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【第5話】20歳で会社倒産。仕事を失っても「建築だけはやらない」

もし、明日働く場所がなくなったらどうするでしょうかね?私は家柄、職人家系なので働き口はあったものの「建築には一切無関心でした」。20歳に経験した悲しいお話をします。

サラブレッド故に、建築なんてクソみたいな仕事だ!っと一般企業に就職し、大卒エリートに囲まれて、学びだらけのかけがえのない毎日を送っていた。入社3ヶ月後には川崎の武蔵小杉の事業所で印刷物の受注や納品の手配や品質管理、印刷機の機会メンテナンス等、様々な仕事を覚えてこれからが楽しい2年目に入る頃、その日は急にやってきた。

朝の朝礼で所長が神妙な面持ちで、しかも小さな声で言った。「急で話ではありますが、本社会議で弊社は倒産の手続きに入ったとの報告があった、1ヶ月後、この事業所は閉鎖となります。尚、今日より新規受注も一切ストップとなり各自。残務処理、退社準備をお願いしたい。」何を言ってるんだかまったく理解が出来なかったが、いつものように業務が始まり一日が終わる。

家に帰り冷静になって考えてみる。
という事は??という事か?倒産なのか?
最初のうちはまったくそんな雰囲気など感じないが、次第に電話のなる回数も減り、いつしか鳴らなくなった。いつの間にか機械の稼働も止まり、山積みされていた書類たちはどんどん処分され減っていく。パートさんが減り、残務処理を終えた社員は順々に退社していく。徐々に日を追うごとに静寂に包まれていく事業所。「あぁ。本当に終わるんだなぁ。」という実感が肌でわかるようになる。

積み上げてきたものも終わる時は一瞬。
あまりにも急な出来事で、倒産になる理由は誰も知らない。あまりにも無慈悲だなと感じた。後々になってテレビニュースの報道で理由を知ることになったのだが、要するに事業で成功し、調子に乗ったトップ一人の身勝手な行動だったことを知る。お金を沢山手に入れるとお金で解決できることが多くなる。お金で解決出来るようになると自分の人間力ではなくお金を権力に何でも動かせるようになる。今まで相手にされていなかった周囲の態度も変わる。そして勘違いをしていく。こういう図式で人として大事な事を忘れてしまう。お金があるうちは自分の身をお金で飾れるからいいだろうが、金が尽きてくる頃には人として灰化した自分が露出してくる。怖いものだ。

という事で会社のトップが舵取りを誤った事で、社員数百人の生活が路頭に迷うことになったのが2000年の話だ。

それでわたしはどうなったか?というと会社を退社する情報を聞きつけた父からこんな提案があった。「お金も稼がないといけないんだろうから、俺の下で次の仕事が決まるまで手伝いをしに来たらどうだ?」との提案だ。

「建築きたぁぁぁああ!」って感じだ。一般企業に就職をして逃れたと思っていた建築業界入門への話が再熱したのだ。サラブレッドとして正道の道生きるか?はたまた反発して邪道の道を生きるか?という選択。これはわたしの家柄の事情だからこそ、わたしはそこそこ悩む。いや、悩んでいるフリをしていたのかもしれないが(笑)急な事だから、「ちょっと2、3日考えさせてくれ。」その答えですら父は悲しかったのかもしれないが、なくなく答えを待つことにしてくれたようだ。

2、3日後に出した答えは「ひとまず、個人店の居酒屋でバイトをしながら、夢であるミュージシャンの夢を追う」と答えた。身体も細く、非力で、色白のわたしは、建築の「キツい、危険、汚い」というガテン系の仕事ではきっと役に立たない。と本気で感じていたので、本気で拒んでいました。父は憤慨した様子であったが「なら、仕方ないな」と最終的には息子の選択を受け入れてくれた。

申し訳ないという思いもあったが、わたしはミュージシャンの夢を叶えるため、またしても工業高校で建築を学んだことを無駄にしたんだ。

どんな理由をつけても建築から逃れるため「ミュージシャンの夢」を追い始めた。しかしこれが数日後に現実のものとなる。

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