた時は、転職するとかさらさら考えてませんでした。最初のクラスにグロービスの社員の方がおられたんですけど、元NTTだとおっしゃるんですよ。で、それに対する僕の第一声は、「NTTでも転職できるんですね!」でした。

恥ずかしい話ですけど、NTTって「通信会社」だから、自分は「通信会社」にしか転職できないと思い込んでいたんです。社内でも、経理なら経理畑でずっと、人事なら人事畑で、というラインがあった。縦割りの業界やラベルで判断する、という考えに染まってたっていう、象徴的な逸話です。

編集部:結局その後、転職なさったんですよね。

徳力:NTTでいろいろ壁にぶつかったのが大きかったですね。ちょうど当時、グロービスではキャリアのワークショップが実験的に開かれていて。

編集部:ありましたね。

徳力:そこで、自分は「先導者」、とくに「こっちへ行くと楽しいよ」っていうふうに誘う「水先案内人」的だ、という特徴があるとわかり。併せて「ベンチャーの方が向いてるかも」という話が出たので、ベンチャーへの転職活動をしました。当時はコンサルにも興味があったので平行して受けていて、最終的に内定をくれたコンサルに行くことになりました。


学ぶことで世界観が変わり、大企業を辞めて転職した徳力さん。その後は、さらに想定外の人生を送ることになります。

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