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コスガツヨシ Gardener'sDelight vol.3 DJインタビュー


イントロダクション

———本日はお忙しい中お時間をいただきまして誠にありがとうございます。コスガツヨシさんへのGardener'sDelight vol.3DJインタビューを始めさせていただきます。
コスガツヨシ:
どうぞよろしくお願いします。

———Gardener'sDelight vol.3の音源制作が終わりました。まずは音源の制作ご苦労様です。制作を終えられた感想や、今のお気持ちを教えてください。
コスガツヨシ:
あー、ちょっと時間かかっちゃったなという、(音源の完成が)春になったからね、冬のミックスが。 その分だけ永いあいだ、毎年冬になれば聴けるものにはなったかなと思います。 また夏にでも冬のしんしんとした焚き火のパチパチ鳴るようなあの雰囲気を思い出すにもまたいいものなのかな、という感じもします。

———『冬の季節感を感じるジャズ』というオーダーでの制作はいかがでしたか?
コスガツヨシ:
悩みましたね。その……ジャズという幅の広さと、冬の包容力の広さと。冬はやっぱ音楽聴くには最適やなと思うところもあるので。空気の乾燥具合とか、音楽に向き合える環境というか。それもあるから結構絞るのに苦労したっていうところもありますね。
Gardener'sDelightの意向に沿ったというか、Junzoがやってくれた夏秋からの流れを組み敷いたりっていうので、一緒にやってもらったのがやっぱ、方向を定める上でのだいぶ手助けになった。みんなで作れたし、シリーズの核心に迫るものができたのかなという感じはしてます。

———非常に完成度の高い作品が出来上がりました。ジャズはコスガさんにとってキャリアの最初から大きな存在であるジャンルかと思います。制作の依頼を受けて当初、どのような思いや構想を持たれましたか。
コスガツヨシ:
うん。さっき言ったようにジャズの幅の広さというか、包容力の広さというかな……いろんな解釈でのジャズがあるやろうし。インストゥルメンタル、歌ものとか、色々悩むとこあったんやけど……はじめはやっぱプレッシャーもあったかな。ジャズというものの。
俺の中でジャズはやっぱ憧れで、まだ自分の手の中にはないものでもあるし。でも大好きなものでもある。クールなものでもあるし、無限なものであるというか……想像を超えてくる要素がいっぱいあるから。それをこう、自分の作品の中に落とし込む。ジャズというテーマで落とし込むっていうプレッシャーがやっぱ、でかかったっていうことかな。

———ありがとうございます。”憧れ”という言葉が発せられましたね。
作品中で表現したかったグルーヴや心情などの世界観はありましたか?また、表現できたと思うものがあったら教えてください。
コスガツヨシ:
うーん、選んだ曲はすべて俺の中でのエモーショナルなもの達で、結構、なんていうんやろうな……(自分の)人生の中でジャズを象徴する曲たちの中から選べたかなという……また、なんやったっけ?

———また、実際に出来上がった作品で表現できたと思うものがあったら教えてください。
コスガツヨシ:
うん、やっぱ冬っていうもう1つのテーマ、でかいテーマがあったので毎冬聞けるように、冬になったらまたあの45min.の旅に出てみようか、という気持ちになれるようなものを作りたいと思ってたし、それに近づけた部分はあったと思います。

———コスガさんの内に在るジャズをGardener'sDelightというミックスシリーズに落とし込めたということでしょうか?
コスガツヨシ:
そうですね。それでまたなんつうんやろうか、ジャズって言うと、やっぱり4つ打ちに派生したジャズみたいなものもはじめはプロデューサーとのミーティングで色々思い浮かんだものをバンバンバンバン出してって、そこからは大分そぎ落とされたと思うんで。ある意味偏っていったというか、ある意味その世界観が統一されて広がったように自負はしてます。

———まったく同意です。
コスガツヨシ:
できたんじゃないかな。

自身が店主をつとめるBringYourFavoriteMusicにて。

音楽との出会い

———すこし質問の方向を変えて。音楽との最初の出会いや、夢中になったグループやジャンルがあれば教えてください。
コスガツヨシ:
音楽の最初の出会いは、日本の滋賀。滋賀県の彦根の田舎で出会ったX JAPANであったり、そこでギター弾き始めたりもしたんですけど。

———年齢ではお幾つくらいの時期ですか?
コスガツヨシ:
それは中学生。13-4才?

———音楽を意識して聴きはじめた、ということですね。
コスガツヨシ:
意識して聴きはじめた。古い、従兄弟からもらったビートルズや、おかんの会社のあっせんで買ったスティーヴィー・ワンダーやったり。レイ・チャールズやロッド・スチュワートとかもあったし、なんかいろんなアーティストの海賊版コンピレーションみたいな、ああいう感じのものからどんどん広がってったりもして。

———X JAPANと並行してそういった洋楽も聴かれていたと言うことでしょうか。
コスガツヨシ:
そうそう!で、やっぱ高校で田舎を出たいっていうのがでかくて(渡米して語学学校に留学する)。そこで(渡米先で)知ったルーツ的なブルースであったり、そっから発生したジャズ。当時はアシッドジャズも流行ってたし。

———ジャズとの最初の出会いというのは高校生の時期ということでしょうか。
コスガツヨシ:
そうかね。でもレイ・チャールズとか、中学校の時にこう、親しみを持って聞いてたものはあるけど、それがジャズなのかなんなのか、ビートルズとどう違うのかはあんま判らず聴いてた部分もあるかもなあ。スティービーワンダーとどう違うのか?スティービー・ワンダーもポップな側面を聴いてた部分が多いやろうし。

———聴きやすいポップな歌謡曲として聴かれていた、と。
コスガツヨシ:
というかポップな部分がやっぱコンパイルされてるから。この曲聴いたことある!とか。そういうキャッチィな部分でまず入ってったというのはあるやろうけど。
やっぱ家を出て、ブルースであったりに触れていくうちに、そのスティービー・ワンダーの中でもコアな楽曲を聴いたりとか。で、そこでなんか発見することが、胸騒ぎがするというか……心躍る部分が多かったというか……て言うとこから、やっぱ自分で掘り下げることになっていったのかなという感じがするんですね。
バンドで言うと何やろうな?やっぱレアグルーヴ?はよく聞いてたし、アシッドジャズの時代だったから。ブランニューヘヴィーズ……ジャミロクワイ……コーディロイというバンドもあって。その辺のバンドには夢中になって聴いてたかな。

———時期的にアシッドジャズのブームはリアルタイムで経験されたかと思います。
コスガツヨシ:
リアルタイムやね。

———初めて人前で演奏した機会はいつですか? また、どんなステージと演奏だったか教えてください。
コスガツヨシ:
初めては……、もしかしたら高校の時に一時帰国した滋賀の田舎で。カラオケバーのようなライブハウスで演奏したのが初めてかな。んで、その頃はなんのバンドやったっけな?

———バンドでの演奏ですか?
コスガツヨシ:
バンドやね。ビジュアル系バンドやったから。

———当時ご自身で演奏する音楽というのはビジュアル系だったんですね。
コスガツヨシ:
それはやっぱ地元の友達たちとこう、シェアできるものやったから。高校入ってブルースとかは弾いてたけど。

———ジャズやアシッドジャズ、レアグルーヴと言ったものは、コスガさんのお独りでの世界としてあった、ということですか?
コスガツヨシ:
高校時代の後半とかはそうやね。あと地元の先輩やったり服屋さんの店員さんやったりDJ始めた友達やったり。

———周りの友達とはビジュアル系の音楽でつながり、それとは別に自分だけが聞いてる音楽があった、と。
コスガツヨシ:
地元ではそういうビジュアル系からポップスから色々シェアするものはあったけど、そっから高校で(海外に)出てるから、もうその(初ライブの)時点でアメリカ行っちゃってるから、また全然違うコミュニティの中に生きてるし。
初めはオクラホマとか行ったからカントリーとかもあって、でもそこには入ることは無かったな、バンドやりたくて。その頃はやっぱまだツェッペリンとかブラッククローズとかサザンロックみたいなもの、ヘヴィメタルとかもあったし。そういうものに傾倒してたっていうとこはあるかな。うん。

———現在のコスガさんの幅広い音楽性のルーツを垣間見ることができますね。初ライブの反響はいかがでしたか?
コスガツヨシ:
良かったと思う。うん。自分でも思ったよりも出来たような気もするし。楽器はギターですね。そう。だから中学2、3年生の頃にはX JAPANをコピーしたりしてた。で、アメリカ行って、アメリカでもバンドを組みたかったんやけど、そこまでは至らず。ブルースセッションする、2人で替わり番こにソロを取る、とかそういう遊びをやってたんかな。

尊敬するアーティストたち

———尊敬しているアーティストがいれば何人でも教えてください。
コスガツヨシ:
挙げきれないですけども……スティービー・ワンダー、カーティス・メイフィールド、マーヴィン・ゲイ、ダニー・ハザウェイ、ニーナ・シモンズ……ジェームス・ブラウン。挙げたらキリがないですけど、やっぱり黒いものにしか興味がなかった時期があったから。 高校、大学と。大学の頃かな。やっぱり。

———そのアーティスト達をリスペクトしている理由があれば教えてください。
コスガツヨシ:
あー、理由は……無いかな。良いから。好きで好きで格好よくて影響を受けた。と言うのだけでも充分リスペクトのあれになっちゃったけど。ま、先駆者でもあるのかね、みんな。皆音楽を切り開いてきた人達なのかなという。

取材中は終始、音楽への深い造形や愛情を感じさせた。

高校からアメリカへ

———コスガさんのミュージシャンとしてのキャリアについてお訊きします。
'91年に渡米されて、ボストンのバークリー音楽大学で学ばれています。渡米中や学内ではどのように過ごされていましたか。
コスガツヨシ:
どのようにというと……?高校生やね。

———高校生ですか。
コスガツヨシ:
語学学校からやから。

———高校の前に語学学校ということですね。真面目に勉強されていましたか?学業以外ではどんな時間を過ごされていたのでしょうか。
コスガツヨシ:
ドル安かったし、CD結構買ったりできた。レコードも結構買ってたな。
で、向こうのパーティーカルチャーというものに触れたこともあったし、ローラースケート場行ったり。学期が始まる頃にはウェルカムバックパーティーがあったり。それはダンスパーティーで、なんかそれがもう根付いてるというか、もう本当に年間行事のようにあるっていう感じやから。それは高校生にしても大人にしても、という感じで。

———セッションの機会というのは多かったのでしょうか。
コスガツヨシ:
セッションはやっぱりバークリー時代はすごく多かった。ミュージシャンだらけやからね。それが1番の会話やから。
高校の時はやっぱ(音楽)好きな子がこう集まってギターを弾き合うとか、ブルースを替り番こに弾くとか、そんな感じにとどまったけども。あとは音楽を聞き合ったり。うん。アレかっこいいな、とか。

———バークリー在学中の学内にはどんな人たちがいましたか。 また、現在でも交流のある人がいれば教えてください。
コスガツヨシ:
cro-magnonのメンバーは皆そうやし、あと、才三(Toshizo Shiraishi a.k.a THG)とか。中村亮は入れ違いぐらいやったけど、沖縄のドラマーのね!上原ひろみちゃんとかもそういう世代です。あと、元ちゃんね。元晴君(SOIL&”PIMP”SESSIONS)。サックスの元ちゃんはもう長いこと一緒にいたし。あと三浦淳吾ね、LoopJunktionの。LoopJunktionのバンドは全員そうやったし、あとはうちの嫁、有坂美香はもうずっとそれ以来一緒やし……かな。

日本での活動を開始する

———'99年に帰国されて、その後すぐにLoopJunktionに参加されています。参加の経緯について教えてください。
コスガツヨシ:
えーと、LoopJunktionには、(日本に)帰ってきて、ベーシストが病気で初めに俺はベースで入って……。
あ、バークリーはジョン・メイヤーとかも同世代やね。あの、話戻るけど。
ジョン・メイヤーとか、 エスペランザ・スポルディングスとか。エスペランザ、ベーシストね。女性の。言い忘れたな。そんな感じ。あと、アビシャイ・コーエンとか。

———大物だらけですね。素晴らしい環境です。
コスガツヨシ:
コーエンブラザーズ一緒やったかな。あとドラムのアントニオ・サンチェス。 世界的に有名なドラマーで映画とかサウンドトラックやったりしてる。で、話を戻して。

———'99年帰国後からです。
コスガツヨシ:
ベーシストが病気で、俺がベースでちょっと入るようになって。で、ベーシストが戻ったと同時に俺はギターとして入って……そこで初めのアルバム(Five sketchies of city life)を作ったのかな?で、それは結局インディーズ(?)で出したんやけど、(その後)ソニーで2枚出して(Ties. Turkey)ていう感じですね。

———当時のシーンでバンドスタイルのヒップホップというのはどの様に受け止められていたのでしょうか。
コスガツヨシ:
どうやったんやろうな?

———この当時に出演されていたのはどういったカラーのイベントでしたか。
コスガツヨシ:
まあ自分らのイベントが多かったっていうのもあるし、DJとMCでのスタイルとか、ターンテーブル、MC、マイク。

———完全なクラブスタイルでのイベントですね。
コスガツヨシ:
とかが多かったかな。DJもしっかりいたしね、うん。基本的には(恵比寿)milkとかの箱ね。だから……"風の人"とか"jpcバンド"とか。 "韻シスト"とかもその頃が始まった頃やったんかな?

———ミクスチャーロックからの流れで。生演奏でのhip-hopバンドも多かった時期かと記憶してます。
コスガツヨシ:
まあまああった!山嵐とか、スモーガスとかね。

質問にはすべて気さくに回答してくれる。

LoopJunktionのその後~山仁との現在

———その後LoopJunktionは'04年に解散となり、その後は大竹重寿 (Dr. & Per.)、金子巧 (Key.)の両氏とcro-magnonを結成されました。その後現在までのコスガさんのご活躍は多くの人の知る所となっています。
LoopJunktionのフロントマンであった山仁さんとは現在も交流を持たれているのでしょうか。
コスガツヨシ:
うん。勿論!
会うといつも楽しいし、 ちょこちょこ連絡もあるし、一緒になんかやろうよっていう話もするし。うん、何も変わらないね。

———山仁さんは最近ではYoutubeでドキュメンタリーが発表されたりと活発に活動してらっしゃいます。何かエールや伝えたい事はありますか?
コスガツヨシ:
(山仁は)頑張ってるからね。
できることは全部やってるというか。俺ならこうだっていうのをなるほどやってる感じで。あいつはあいつで俺はこうだっていうのがブレずにずっとやってるから。
エールをもらってる方です。

———ありがとうございます。LoopJunktion解散後の皆さんの関係について貴重な情報になったかと思います。

ジャズと自分と

———DJミックスでジャズを表現される上で、コスガさんご自身の自己表現。といった面も避けては通れなかったかと想像します。現在のご自身のジャズや音楽に対するストレートな思いを教えてください。
コスガツヨシ:
ストレートな思い、ジャズに対する。

———はい。今と昔で変わって来た、とかもしくは、昔と変わらずある。とか。
コスガツヨシ:
変わらないかな……。変わらないなあ。変わらないし……依然クールやし。うん。依然憧れてるし。

———”憧れ”という言葉がふたたび聞かれました。
コスガツヨシ:
憧れてますよ、やっぱり。進化するものであるし。ロックンロールイズデッドとか、ジャズイズデッドとは言われるけども、常に進化してってるものなのかな、とは思うジャンルですよね。自分自身の中でジャズやなって思うところとか、自分のやってる事の中ででも……なんでしょうね?なんかライフスタイルみたいなところが……人生、その人のジャズやからなっていうとこもあるし。
知り合いの建築事務所とかでも、毎回現場ではジャズやってるやろうし。仕事のやりくりからしても、やっぱどこにでもジャズはあるなというか、それはやっぱもう、そのインプロビゼーションという、でかい1つのジャズのコアになる要素があるから。人生。人生ですよね。ジャズは。うん、自分の人生もジャズやなとは思うし。

生き方と音楽について語る。

ミックス中の楽曲について

———続いてvol,3の選曲についてお聞きします。ボーカルナンバーからヒップホップ、スピリチュアルな楽曲まで非常に多くの要素が盛り込まれています。選曲の幅広さは、あらかじめ意図されたものでしょうか?それともミックス時に自然な流れとして現れたものでしょうか?
コスガツヨシ:
選曲の幅広さはもっと広かったものが、もうちょっとこう、統一感を得たという認識。いや、感覚の方が近いかもな。もっともっとジャズは壮大で広くて驚きがいっぱいあって、なんやけどもやっぱり、1つの45分間のその人の時間……時間というか、その空気を作る、空間を作るというか、なんていうんやろうな、その……シーンを作る、人生の1モーメントを作る上でのちょっと統一感を出したつもりではあるけど。そこでやっぱ幅は持たせたいし、ジャズの深さも出したいしっていうとこで。

———可能な限りジャズの幅広さを取り込まれたと言うことでしょうか?
コスガツヨシ:
そうね、統一感の中にも幅広さは詰め込みたいなと思った部分ではある。

———この曲は外せなかったという曲があれば教えてください。
コスガツヨシ:
全部捨てがたい曲たちやけど、今回コアになったのはナズで、みんなでハッとキラッとして。なんて言うんやろ……今までのこのGardener'sDelightのシリーズの1つの流れを汲む、コアな部分でもあったし、あとはアーサー・ラッセルも!めちゃアバンギャルドでもありながら優しいし、冬やし。その感じもやっぱ必要な要素やったなとも思う。

———収録された楽曲にまつわる思い出やエピソードなどあればお聞かせください。
コスガツヨシ:
初めに言ったように、大体自分の人生の中で大きな位置を占めた曲。ジャズの中でもそういう曲を選んだつもりではあるから。
カルメン・マクレアとかなんてもう、ずうっと昔から聞いてるし。嫁さん(有坂美香ex.reggae disco rockers)とのライブではこのバージョンをやるし。だから思い出は深いというか、もう20年ぐらいあの感じでやってるから。20年以上か。あの作品が出来たのはもっと前やし、うん。
で、今回はジャズで冬っていうので、思い切ってああいうマーク・マーフィーみたいな曲が入れられたっていうのもでかいかな。普段ミックスしてて、アレを入れる勇気はなかなか無いような気がして。やっぱその、サウンドトラックとしてはいい位置であれが入れられたのも嬉しいなっていうとこもあるし。

———今作のみならず、Gardener'sDelightシリーズの価値までも押し上げた選曲だと感じられます。
コスガツヨシ:
ある意味トガッた選曲やったかもね、ある意味。

選曲からのミックス

———曲同士のつなぎ合わせもDJミックス作品において重要なパートの1つです。 今回のGardener'sDelightのミックスで特に神経を使った箇所や、聞きどころとなったと思うポイントがあれば教えてください。
コスガツヨシ:
(思い返すには)ちょっと時間経っちゃったな……。特に聞きどころね。サン・ラーを挟んだ辺りとか、ひとつの暗い冬から、暖かい暖炉の前に家族でいる感じへと。やっぱ冬もさっき言ったみたいに懐が深いし。その(季節の)振れ幅は出せたのかなっていう。

———ちょうどサン・ラーの辺りで前半後半に分かれているように感じられますね。
コスガツヨシ:
別れ目になったかもね!あれが。

DJとしての活動

———近年は各地でDJとしてのお仕事も数多くこなされています。DJとして喜びを感じられるのはどんな時ですか?
コスガツヨシ:
やはり人の動きであったり、ダンスを誘い出した時であったり、感動を誘い出した時であったり、声が上がったり、その場を盛り上げられたりとか。盛り上げられたのがすべてではないような気もしてるけども。

———盛り上がりがすべてではないというのはどういう事でしょうか?
コスガツヨシ:
なんなんやろうな……?寄り添えるものというか……寄り添えるものであったら嬉しいよね。その……生活に。で、その曲を聞いた時に、やっぱりあの時のあれを思い出すよな、とか。それは、やっぱすげえ嬉しいことやな、そこは目指してる部分でもあるね。

グッドミュージックの見つけ方

———今回選曲されたアーティストや関連の楽曲で、リスナーが手に入りやすいものやネットで聞きやすいものなどあればレコメンドしてください。
コスガツヨシ:
今はもう大体なんでも(ネットで)聞けるんじゃないかな?俺のセレクトした奴は。
この前もなんかDJしてて、シャザムにも引っかかんなかった、っていうのはあるけど。
そういうのは大体クラブ(ミュージック)の12inchとか。4つ打ちのジャズみたいなのをかけた時にそんな話になって。で、それももう15年、20年前の有名な人たちがやってた別ユニット的なやつで出てたヤツやったりするから。そういうのはやっぱ聞けないけど、今はもうなんでも聞けるから。で、終いにはShazamもできるし。
トラックリストなくても、今回のCDからこう、派生するものを深掘りすることは可能なんやと思います。なんか気に入ったものがあれば、Shazam&ネットでディグ。っていうのは1番近道のような気がする。

スタジオでのセッションワーク

———続いて制作時の様子について聞かせてください。
今回は Gardener'sDelight vol.1,2のDJでもあるJunzoのプライベートスタジオでの制作でした。 制作環境はいかがでしたか?
コスガツヨシ:
いや素晴らしかったですね。荒明くん(NON)のシステムも素晴らしかったし。リラックスできたし。あの陽の当たる部屋がめっちゃ気持ちよかったし。ありがたい。で、耕ちゃんの飯と、みんなが入れるコーヒーとで、めちゃリラックスして。なんやろうね……そうやって、やっぱこう……みんなで喋りながらできたっていうのも俺にとってはやっぱこう近道であったというか、コンセプトの核心の近くにいられる1つの安心でもあったし……。だから心強かったですね。
で、やっぱ音楽って 1人で聞いてエンジョイするものでもあるけど、演奏においては、やっぱ2人から始まるものやなって思う部分もいっぱいあって。そこでなんかマジックが起こるというか、なんかそれ以上のことが起こるものやから。それはやっぱり、そうやって聴きながら話すその一言だけでも、誰かがその音が入ったことによってクスッと笑うだけでも、そこになんか価値が生まれるというか。その、自分の中で価値が生まれるというか、そこの会話、その中で生まれる価値というか、そういうのが俺、1番大事なんよね。大事というか、俺は1番そこがエンジョイしてる部分であって、うん。それができたのが1番ありがたいことですね。

———収録やエディット作業でのJunzoの関わりも少なくなかったと思います。彼との共同作業で何か得るものや感じるものはありましたか?
コスガツヨシ:
そうね、いい環境でやらしてもらって……それでやっぱ思うことを形にしてくれる。そのスキルとテクノロジー共にかなり揃えててですね。今回はミックスと言えどもセレクトに近い部分もあったから、そこでめちゃ助かった部分もあるし。
あとはJunzoの音へのこだわり。音質の追求であったり、そう、音質やね!特に言うならば。よりいい音でデリバーしたい。バイナルにはいいデータが吹き込まれてるわけで。(レコードやCDでは無い)データものも何個か使ったんすけど、やっぱその、よりその音のあるがままを鳴らすその(Junzoの)姿勢にすげえ助けられたというか。俺もそこはやっぱ求めるとこでもあるし、自分ではでききれないとこがあったから。うん、そこはすげえ助かりました。Junzoありがとう!

BringYourFavoriteMusic

———続いて近況などについてお聞かせください。
2023年から神奈川県鎌倉市で、レコードを楽しめるスペース"BringYourFavoriteMusic"を主宰され、自らお店に立たれています。このお店でのコスガさんのお仕事や役割について教えてください。
コスガツヨシ:
酒を出すんですけど、基本的にはバーテンダーとしているんやけど。BringYourFavoriteMusic(以下BYFM)のことを言うと、このでかいシステムで普段イヤホンやiPhone、ブルートゥースで聴いてるような音を1度ここで再生してほしいなと。 それで発見があったら俺は嬉しいし、そこになんかの会話が生まれるだけで、またそのフェイバリットミュージックはより自分にとってスペシャルなものになるという、そのマジックを味わってほしいというか。やっぱりさっきも言ったように、音楽はシェアした時にまた生まれるその輝きというか。それを日常化したいなというか。うん。

———シェアすることによる日常化ですか?
コスガツヨシ:
日常化ですね。うん、日常化。現実のものにするというか。ハプニングさせたいというか。そういう気持ちで始めた感じかな。

———世の中により多くの音楽が必要ということでしょうか?
コスガツヨシ:
いや、音楽は溢れていると思います。でも、それが本当にその作者の意図した音がみんな聴けてるかは疑問であるとこもあるし、インスタントな音楽もやっぱ増えている中でも、いい音楽も沢山あるし、それをやっぱ誰かとああだこうだ言いながら聴くのがやっぱ俺は好きで、うん。

———音楽がフレッシュに再生される場を世の中に提供したいと言うことですね。
コスガツヨシ:
フレッシュであってほしいし、あるがままの1番いい状況というか。やっぱ音の波動で、空気が震えるのが体に当たってやっと音楽を浴びるという感じがするから。その環境を作りたいなというか。クラブでいろんなDJの素晴らしいミックスを聴くのもすごくいいし、音質もいいんやけども、やっぱそれは1曲1曲知らないうちに流れちゃうから。7時間のロングセットとかでも誰とも会話なく聞いてるわけでもないから、やっぱ会話の位置には自分の好きであろう曲でさえも、ハッとする曲でさえもこう、流れてしまう部分を、ここ(BYFM)ではもうちょっとこう、 掘り下げてというわけじゃないけど、愛でてというか。

———その場に色々なお客さんが来られて、それぞれの思いを話しあって。
コスガツヨシ:
そう。そうね、思いもあるし、それをシェアした時点でまた「そういう感じ方もあるね」とか。それが好きなんやね。音楽を挟んで会話。音楽を挟んでのコミュニケーションとかを、なんていうんやろうな?よりいい形、って言うとおこがましいしあれやけど、いい形で循環させていきたいなっていう感じですかね。

———お店ではレコード販売の出店があったり、レコードを持ち込んで聴くことができます。お客様はどんな方々が来店されますか。
コスガツヨシ:
もうそりゃ年齢から住む場所から様々で。聴く音楽のジャンルも様々やから。

———年齢は上のほうではどの位の方がいらっしゃいますか?
コスガツヨシ:
上は60~70代手前ぐらいかな。うん。広島からこの一年でもう3、4回来てくれてる方がいたり。扇ガ谷に住んでるミュージックマニアのオオハラさんもよく来てくれる。毎回めっちゃいいレコードを持って来てくれるから、詳しいし。時代背景も一緒に喋りながら。で、やっぱオオハラさんの音楽愛と、だからこうなんだよね。とか、こういうとこでこういうのを感じちゃうよね。っていう会話が俺はやっぱ好きで。で、そういう人もいればiphoneで最近のものをかけて踊っていく人もいる。という感じかな。下は20代から叔父さんまで居て。

———年齢層は幅広いですね。
コスガツヨシ:
そうね。美香の父ちゃんも入れたら、もう86……8歳とかになるか。でも、(元は)そのお父さんの(持ち物の)システムでもあるし。で、そこで、やっぱカリプソとかその時代に流行ったそういうものを、'50年代、'60年代のレコード聞くと、やっぱ嬉しそうやし。踊り出すし。

———素敵な場所ですね。BringYourFavoriteMusicの音響空間や、ここで過ごされる時間から得られた今回のミックスへのインスピレーションはありましたか。
コスガツヨシ:
結構多大にありましたね。だから、さっき言ったマーク・マーフィーぐらいのとこまでも尖ったセレクトができたかなというとこはありますね。うん。暖炉のようなシステムで聴いてるから。

———冬のイメージを産み出すには最適でしたね。コスガツヨシさんの今後の活動のご予定や目標などありましたらお聞かせください。
コスガツヨシ:
また、こっち(鎌倉)の方でもやりたいっていうのもあるし、実際ちょこちょこはやってるんやけど、あとはそうやね、嫁さんのプロジェクトに参加したり。で、娘の子育てがもうちょっと落ち着いたらまた、コツコツできることもあるかなっていう感じで。今は家族との、娘との時間を優先してやってる感じかな♪

———こんな方にBringYourFavoriteMusicに来てもらいたい、体験してほしい、といったご希望などはありますか?
コスガツヨシ:
小さい家に住むようになって、苦情とか出るようになった環境の中で、やっぱそこに人がいればまた素晴らしいし、1人で楽しむにしても、空気の震えるバイブレーションで、波動としてはいいし。iphoneで聞いたのが全てでは無いなっていう、youtubeで見たライブが全てでは無い。
基本はやっぱその場に行くこと、(そこに行くまでの)そのプロセスも自分の物語の1つやから。音楽を聴くっていうのは、それが人生に取り込まれて思いになったり力をくれたりするものだからね、普通にiPhoneで聴いてもチカラを持ってる人(アーティスト)もいる。まだまだ世界は広いぞ、と。

———BYFMの音響はそれだけ圧倒的なシステムというのは感じられますね。
コスガツヨシ:
あるある。あるで。またどんどん良くなっていってるし。デジタルで硬い音とか、いろんな好みもそこで出てくるのも当然やと思う。そこでやっぱ好きなものをどんどん追求してってほしいという感じやね。

———ありがとうございます。Gardener'sDelightを聴かれた方にも是非お店に足を運んでみて欲しいと思います。

エンディング

———制作中にはこの作品は娘へのラブレターである。という言葉も聞かれました。これにはどういった意味がありますか?
コスガツヨシ:
ギル・スコット-ヘロン(ユア・ダディ・ラブズ・ユー)を入れたことで確信的なものになった所はありますね。

———正に父から娘へのラブソングですね。
コスガツヨシ:
(ミックス中には)ラブソングが多かったと思うし、俺の愛した曲でもあったから。それをやっぱ時代を超えて娘が聴いても、なんかエモーショナルな反応があれば俺がやった意味があるかなと。こういう手紙を書いた意味という所でのラブレターなのかな。妻に対するものでもあるし。

———ありがとうございます。素晴らしいメッセージですね。
コスガツヨシ
: 音楽を一緒に聴くみんなへのラブレターでもあるし。
愛をしたためました。冬のジャズという中で愛をしたためました。

真摯な思いを音楽で表現する。

———家族、音楽、仲間たちといった様々なものに向けてジャズを通して表現したコスガさんの愛が感じられます。
ここまでインタビューへのご回答ありがとうございます。最後にあらためて、今回のGardener'sDelight vol.3を聞いてくださったリスナーの皆さんに向けてメッセージをお願いします。
コスガツヨシ:
このミックスに関して言うと、やっぱ冬。冬になって、思い出したかのようにプレイヤーの中に入っていてくれれば嬉しいですね。
そうね……聴いてくれた人のなかでその人の人生の1つのサウンドトラックになれれば。そのモーメントが豊かなものになるというか……エモーションを動かすものであったり、思い出に残るものであったり……情景を思い出すものであったりとかになってほしいなと思う。だから逆に夏の暑い日に、さっき言ったみたいに冬を思い出すような感じで、うなだれるような最近の夏の1中でも、チーンと静まり返った冬の空気の感じまで思い出せるような作品にもなったらいいなと——————

 あとは好きなバンドがいれば見に行こう。そうすることでやっぱ色々変わるし。で、音楽聴く手段もいっぱいあるし、より良いセッティングで聞いてほしいなっていうのもある。粗悪なものもあるしね。粗悪な環境もあれば、粗悪な音楽もあるし、かといってそればっかりじゃないから。好きなものを追い求めてもらうのが1番いいんやろうけども。

———メッセージをありがとうございます。以上でGardener'sDelight vol.3 Jazz&WinterのDJインタビューを終えさせていただきます。コスガツヨシさんこの度は本当にありがとうございます。
コスガツヨシ:
はい、ありがとうございました。このミックスが聴いてくれた誰かの人生のサウンドトラックになってくれれば幸いです。

———本日は長い時間ありがとうございます。今後のコスガツヨシさんのさらなるご活躍をお祈りいたします。

聞き手・括弧内:地景ガーデニング 2024年5月17日鎌倉市坂ノ下Bring Your Favorite Musicにて収録

プロフィール

コスガツヨシ
Musician,Guitar&BassPlayer,DJ
'04年の結成から現在までクラブシーンで圧倒的な支持を得る3ピースジャズバンドcro-magnonのギター・ベース奏者。
'91年より渡米。ボストンのバークリー音楽大学に学ぶ。'99年の帰国後LiveHip-HopバンドLoopJunktionへ加入。日本での音楽活動を開始する。
'04年cro-magnonを結成。メンバーとして国内外のHip-HopMC、歌手、演奏家との共演も多数。伝説的なジャズヴィブラフォン奏者であるRoy Ayersとの作品"Midnight Magic Feat. ROY AYERS"は大きな話題を呼んだ。
演奏活動と共に、独自のスタイルでDJとしても活動。幅広いコネクションで各地のイベントへの出演も数多い。
'23年より神奈川県鎌倉市にてミュージックバー"BringYourFavoriteMusic"を主宰し、自らバーテンダーをつとめる。Altecのヴィンテージスピーカーと真空管アンプによる音響でアナログレコードを楽しめる空間と、手作りの料理や細やかなサービスにレコードフリークスたちが厚い信頼を寄せる。

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