One Note Show/The White Stripes

お気づきの方もいるかもしれないが、時折、「曲名/アーティスト名」のタイトルで記事を書いている。この記事がまさにそうだ。しかしこのタイトルには理由がある。我々は、「愛すべきおバカ曲」というテーマの下にこの記事を書いている。そこには、愛情とおバカさの両方が等しく揃っていなければならない。どちらに肩入れすることもできない。だから、客観的なタイトルを付けざるを得ない。ということにしておこう。

大学時代に、キャンパスで友人と高校生の思い出について語らっていたら、当時流行っていた音楽の話になったことがある。その友人は様々な曲を挙げては「ああ、本当に青春だったわ」と懐かしんでいたのだが、僕は彼の挙げた曲をほとんど聞いたことがなくて、全く共感できなかった。おそらく、僕が当時聞いていた音楽も、その友人には全く伝わらなかったと思うので、なぜ会話が成立していたのか不思議である。あれから約10年経ったが、高校生の時に聞いていた音楽は、今聞いても全く色あせることがない。もちろん、思い出補正がかかっていることは承知の上である。また今飲んでいるラム酒が若干影響している感も否めないが、悩める青春時代に聞いていた音楽が自分の血肉になっているのは間違いない。

余談だが、青春という言葉は、夏目漱石が流行らせたらしい。彼も英文学の先生で、大学で英語も教えていたのに、イギリスで英語が通じなくて引きこもるという豆腐メンタルなので、悩める男なのは間違いない。

話が逸れたが、今回はそんな個人的な青春ソングの中から珠玉の愛すべきおバカ曲について書きたい。といっても、The White Stripesの名前を知らない人は少ないだろう。2000年代を駆け抜けた姉弟2人のDuoで、グラミー賞を3度も掻っ攫い、2011年に惜しまれつつ解散した伝説のバンドである。音楽にあまり詳しくない人でも、この曲のイントロはどこかで一度は耳にしたことがあると思う。

僕も中高時代、完全にどハマりしたバンドの一つである。あまりにハマりすぎて、塾の英単語帳にバカでかいThe White Stripesのステッカーを貼って悦に入っていた。尚、ステッカーばかり眺めていたせいで、単語帳を開くことはあまりなかったので、当然ながら英単語はあまり覚えられなかった。

実はこの2人は、姉弟ではなくて元夫婦だったり、姉役のMegはインタビューで一切しゃべらなかったりと設定がいろいろと細かいバンドだったりするのだが、そんな彼らの音楽には、とてもわかりやすい特徴が一つある。それは曲が短いということ。ほとんどの曲が平均で3分程度である。長くとも4分を超える程度だし、1分強の短い曲も少なくない。ギターとドラムという編成上、鳴らせる音の数も少ないので仕方ないところではある。ちなみに全7枚のアルバムの中で最も短い曲は、"Passive Manipulation"でなんと35秒である。そんな短い曲にも意外とシニカルで洒落た歌詞がついているのが、彼らの凄いところ。

Women, listen to your mothers 
(女性たちよ、母の言うことを聞きな)
Don't just succumb to the wishes of your brothers
(兄貴たちの頼みに屈しているだけじゃダメだ)
Take a step back, take a look at one another
(一歩引いて、お互いの顔を見ろよ)
You need to know the difference... 
(違いを知る必要があるだろ)
Between a father and a lover 
(父親と愛する人の違いをさ)

この歌詞を、姉弟という設定を演じつつ、実は離婚している元妻が歌うのだからかなりウィットが効いている。

ただし、アルバムには収録されていないのだが、実はもっと短い曲がある。それが本日の愛すべきおバカ曲、”One Note Show”である。長さはなんとたった1秒である。無論、歌詞はない。僕の記憶が正しければ、演奏されたのもたった一度だけである。舞台はカナダ。伝説のバンドを待ちきれない観客の元に、The White Stripesの2人が到着する。車から降りて、大歓声に包まれながらステージへと向かう二人。すでに観客のボルテージは最高潮である。それでは張り切ってどうぞ。

見よ、このやり終わった二人の満面の笑みを。

見よ、この観客たちの恍惚とした表情を。

一音さえあれば、彼らにはもうそれだけで十分なのだ。

決して手抜きではない。足りない音は、自分のハートで感じるんだ。そうだ、ロックだ、ロックンロールだ。

ということで、完全にラムを飲みすぎたようだが、自分たちのかっこいい音楽をよくわかっていることが凝縮された曲だと思う。興味が湧いた人は、先ほど紹介した2番目に短い曲、Passive Manipulationが収録されているGet Behind Me Satanを聞いてみてほしい。捨て曲なしの名盤である。

完全に蛇足だがこのアルバムは、全日本人の青春ソングである「青春アミーゴ」がリリースされた2005年である。特にオチはない。

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