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柏手/クラムボン

お気づきの方もいるかもしれないが、時折、「曲名/アーティスト名」のタイトルで記事を書いている。この記事がまさにそうだ。しかしこのタイトルには理由がある。我々は、「愛すべきおバカ曲」というテーマの下にこの記事を書いている。そこには、愛情とおバカさの両方が等しく揃っていなければならない。どちらに肩入れすることもできない。だから、客観的なタイトルを付けざるを得ない。ということにしておこう。

もう3年ぐらい前の話だが、新宿の末廣亭という寄席で聞いた枕(噺家さんが、落語の本編に入る前にする小噺のこと)が、妙に印象に残っている。確か以下のような内容だった。尚、なんとなく臨場感を持たせて、噺家っぽく書いてみたが細部は違うかもしれない。

昔から手には表裏があると言われております。おめでたい時や縁起を担ぐ時には掌を合わせたりするものですが、これはすなわち手の裏を見せるので「おもてなし」なんて言葉になったそうです。逆に恨み辛みがある時や、縁起が悪い時は表を見せるわけでして、これが転じて「うらめしや」という具合です。

実際の語源がどうなっているかはさておき、洒落た言葉遊びだなとおおいに感心した記憶がある。

ということで、聡明な皆様はもうお気づきの通り、今回紹介するのは、手に関わる愛すべきおバカ曲である。

ずばり、曲のタイトルは柏手(かしわで)である。柏手とは、神様を拝むとき両手を合わせて音を立てる拍手のこと。音を立てるのにも意味があるそうで、歓喜の気持ちを表したり、邪気をはらって神様のために手を打ったりするという説があるらしい。要は、おめでたい時にパンと音を立てる拍手である。

当然、そういうタイトルの曲なので、きっと手拍子が入っている楽しい曲なのだろうというのは、容易に想像できる。そしてライブではお客さんと一緒に拍手をして盛り上がるシーンを思い浮かべることだろう。ところが、この曲が初見ならぬ初聴の人にとっては、この予想は大きく裏切られる。確かに楽しい曲ではある。そして拍手も入ってはいる。しかし、一定のリズムでずっと手拍子するわけでもなく、きっとここで叩くのだろうというタイミングで、手を叩かなかったりするからだ。結果として、実際のライブでも盛大に失敗しているテイクが残されている。

知っている人ならいざしらず、この曲を知らない人がいきなり柏手を担当するのは相当きついので、至極当然である。でも曲を何度か聞くと、なんとなく二拝二拍手一拝みたいな独特のリズムに似た雰囲気がある。そのフレーズをイントロから入れてきたりするあたり、洒落ていて少しひねくれているなぁなどと思っているうちに、気づいたら自分はクラムボンというバンドの虜になってしまった。興味を持った方は先ほどの失敗テイクも含めて、是非アルバムを順番通りに聞いてみることをお勧めする。ライブの臨場感を味わえるのは間違いない。

余談だが、なぜかこのマガジンを一緒に書いているonakaippeiも自分も、本題に入るまでの前置きが、どうも長くなる傾向にある。もしかしたら、おバカな話を真面目にしようとすると日本人は落語のように自然と枕を必要とするのかもしれない。尚、当然ながら私たちは噺家ではないので、サゲ(いわゆるオチ)は特にない。いわゆる一つの「手に余る」というやつである。

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