社会的インパクト投資への挑戦 #人生を変える学び 五十嵐剛志 vol.4
――体を壊した後、Teach For Japanで働くなかでNPOが構造的に抱える課題を解決するために自身でもNPOを立ち上げた五十嵐さんに「社会貢献をするのいいところは何か」と問います。
社会貢献の何がいいのか
五十嵐:正直、「社会貢献イコール良いこと」で当たり前だと思っていました。うーん、自分がそこにいていい存在なんだっていうことを自分も周囲も理解できるし、新しいことにチャレンジできる。
武井 :自分の存在意義ということですね。でも、それって別に社会貢献でなくても感じている人はたくさんいると思うんですよ。新しい挑戦も企業でもできますし。
五十嵐:それはそうですよね……
武井 :そうですね、では質問の角度を変えてみましょう。社会的インパクト(社会や環境にとっていい影響を与える結果)って何だと思いますか。
五十嵐さんは今社会的インパクト投資の現場で働き、そこに可能性を見出しているということは、何か社会的インパクトについて自分の中に「これが価値だ」と考えているものがあるのではないでしょうか。
ちなみに、私はNPOの寄付が集まらないのは、結局みんながそこに社会的なインパクトがあると思わないからではないかと考えているんですけどね。
五十嵐:僕が何に価値を感じるかというと、機会が平等に与えられているところに感じるので、機会の不平等を是正するような――その是正が社会的インパクトの1つだととらえます。
武井 :これまで教育の例が出てきていますが、それ以外の分野ではどうでしょう?
五十嵐:医療、福祉、介護、芸術もそうかもしれないですね。誰にはチャンスがあって誰にはチャンスがないっていう状態を変えたいです。
武井 :言い換えれば、人生の選択肢を増やしてあげるっていうことですか。
五十嵐:まさにおっしゃるとおりです。
武井 :それは分かりやすいですね。ではそれについて考えていきましょう。人生の選択肢を増やすと何がいいのでしょうね。
五十嵐:主体的に選ぶことができて、その人が幸福感を感じることができるのではないでしょうか。
武井 :選択の科学だと選択肢は少ないほうが意外とよくて、4つぐらいだとコレだって選べるんだけど、12個ぐらいあるともう選べないっていう話がありますね。
五十嵐:選択肢が多ければ多いほどいいということではないと思うんですけど、初めから選択肢が与えられていないっていうのはやっぱり問題じゃないかと思っていて。そもそも知らないっていうこともあるかもしれないですけど、知っていてそれができない、なぜならお金がないからというのは防ぎたい。
武井 :そうすると2段階あるということですね。何かやりたいと思ってる人がいて、そこに選択肢がないという状態を解消してあげたいと。次はそれをやる時にお金が理由でできないという状態も避けさせてあげたいという感じですか。
五十嵐:そうですね。
武井 :お金以外にも、できない理由っていっぱいあるはずなんです。例えば、地理的な問題とか。でもお金で解決できる課題も多いと考えている。そんなふうに理解していいのかな。
五十嵐:そうですね。僕は体を壊したことが大きくて、困ってる人とか苦しんでる人、それから特に子どもの貧困などの解決をしたいと考えています。
NPOと社会的インパクト投資の違い
武井 :今のお話はNPOの活動内容だすると、スッと入ってくるんですが、社会的インパクト投資の投資先は株式会社で収益事業ですよね。
五十嵐:そこは非常に難しくて、最も支援を必要としている方々に寄り添ったきめ細やかなサービス提供は正直NPOの方がやりやすいですね。お金を持っている人に対しては通常のビジネスでサービス提供ができるし、最も支援を必要としている方々には行政とかNPOが対応しています。でも、そのどちらにも当てはまらない層、こぼれてしまった層がありますよね。
そこがまさにミッシングミドルというか、世界的にその層に対する支援が不足していますが、それを寄付でも従来の投資でもない社会的インパクト投資で解決できるんじゃないかと。
武井 :具体的にどんなミッシングミドルに対する投資がありますか?
五十嵐:うーん、僕が今モヤモヤとしているところは実はそこだったりして。
武井 :そこに何かあるのかもしれない。今のところ、コレだと思うものにまだ出会えてないっていう感じでしょうか。
五十嵐:社会的インパクト投資の対象になる社会的企業って何百社ある中の一社なんですよね……
収益性と社会性の両立を目指すのが社会的インパクト投資なんですけど、ちょっと今は収益性に寄りがちなんじゃないかという思いが自分の中にもあります。
武井 :そこは私もすごく共感します。
五十嵐:IRR(内部収益率)がどうのという議論よりも、もっとインパクトの話をしたいなと思うことがあります。
武井 :そうするとNPOが最も支援を必要としている方々を支えて、そうじゃない人たちに対しては社会的インパクト投資で何かができるはずだと考えていらっしゃる。
五十嵐:もしくは最も支援を必要としている方々とそうじゃない人たちに同時に価値を提供して、(お金を)取れるところから取って、取れない人たちからは取らないっていう、いわゆるハイブリッドモデルに社会的インパクト投資はすごい向いてるのではないかな、と。
武井 :今の話をまとめると、NPOだと細かい金額の積み上げしかできなくて、すごく大きくスケールするかというと難しい、でも社会的インパクト投資だと大きな資金をバンと入れられるのでスケールしそうな気がするからいいっていう感じですかね。
五十嵐:はい、そうですね。社会的インパクトを拡大して社会を変革させるためにも、十分な収益を確保して事業を持続可能とするためにも、スケーラビリティは大切になってきます。
vol.5(最終回)へ続く