お弁当屋さんの成功と失敗
僕は今年(2019年)の2月に福岡市西新でお弁当屋さんparkをオープンさせた。スタッフはおらず、僕一人でお店を切り盛りしている。
オープン当初29歳、僕史上初の独立開業だったので、いきなり人を雇うなんて恐れ多く、お弁当屋さんという如何にも大変そうな業態にも関わらず一人で始めた。
前提として、僕は「やってみなわからん。とりあえずやってみればええやん」と考えるタチで、行動の中から学ぶことを大切にしている。
料理人として華々しいキャリアがあるわけでもなく、経営のイロハを学んできたわけでもない。もちろん飲食業での経験はあるが、今にして思うと、全ては先輩たちが必死に作りあげてこられたお店・ブランド・仕組みの中で一スタッフとして働いていただけ。自分でゼロからお店を作るのは初めてのことだらけ。「こんなお弁当屋さんがあったらいいんじゃないかなー」という想いだけで、とりあえず一歩を踏み出した。
そんな僕が半年とちょっと、お店を一人で運営してみて、これはうまくいったなーと思うことと、これは失敗だったなーと思うことをつらつらと記録しておこうと思う。(ほんの一部ではあるが)
世に成功談は溢れているものの、思いっきり失敗した話はあまり表に出てこないので(本当は失敗からの方が多く学べるのに)、もしかしたらそこそこ貴重かもしれない。
もちろん、やり始めたばかりで成功も失敗もないだろう、というのは重々承知の上であるが、これからお店を始めようと思っている方など、どこかで誰かのお役に立てばと思う。
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うまいくいったこと・やってよかったこと
・低資金での開業
・ブランド作り
・SNSでのコミュニケーション
・メディア出演
低資金での開業
冒頭でも述べたように、僕は”まずやってみる”タイプの人間である。そこで僕は開業するにあたって、早く小さく始めるように心がけた。(このことについてはnoteでも何度か書いているが、性懲りも無くまた書く)
飲食店に関わらず店舗ビジネスの開業には通常膨大な開業資金が必要になる。ビジネスの世界では小さく始めるということが鉄則のように語られるが、こと飲食店になると、こだわりのお店を作るのにお金をかけすぎる傾向がある。ファイナンスや経営等のまっとうな知識もなく、大金を注ぐことは博打でしかないと思っている。
長い長い下積みや、誰もが納得するような素晴らしいキャリア、自分の腕に対する絶対的な自信があるのであれば、初っ端から店舗にも相応の投資をするべきだと思うが、それができるのは一握りじゃなかろうか。多くの人はもう少し慎重になった方がいいと思う。
僕が今の物件を決めた大きな理由の一つは、開業資金を安く抑えられそうだったから。物件の状態がよく、大家さんもものすごく協力的で、”とりあえずやってみる”にはうってつけの物件だった。うまくいくにせよいかないにせよ、僕は今の物件に居続けることはあまり考えていなかったので、保健所の許可を得るのに必要最低限の手入れをしただけで、内装は大していじっていない。
おかげさまでよく取材にきていただくが、内装に関してはこだわりも何もないので、少し申し訳なく思うくらいである。
低資金で開業したことの大きなメリットは、ほとんど改装をしていない分、退去も比較的簡単にできるところにある。通常飲食店が引越しや閉店を考える場合、物件の原状回復だけでもかなりのお金がかかる。
退去にお金がかからないとなると、フットワークが軽くいれる上、精神的にも楽で、いろいろなことに前向きに取り組める。そこでの営業がうまくいけば、後々改装して”こだわりの内装”にしてもいいし、より良い物件に移って勝負をかけてもいい。
ブランド作り
内装にこだわりも何もない、と言っておきながらブランドについて語るのはものすごく気がひけるが、「park bento」という小さな小さなブランドの種を作ることはできたと感じている。
SNS(主にインスタ)で発信し続けたことと、福岡のたくさんのメディアで取り上げていただいたことで、「parkっていうなんかおしゃれなお弁当屋さんがあるらしい」というイメージが少しづつできてきた。
小さく始めたことであるので、首都圏で流行りのお店のように徹底的に世界観を作り込んだりすることは現状で難しくはあるが、「なんか丸い可愛いお弁当が西新にある」というイメージを作れただけでも、小さな個人店としては万々歳である。
商売としてみたときに、お弁当の最大のメリットは”持ち運びができる”ところにあると思う。
一度イメージを作ることができてしまえば、ケータリングをしたり、イベントに出店したり、店舗にとらわれず営業することも可能である。
SNSでのコミュニケーション
お店をオープンしてからこれまで、インスタでのコミュニケーションには力を入れてきた。
2月にオープンしてからたった2ヶ月後の初のお花見シーズン、なんの広告も打っていないにも関わらず、驚くほどたくさんのご注文をいただいた。これは明らかにインスタによる部分が大きい。ツイッターほどの拡散性はないものの、やはり情報のスピード感はものすごい。
初めてから4ヶ月くらいは、ほぼ毎日投稿し、その甲斐もあってか、半年ほどで2000人近くの方にフォローをして頂けるようになった。
お店をオープンさせた当初は、兎にも角にも知ってもらわなければならなかったので、インスタを開いてはひたすら人の投稿にいいね!を押して回ったりもした。
今ではインスタをご覧になってお越し下さる方も多く、DMでご予約のご連絡をいただくことも多々ある。
上記の”ブランド作り”にも一役買ってくれており、取材も多くはインスタ経由。
parkは今個人店であり、個人店である以上、parkの現状は”僕そのもの”であるので、インスタでは僕の人となりを知ってもらえるよう、個人的なこともよく書いている。
よくお客様から「インスタ見てます」と半笑いでお声をおかけいただく。嬉しいような恥ずかしいような気分になるのだが、インスタでは宣伝ばっかりしていても見ている側はつまらないので、たまにはクスッと笑えるような投稿にするよう心がけている(ウケているかどうかはしらない)。
ちなみにこのnoteではなんだか偉そうな文体で書いている。インスタとnoteの文体、両方見ると自分でも「多重人格者か」と思うが、まぁいいや。これまであまり文章を書くということをしてこなかったので、どんな風に書けばいいのか、シンプルに迷走している。
少し話が逸れたが、SNSはただの広告媒体ではなく、コミュニケーションツールだと認識しているので、伝えることは伝えつつ、少しでも親近感を持って頂けるように今後も利用をしていくつもりである。
メディア出演
これまでの半年間で、テレビや雑誌、フリーペーパー、機内誌、webメディアなど、15件程度の媒体で取り上げていただいた。
ほぼ全部、福岡・九州ローカルのものであるが、人知れず消えていくお店も無数にあるなか、小さく始めたお弁当屋さんが、こんなに多くのメディアに取り上げて頂けるとは思っていなかったので(いや、少しは思っていた)、素直に嬉しく思っている。
取り上げていただけた主な要因としては2つ、
・見た目のいい(インスタ映えする)お弁当
・僕のわけのわからない経歴
だと思っている。
見た目にこだわった(もちろん味も)お弁当は、東京ではELLE gourmetなどの雑誌で特集が組まれるほどにたくさんあるが、福岡ではまだまだ少なく、珍しい部類に入る。逆を言うと、僕は狙って福岡での”おしゃれなお弁当”のポジションを取りにいったので、これだけメディアで取り上げていただけたのは、成果として大きい。
また、僕の経歴はとっ散らかっている。
大阪出身で、九州大学(一応九州で一番偏差値が高いらしい)で建築を学び、パリに留学、現地のお弁当屋さんで働いたりもしている。
”お弁当屋さんを営んでいる人間”としてはおそらく日本で一番意味不明な経歴だと思っている。
そしてこのことを、parkのHPに明記したり、noteで書いたり、インスタでほのめかすなどして、キチンと「意味不明な人間ですよ」ということをお伝えしているので、”珍しい””面白い”ということで、取材のご依頼をいただけるようだ。
どちらの要因にせよ、SNS等を通じて自分から発信をしていたおかげで取材に結びついている。小さく始めた僕のような人間にとって、マスメディアを通じて”顔が売れる”ということは本当に有難い。
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失敗したこと・間違っていたこと
・物件選び
・東京を見すぎた
・お金の勉強をしてこなかった
物件選び
僕は今の物件が大好きで、この物件によるメリットもかなりある。しかし、一人でやるには広すぎたことと、それに伴い、家賃が高すぎたと感じている。(家賃:12万円+消費税 / 福岡の相場ではまぁまぁ高い)
「固定費は大事だ云々かんぬん」ということは多くの人から散々聞かされていたし、本で読んだりもしていたが、果たして(自分にとって)どの程度の家賃だと高すぎるのか?自分一人でどの程度まで売り上げを上げれるのか?ということはやり始めてみるまでわからなかった。
これまで雇われで勤務していただけでは、料理や接客のスキルは上がるが、店舗経営の”肌感覚”が全く掴めていなかった。逆に言えば、ここの感覚を掴めたことはものすごく大きい。
また、物件の場所は、人通りがそこまで多くないところにある。
”街のお弁当屋さん”になろうと思うと、やはり立地は大事で、”便利であること”が大事になってくるということを肌で感じた。
結果的に、SNSやメディアで拡散され、お弁当の”ご注文”をいただくことはそれなりに増えたが(配達含む)、ふらっと買いに来ていただけるお客様はそんなに多くないという状況が起きている。(ポスティング等も一通りやった上で)
もちろん、毎日のようにご来店くださる方もいるし、常連様も付いている。わざわざ遠くからお越し下さって、「家の近くにあればいいのに」と嬉しいことを仰ってくださる方も多い。
しかし、結果として、現状では場売りで思ったほど売れていない。これはもちろん僕の実力によるものだが、”場売りでそれなりに売れる”ということを想定して決めた物件なので、それが思ったほど売れていないとなると、高い家賃を払ってまで西新という地で”路面店”をやっている意味がなくなる。
配達のご注文などはいただけるので、人が多く、交通の便がいい中央区で安いマンションの一室を借りて、完全ご予約制のお弁当を作った方が効率がいいのでは?となってしまう。
以上のように、”おしゃれで特別なお弁当”としてはそれなりにうまくいっているが、”日常使いの街のお弁当屋さん”としてはまだまだだなーというのが今の率直なところ。
とはいえ、”低資金での開業”でも述べたように、そもそもが「とりあえずやってみよう!」と、あまりお金をかけず改装もせずに始めたお店であるので、これからいかようにもできる。フットワークの軽さをキチンと残しておいたことが、ここに来て効いている。
固定費や立地など、経営に必要な感覚がなんとなくでも掴めたことは、これから更に大きな目標へと向かっていくのに必要不可欠な収穫だと思っている。
東京を見すぎた
僕はnoteやTwitterが好きなので、情報を得るためにもよく見ている。東京の第一線で活躍されている経営者さんや料理人さんの考えなどを直接知ることができるこれらのツールは、本当に貴重である。
お店をやるにしても、お弁当を作るにしても、ネットから仕入れる情報を、たくさん参考にさせてもらっている。
ただ、僕がいるのはあくまで福岡で、福岡の中でも下町の雰囲気残る早良区西新であるということを忘れてはいけないなーと日々自分に言い聞かせている。
僕のいる早良区では、uber eatsも最近やっと利用が始まったばかりで、noteを知っている人もそんなにいない。
福岡でみても、人口は首都圏とは比べ物にならず、平均所得も全然違い、日の出/日の入りの時間が違えば気候も違う。
お弁当に関していうと、”ロケ弁”の需要なんかも圧倒的に少ない。福岡で、”モデルが絶賛するお弁当”としてバズることはまず考えられない。
本当に当たり前のことであるが、その土地に合わせたやり方がある。
そこを無視して、”最先端の情報”を振りかざしても、空振りするだけである。多くの飲食店などが東京・大阪から鳴り物入りで福岡に乗り込んでくるが、その多くは数年以内に撤退していることが多い。「福岡は難しい」などとよく聞くが、シンプルに文化が違う。
福岡はなんとなく”都会”のイメージがあるが、”都会”な部分は天神博多のほんの一部で、大部分はただの地方都市であり田舎である。(そんな福岡が僕は大好き)
僕は少し東京を見すぎていた。このことはお店を初めて割と早々に気づいたが、初めからもっと深く”福岡”と向き合うべきだったと反省している。
お金の勉強をしてこなかった
「日本人は学校でお金について学んでこない」
最近あちこちでよく目にする。まさにこの通りである。
僕も御多分にもれず、お金の勉強なんぞしたこともない。ただなんとなく目の前のお金をやりくりしてきただけ。
ただ自分で実際に経営をする身になってみて、お金についての認識が少しづつ変わってきたように思う。お金について興味が湧いてきたし、お金ともっと向き合おうという気になってきた。
お金とはそもそもなんぞや?というところから始まり、お金の使い方や稼ぎ方、守り方、キャッシュフロー云々。知っているようで知らないことばかりである。
商売をやろうと思ったら、お金については避けて通れない。もっともっとお金について理解を深めるべきだと身を以て感じている。
こんなことは本当に当たり前のことかもしれないけど、多分その”当たり前”を意識している人は世の中にまだまだ多くないのではないか。
ただ、”これまで勉強してこなかった”というのは大した失敗でもなんでもなく、気づいたそのときから勉強を始めればいいだけなので、僕は今猛然と勉強している。
僕が学びたいことが出てきたときは、だいたい本屋や図書館に行って、それに纏わる本を10冊以上調達、本を読んでできるところから実践してみて.....の繰り返しである。
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自分一人でparkを始めてから、たった半年間の間に、とてもうまくいったことも、思い切り失敗したと思うこともあり、毎日ジェットコースターのような日々を送っている。
ただ一つ言えることは、うまくいくことも、いかないことも、全部ひっくるめて、僕は今とても楽しい毎日を過ごしている。
まだまだ30歳という若輩者なので、むしろ今のうちのたくさん失敗しておけ!くらいにも思うし、四苦八苦しながら向き合う日々が僕の財産になっていくのだろうと信じている。
結果的には、失敗から得られていることの方が遥かに大きい。僕はこれからも多くの失敗を経験しながら、邁進していく。
現場からは以上です。