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大人の読書会「象ゼミ」を2年半継続して思うこと
「象ゼミ」とは何か
2020年の春、Covid-19の自粛期間中に色々な人と連絡を取り合う中で、大学時代の友人2人と懐かしい話で妙に盛り上がってしまい、その場が名残惜しいやら盛り上がりのノリも相まってやらで、なんとなく読書会を始めることになった。せっかくだから名前もつけよう、ということになり「象ゼミ」と名付けた上でステートメントまで書いてしまった。もっともゼミとは名ばかりで、一緒の本を読んだ上で好き勝手にいろんなことを話すだけなのだが、なんであんなに盛り上がったのかはもはや自分でも覚えていない。きっと自粛期間中で少し寂しかった可能性は否定できない。ちなみにその時のステートメントはこちら。
このステートメントからも滲み出る通り、特に象ゼミの明確なゴールはなく、ただ本を読んで話すだけの集まりなので、「Covid-19が収束したら自然消滅するだろうか」とも思ったりしていたのだけれど、なぜかもう2年半以上続いている。各メンバーもそれなりに多忙な上、出産や転職、海外留学などいくらでも立ち消えになるタイミングはあったにもかかわらず、今もゆったりと続いている。おまけに参加メンバーも増えて、いつの間にか3人から5人になった。それぞれ年齢も仕事も住んでいる場所も本当にバラバラである。ただ、間違いなく言えるのは、今や自分にとって非常に楽しいコミュニティになっている。
「象ゼミ」をやる意味と続いた理由
どうしてただ本を読むだけの活動がいつのまにか特別なコミュニティになったのか、またなぜ続いているのかについて、少し考えてみた。もちろん本が好きとか、リモートで繋がりが欲しいといったそもそもの動機を傍に置いておくとすると、おそらく「読書体験の共有」と「ゆるやかな運用ルール」の2つに集約されるような気がする。
読書体験の共有
当たり前だが、普通読書は一人でやるものだ。何の本を読もうかと探したり考えたりしながら、お目当ての本を決めて手に取り(あるいはタブレットを手に取り)、本を読み始める。その後、良い読後感に浸ることもあれば、読み始めてすぐに飽きてしまい積読へと追いやることもある。けれど象ゼミの場合は、これらのプロセスを他人と一緒にやることになる。まず何の本を読みたいか、本を選んだり探したりするところから皆で話して決める。結果として、自分の読みたい本を人に読ませることもできるし、逆に全く出会うことがなかったであろう本を読むこともあるので、毎回本を読む前に、一種の不安にも似たような小さなスリルを味わうことができる。そして、次回の読書会までに皆が本を読んでくるわけであるが、正直に言えば読み終わらなかったり、どうしても読み進められなかったりすることも、ままあったりする。ただし、「他の人も読んでいるのだから」という薄い強制力により、少なくともなんとか読み切ろうと時間を割く努力をする。そして、読書会ではその本について考えたことや感じたことを、お互いにシェアし合うのである。
といっても別に文学的な考察や批評をするわけではないし、高尚なディスカッションをするわけでもない。本を読んで得た感想やそれに紐づけて実生活で起こった近況などを、好き勝手にシェアしあうに過ぎない。また時には、「なぜ、その本があまりしっくりこなかったのか」、「どうして読み進められなかったのか」ということを話したりもする。すると、各メンバーの読み方や感じ方を知るうちに、「なるほど、この本はそういう風に読めば楽しめるのか」といった、いわば新しい本の読み方を体得するきっかけになったりもする。この一連のプロセスを対話しながら進めていくということが、一人ではなかなか得られない刺激的な読書体験であり、飽きずに2年半も続いている1つの理由な気がする。
緩やかな運用ルール
2年半も続いているもう一つの理由は、ゆるゆるの運用ルールだろう。このおかげで、時差、場所、プライベートの都合を乗り越えてきた気がする。ということで、ここまでを読んで「自分も誰かとやってみようかな」と思っていただいたかもしれない危篤な方に向けてルールを簡単に列挙してみる。といっても、別に正解があるようなもないと思うので、「ふーん、象ゼミではそんな風にやってるんだ」という程度に読んでもらえたら幸いである。
ルール1 準備は本を読むことだけ
たまに読書会をやっているというと、周りから「意識高いね」とか「真面目だね」とか言われるケースが多い。が、とんでもない。本当に本を読むこと以外はしていない。というのも始まったころは、それこそゼミのようにパワーポイントで資料を毎回作ったり、発表者や議事録担当を決めたりすらしていた。けれど、誰からともなくやらなくなり、たち消えになった。おそらくこれを強制して続けていたら、今頃はとっくに解散している気がする。結局、人間は怠惰な生き物である。読書体験を共有するために必要なこと以外は、できるだけしない方がよい。ルール2:日程調整は都度する
基本的に月一回のペースで開催していたので、以前は、「毎月第◯週の土曜夜××時から」などと決まった時間枠で運営していた。が、留学による時差という壁を前にして、定例会という概念は、もろくも崩れ去った。また、出産や転職、家族に纏わるライフイベントなどが入ると、どうしても本を読む余裕や時間がなかったりすることもある。結果としてもっともスケジュールがきつそうな人の時間を優先しつつ、都度日程を調整する運用スタイルになった。結局、人間は決められた通りには動けない不合理な生き物である。都度決めれば良いのである。ルール3:できるだけ全員参加
日程調整にも関連するのだが、大人が5人もわざわざ集まって読書の話をするので、必ず全員が参加できるような時間枠を設定している。もちろん、予定が変わってしまい、直前でどうしても不参加になってしまったりする場合もあるけれど、不参加メンバが2人以上になってしまった場合は、リスケすることが多い。結局、読んだ本について対話するだけの回だからこそ、参加者は揃っている方が良い。極論、本は読み終わってなくても問題ない。むしろそれによって、一見全く関連性のなさそうな本の繋がりが見えたり、予期しない本やその楽しみ方に出会えたりすることもある。ゴールのないただの読書会だからこそ、必ず出席するというある種の真剣さが必要なのだと思う。結局、人間は意志の弱い生き物である。コミュニティに最低限のコミットメントは、必要だと思う。
そのほかの細かいオペレーションは、以下の通り。
開催頻度は月に1回程度
参加者にとって、無理のないペースでやるのが良いと思う。たまに2ヶ月くらい空くこともあれば、盛り上がりの最中で時間切れになり、2週連続で開催されることもある。開催時間は毎回1時間程度
盛り上がって2時間近く話し込む場合も有るし、盛り上がらず50分足らずで終わるケースもある。でもなんとなく、1時間くらいが目安にはなっている。メンバーは紹介制
さすがに、全く知らない人といきなり始めるのは難しいので、最初は少人数かつ知り合いだけで始めるのが良いと思う。その後、活動に興味を持ってくれた人を気軽に誘ったりしているが、来る者は拒まず、去る者は追わず。ツールは、Zoom
メンバーの一人がZoomの有料アカウントを持っているのでなんとなくZoomでやっているけれど、Google Meetでも何でも良いと思う。画面をシェアすることもあまりないけれど、カメラはオンにして話すことが多い。
「象ゼミ」で読んだ本たちを並べてみた
最後にこの2年半で読んだ本を、読んだ順に下記に書き出してみた。見事にテーマもジャンルも難易度もバラバラな一方で、順番に並べてみるとその時何に関心があったのか、何について人と話したかったのかを何となく俯瞰してみることもできる気がする。これだけの本を一緒に読んで話していたら、ただの友人とも家族とも同僚とも違う特別なコミュニティになっていることがなんとなくイメージできるだろう。特に盛り上がった本やおすすめしたい本、逆に全く盛り上がらなかった本については、機会があったら個別に記事にしてみようかとも思うけれど、そういうことを自分に課さないようにする方がひょっこり書きたくなりそうな気もするので、今の所それは努力目標にしておこうと思う。
これまでに象ゼミで読んだ本リスト
現実はいつも対話から生まれる
ファスト&スロー(上・下)
問いこそが答えだ! 正しく問う力が仕事と人生の視界を開く
ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論
夜と霧(”Man's Search for Meaning”)
獄中からの手紙
意識と本質 精神的東洋を索めて
手の倫理
計算する生命
塩の道
発展する地域、衰退する地域
実践 日々のアナキズム――世界に抗う土着の秩序の作り方
夜が明ける
燕は戻ってこない
楽園のカンヴァス
死んでいない者
夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く
マザリング 現代の母なる場所