知ること自体に意味がある #学びの時間 大学生 三上夏実さん
――さまざまな人が生活の中でどんなことを学んでいるのかを聞く連載「学びの時間」。第2回は東京外国語大学 中央アジア地域ロシア語科でロシア語とウズベク語、そしてジェンダー論を学ぶ大学2年生の三上夏実さんです。(取材・写真・文=吉峰史佳)
世界史は「流れ」だと知った高校時代
高校に入るまで世界史は暗記だって思っていました。でも、高校の先生がすごくいい先生で、世界史は「流れ」だってわかったんです。そこから世界史が大好きになりました。特に中央アジア地域は、もともと遊牧民の人たちが住んでいたところに、アラビア半島の商人たちの宗教であったイスラム教が入ってくる流れが面白くて大学で学びたいって思いました。
性別で役割が分かれるのが不思議だった
高校時代にもう1つ興味があったのがジェンダーです。私の家は、父と母が同じくらい働いて家事も両方がやるのが当たり前なんです。でも父が作ったお弁当を学校に持って行くと、友達に「お父さんがお弁当をつくるなんて偉いね」って褒められる。母だと褒められない。なんでだろう?って純粋に疑問でした。
高校の教育実習にセクシャルマイノリティの人が来たんです。北海道大学でジェンダーの研究をしていた人で、ジェンダーって言葉とか、ジェンダー研究に関する色々なことを教えてもらいました。自分がモヤモヤしていたことが、どうしてそう感じるのかがわかったし、それをテーマに研究している人がいることもわかりました。だから、ジェンダーについてもっと勉強したいって思いました。
ロシア語、ウズベク語、そしてジェンダー論
東京外大にしたのは、その両方が学べるからです。専攻の中央アジア地域は元々ソ連の一部でロシア語を話す人が多く、ロシア語の文献も多いので、1年生からロシア語を学び、2年生になってウズベキスタンの公用語であるウズベク語を始めました。3年生からゼミが始まるのでジェンダーゼミを選択しています。卒論では現代ロシア、中央アジア社会あるいはソ連時代のジェンダー問題について扱いたいと思っています。
悩みが深まって大学生は大変です
ジェンダー問題は、当初自分が思ったいたよりも本当に根深い社会問題です。勉強したことでいろんな発言に敏感になって、ニュースに反応したり、SNSの投稿とかに「知らないから言えるんだな」ってガッカリしちゃったり。でも、人に対して知らないんだなってガッカリするのってよくないですよね、、、
例えば#KuToo(ハイヒールを職場で強要されることに対する問題提起をする運動)に対してSNSで「オシャレでハイヒールを履いてるから、邪魔しないで欲しい」って投稿している人がいたんです。履きたい人が履くのはいいと思うんですけど、でも、ハイヒールがどうしてオシャレかって言ったら、美しいとかスタイルが良く見えるとか。それって男性のフェティシズムとか社会的要因から来ている価値観であって、もしハイヒールが美しいとされない時代や文化に生きていたら履きたいのかなと思ったり。ハイヒールで外反母趾が行き過ぎてしまった素足の写真を見て萎えたり。複雑な気持ちになっていくのでジェンダーについてやりたい気持ちとやりたくない気持ちがあります。
多様性について理解できる人間でありたい
子どもの頃は北海道大学近くの小学校に通っていて、いろんな国の子がいたんです。仲良しはモンゴルの子だったり。図書館でイスラム教徒の人がメッカの方を向いてお祈りをしていたり、ラマダン(断食)の時期はエジプトや中東の子は給食を食べなかったり。外国の人に対して偏見を持ちにくい環境で育ったな、と思います。家庭環境もそうですけど、せっかくここまでそういう視点を持ってきたから、多様性について理解できる人間でありたいです。
中央アジアの国々の名前によく見られる「~~スタン」は、「~~人の土地」って意味なんですね。だからカザフススタンとかウズベキスタンは、「カザフ人、ウズベク人の土地」っていう意味なんです。でも、2019年の冬に1カ月間ほどそれらの国々を訪れたところ、実際にはカザフ人、ウズベク人以外も沢山住んでいたんです。なぜならもともと様々な民族が混在してきた地域だから。
ソ連時代に「民族共和国境界画定」といって民族ごとの国境を決めたんですけど、それが実際と合致してない。ソ連時代はロシア人が沢山住んでいましたけど今は多くの人がロシアに帰っちゃって、逆にソ連時代にロシアにいた人たちが中央アジアに戻ってきて。そうすると、中央アジアにいるロシア人はどんどんマイノリティになる。新しい社会問題もこれから出てくるのかなと思います。日本は民族意識の希薄な島国なので、民族問題を実感するのはなかなか難しくて、文献を読んで理解するには結構な労力がかかります。考えすぎて、頭がおかしくなりそうというか(笑)
知ること、そのこと自体に意味がある
私は日本人で、日本だとマジョリティだから日本は住みやすいけど、外国人だったら、いろんな人がいる中央アジアの方が住みやすいかもしれない。一長一短があります。
ジェンダーをやっていると、よく「社会を変えたいの?」って聞かれるんですが、私はそうではないんです。勉強は手段であって、その先に別の目的がある方がいいと思う人もいるかもしれないけど、私にとっては知ること自体が一番の目的で、知らない人に知ってほしいなって思います。
大学に入ってから、いろんなことに敏感な人たちがいるのが分かって、どんなことも断言できなくなりました。だけど、知るって大事だと思うんです。相手について知っていることで、コミュニケーションのリスクを減らすことができます。海外で日本について知っている人に会うのと、まったく知らない人に会うのでは、こちらの気持ちが違うし。
将来は論文なのか、それとも出版とか他のメディアなのかわからないですけど、自分の得た知識を、それを必要としている人たちに伝えたいなって思います。
【三上夏実さん プロフィール】
札幌旭丘高校卒業、東京外国語大学国際社会学部中央アジア地域ロシア語科在籍中。趣味は、歌を歌うこと、楽器を演奏すること、旅行。