熱戦の記憶 ~あの名馬を追いかけて~ エリザベス女王杯編 (1998年メジロドーベル)
週末のG1の過去を振り返る番外編です。
競馬が、馬が大好きで仕方ない僕が、週末に行われるG1を対象に、
独断と偏見で一番好きなレースの年を回顧しています。
最近競馬始めたよという方や、一昔前の競馬を見たことが無いよという方には是非見てもらいたいです。
今の競走馬でも、血統表の2代3代上に名前がある馬などもいると思います。
知っている名前があると、物事って楽しくなりますよね。
競馬のギャンブル以外の観点での楽しさに気づいて頂けると僕としては嬉しいです。
今回はエリザベス女王杯編。
メジロドーベルが制した1998年を振り返ります。
オークスに引き続いてメジロドーベルですね。
若干推し馬補正がかかっています(笑)
女傑の背中を追いかけて追いかけて。
ようやく捕らえた4度目の正直です。
1998年のエリザベス女王杯。
この年はオッズ的には2強でしたが、「実質1強」のムードが漂っていました。
1番人気は3枠3番、「女傑」エアグルーヴ。
牡馬が圧倒的に牝馬よりも強かった当時、牡馬相手に唯一、互角以上に渡り合う事ができた名牝です。
父は産駒に府中の鬼が多かったトニービン。サンデーサイレンスがいなければこの馬の時代だったかもしれないくらいには産駒の活躍が目立ちました。
母は名牝ダイナカール。
エアグルーヴは超良血としてデビュー当初から非凡な才能を発揮。
3歳(旧表記。今で言う2歳)時のいちょうSは後世に語り継がれる伝説のレースです。
クラシックこそ様々な不運が重なりオークスのみのタイトルになりましたが、翌年97年には秋の天皇賞でバブルガムフェローを力でねじ伏せ、一躍時代の立役者に。
迎えた98年は宝塚記念こそサイレンススズカに敗北したものの、札幌記念を楽勝すると、秋の天皇賞連覇というプランもありましたが、主戦の武豊Jはサイレンススズカの騎乗が決まっていました。
武豊Jにこだわりたい陣営は秋の天皇賞をパスして選んだのはエリザベス女王杯。そこからジャパンカップ、有馬記念というローテーションが組まれました。
しかし、ここでアクシデント。
エリザベス女王杯の前週、武豊Jが新馬戦で騎乗したアドマイヤベガが降着。
武豊Jは実効6日間の騎乗停止を余儀なくされ、ジャパンカップウィークまで騎乗が出来ない事態に。
そんな中、急遽抜擢されたのが横山典弘J。
秋初戦ということもあり、仕上がりは万全とはいかなかったですが、それでも相手関係は楽だろうというのが大方の見方。
かろうじて単勝1桁オッズの2番人気のメジロドーベルには一度たりとも先着を許しておらず、ここで負けるはずがないという風潮でした。
鞍上は先程のの通り横山典弘J。単勝オッズは1.4倍と断然でした。
2番人気はメジロドーベル。
エアグルーヴの1つ下の世代でクラシックはオークスと秋華賞の2冠。
ただ、その後は牡馬相手に今ひとつ。
牝馬限定戦には滅法強いドーベルでしたが、牡馬相手だとどうもいつもの走りが出来ていませんでした、
前走の府中牝馬Sで秋華賞以来の勝ち星を手にすると、向かったのはエリザベス女王杯。
エアグルーヴとはここまで3回同じレースに出ていますが、一度たりとも先着したことがなく、力差は歴然でした。
最も、牝馬が牡馬相手に活躍出来なかった時代に牡馬を力でねじ伏せていたエアグルーヴに対しての牡馬相手で今ひとつのメジロドーベルなので、そういった意味でも差はありました。
ただ、それ以外の相手は比較的楽で、エアグルーヴには敵わないが馬券内は入ってきそうというのが大方の見方。
鞍上は主戦の吉田豊J。単勝オッズは意外と善戦の4.6倍でした。
3番人気は当年のオークス馬のエリモエクセルでしたが単勝オッズは11.5倍。
秋華賞が奮わなかったのもあり、ここでは一歩劣勢の雰囲気。
4番人気はグレースアドマイヤでしたが、前走の府中牝馬Sでメジロドーベルとハナ差の2着でも、斤量差は3キロもありました。
定量戦ではさすがにオッズは離れます。単勝オッズは11.8倍で、エリモエクセルと分け合う形となりました。
5番人気のランフォザドリームは22倍を超え、オッズだけ見たら2強の雰囲気ですが、エアグルーヴが1.4倍なので2強というよりエアグルーヴは勝つだろう、そしてメジロドーベルは2着で3着争いがといったような雰囲気が漂います。
女傑がどんな勝ち方を見せるか。
それとも牝馬限定戦には強いドーベルが一矢報いるか。
はたまたあっと驚く伏兵か。
牝馬の頂点を決める戦いが始まります。
スタートは各馬揃った五分の出。
明確な逃げ馬がいなくとも先行馬が揃った中で、まず主張したのが中からナギサ。そして内から出ムチを打ってビワグッドラックも出ていきます。
さらに内からメジロランバダもハナは窺わずとも積極策。
まずはこの3頭が1列目を形成しましたが、ハナはナギサが取り切りました。
その後ろが先行勢。
外からケープリズバーン、さらに外ランフォザドリームが4番手5番手。
そしてここにいましたエアグルーヴ。6番手を追走します。
その外アーティストターフがぴったりですが、この内にメジロドーベルが付けました。中団前目でエアグルーヴを見る位置です。いわゆるマークに近い格好。
その外にエリモエクセルとグレースアドマイヤ。人気各馬は同じような位置に固まります。
エガオヲミセテ、外にナリタルナパークが中団後方。
後方にパルブライト、シンガリからラティールの展開。
1コーナーから2コーナーにかけてナギサがリードを広げました。
ビワグッドラックはあまり追いかけず、メジロランバダも付き合う素振りは無し。
替わって3番手に外からランフォザドリームが上がって、前3頭は少々バラバラ。
しかし、その後ろは一団で流れて向こう正面に入ると各馬遅いペースの中折り合いに専念。
ここで掛かってしまったのがメジロドーベルでした。なんとかなだめて吉田豊J。ケープリズバーンも掛かり気味。
対照的だったのがエアグルーヴ。こちらは横山典Jガッチリと手綱を押さえ、順調な運び。
京都外回りと言えば名物は3コーナーの坂。
ここは抑えて登り、抑えて下るのがセオリー。
まだこの坂では各馬仕掛けず、レースが動いたのは坂を下った地点。
ナギサがまだ先頭ですが、良い手応えなのが外2番手ランフォザドリーム。
一気にペースが上がると外に出したエアグルーヴがスーッと進出。その内ドーベルは最内。
ラティールが後方から捲って外から上がってくると、手が動いてグレースアドマイヤ。
その内エリモエクセルも最内を突く構えです。
4コーナー。
この頃の京都外回りは4コーナーのカーブがきつく、馬群が外に開きやすいコースでした。
ナギサを交わしてランフォザドリームが先頭に替わると、満を持してその外に出したエアグルーヴ。横山典Jの手が動きます。
そしてメジロドーベルはというと、外に膨れたナギサとランフォザドリームの内を選択。コーナーワークを利用してエアグルーヴの前に出ます。
そのさらに内に潜ろうとするエリモエクセル。
まずはランフォザドリームが抜け出しを図る中、内のナギサが内にモタれました。
ここで内にいたメジロドーベルとエリモエクセルが交錯。
しかし、メジロドーベルが1馬身出ていた分進路を確保したのはメジロドーベルでした。
たまらずエリモエクセルの鞍上、的場均Jは立ち上がります。
内がごちゃつく中、ランフォザドリームが懸命に粘ります。
外からエアグルーヴもようやく差を詰めにかかり、間のグレースアドマイヤは苦しそう。そして早めに動いたラティールが大外から懸命に足を延ばします。
残り200m。
まだランフォザドリームが粘る中、エアグルーヴの脚色にいつもの勢いがありません。
更に外ラティールも早仕掛けの分、脚が鈍り、いよいよランフォザドリームが番狂わせの逃げ切りかと思われましたが…
ここで狭い内からナギサを交わしたメジロドーベルが一気にラチ沿いから前に迫ります。
叩いて叩いて吉田豊J、懸命に相棒に檄を飛ばします。
残り100m、懸命に左ムチを奮うランフォザドリーム河内Jをついにメジロドーベルが捕らえます。
そしてようやくエアグルーヴもランフォザドリームに迫りますが、前は完全にメジロドーベルが抜け出しました。
ゴール手前、吉田豊Jは高々と左手を掲げながらゴール板を通過。
メジロドーベルが1着ゴールイン。G1はこれで4勝目を達成。
嬉しい吉田豊J再びのガッツポーズ。
上がり3ハロンは当時としては驚異的となる33秒5を記録。
まさに豪脚そのものでした。
そして2着争いはランフォザドリームが粘り切りました。
単勝1.4倍のエアグルーヴは4分の3馬身及ばずの3着。
以下逃げたナギサ、不利を受けたエリモエクセルと続きました。
過去3度のエアグルーヴとの対戦で馬体を並べる事すら叶わなかったメジロドーベルと吉田豊Jがやってのけた「4度目の正直」。
憧れの存在が先を見据えた仕上げであったとはいえ、ただ1頭分しか無くなった進路を迷わず選択した吉田豊Jの好騎乗も光り、力強く抜け出したその姿はまさに「完勝」の一言でした。
明暗を分けたのは4角の内外の差だと思います。
鞍上の腕が問われる京都の外回りで、若き吉田豊Jは覚悟の決まったイン突きを見せる堂々たる騎乗。
伸びあぐねる女傑エアグルーヴを力でねじ伏せるメジロドーベルと吉田豊Jの姿は、かなりの人々の印象に残ったことでしょう。
G1競走4勝目を成し遂げたメジロドーベルはその後、前年同様有馬記念に出走。
ただ、ここでも掛かってしまって早々後退。
翌年は得意の牝馬限定戦、中山牝馬Sから始動しますが、ナリタルナパーク相手に不覚を取る2着。
夏を越え、秋は毎日王冠を叩いてエリザベス女王杯連覇を狙いました。
毎日王冠こそ敗れたものの、本番のエリザベス女王杯はフサイチエアデールやファレノプシス相手に力強く抜け出して完勝。
見事に連覇を達成すると、このレースを最後にターフから去るのでした。
通算成績は21戦10勝。G1は5勝という素晴らしい成績。
G1は全て牝馬限定戦に限りましたが、その牝馬限定戦では無類の強さを誇る名牝でした。
2着のランフォザドリームはその後は思ったような成績を残せず。
翌年のエリザベス女王杯でも早々に手応えが悪くなり、メジロドーベルと明暗分かれるシンガリ負け。
これを最後に現役生活を終えるのでした。
そして圧倒的人気を背負って3着に敗れたエアグルーヴ。
あくまでジャパンカップに向けての叩きを公言していた陣営ですが、そのジャパンカップは再び横山典Jを背に黄金世代の外国産馬エルコンドルパサーの2着と力を見せます。
3着は黄金世代のダービー馬スペシャルウィーク。
しっかり先着しているあたり、やはりエリザベス女王杯は叩きだったと思わせるレースぶり。
その後は武豊Jに戻って有馬記念に出走しますが、勝ったグラスワンダー、そしてセイウンスカイ、1つ年下のメジロブライトとステイゴールドにも離される5着。
このレースを最後に現役生活を終えます。
エリザベス女王杯で敗れたメジロドーベルは、母馬としては今一つでしたが、エアグルーヴは対照的でした。
初年度からアドマイヤグルーヴを出すと、フォゲッタブル、ルーラーシップ、グルヴェイグと名馬を出しまくります。
エリザベス女王杯で武豊Jを背負い投げしたポルトフィーノもエアグルーヴの仔です。
更にアドマイヤグルーヴからはドゥラメンテが出て、今の競馬界にはなくてはならない血筋を確立。
ただ、悔やまれるのはダイナカール一族に多かった「短命」です。
エアグルーヴこそ長寿とは言わずとも長生きしましたが、アドマイヤグルーヴも、その仔ドゥラメンテも運命には抗えず、今となっては非常に惜しい損失となるのでした。
~終~
いかがでしたでしょうか。
最後はエアグルーヴのお話になりましたが、メジロドーベルといえば牝馬限定戦でした。
牡馬相手にポカが多かったのがドーベル。
力が劣るとも思いませんが、これも馬の個性と言えばかわいいものです。
メジロドーベルは今現在も存命で、レイクヴィラファームで余生を送っています。
まだまだ長生きしてほしいのが僕の願いです。
さて、今週のエリザベス女王杯はというと、メジロドーベルのように連覇を狙うジェラルディーナをはじめ、中々の粒揃い。
同じモーリス産駒でジェラルディーナよりも勢いのある同世代ディヴィーナも血統的には牝馬限定戦でこその印象。
そのほかの馬たちも虎視眈々です。
11月12日。
久々の淀での熱戦に期待しましょう。
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