【彼になった彼女】23話 ここにいる

彼「ゴホゴホ、はっ・・・っはっ」肩で息をする
我に返り安心した
よかった生きてる、俺はなんてことを・・・
また突風に助けられた

本気で彼を殺そうとした・・・こんな感情が自分の中にあったなんて知らなかった
震える手を握りしめる、脈がまだ落ち着かない、さっきまで上がっていた体温が冷めていく
さっき殺そうとしたんだ、この手で

主「ご、ごめん」
彼を見ることができず俯き謝った
彼「・・・けほっ・・・」
彼の呼吸が整ってきた音だけが俺の耳に届く
主「・・・こんなこと言えた義理じゃないけど
 君の心臓を触らせてくれないか?」
俯いたままそう言った
彼は今どういう顔をしているだろうか・・・怖くて顔があげれない
ここから逃げたい
彼「・・・」
彼を見ず逃げるようにその場を去ろうとした
主「ごめん、忘れて、俺もう行くね
 ・・・・さっきの事、警察に言っていいか・・・・」
俺の服を彼がつかむ、その手が震えているのが服越しに伝わってくる
彼「・・・」
これ以上怖い思いをさせないためにも彼から離れなければ
主「・・・怖い思いさせてごめん、だから、離して?」
彼を怖がらせないよう彼を見ずに優しく言った

彼の震えがピタリと止まった
彼「・・・ひー君」
主「!!」
驚きのあまり彼を見た
聞き間違えか?
その呼び方は好きじゃなかったはずなのに、今、そう呼ばれて嬉しい

主「君は、いったい誰?」

怖い思いさせたのに、彼は俺を恐れることなくしっかりと見据えて
彼「自己紹介まだでしたね
 エイタって言います」といった
主「エイタ・・・」

その場で固まっている俺に
彼「心臓、触っていいよ、ひー君」とまた俺の名前を呼ぶ
今度ははっきりしっかり聞こえた
主「どう、して、どうしてその呼び方!」
その呼び方するのはアヤメしかしない
名前、教えてない

彼「?さぁ、どうしてかな?」
彼のその表情
淋しそうなとき少し俯き下唇を噛みめ、左手首を右手で触るその仕草
彼女と同じ

彼「ずっとそう呼びたかった・・・」
もう訳が分からない
彼が何者なのか・・・
もしアヤメなら俺は殺そうとしたんだ・・・
そう思うとゾッとする
主「・・・・・・」
彼「大丈夫、大丈夫だよ」と笑う
急にフランクに話し出す彼、その言葉が少しだけ俺の緊張を和らげる

そう言って穏やかな顔をしている彼の手が俺の手を握り自分の胸元へもっていく
強く握りしめていた手を開き、そっと手を彼の心臓に当てる
ドックン、大きく力強く脈打つ心臓
彼女がここに…生きてる
彼女は彼を受け入れ彼として
生きようとしている気がした

パッと手を放す
主「ありがとう」
彼は、笑ってその場を去って行こうとする
主「また!! また、会える?」
一瞬立ち止まったが、振り向くことなく再び彼は歩き出す
とても小さい声で
「バイバイ、私のひー君、ユウ君をお願いね」と言った
でも、その声は俺には届かなかった

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