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パッチ論争
僕が高校生のころから通っている喫茶店がある。ハンバーグ定食が有名で半熟目玉焼きをハンバーグに乗せてその上からトマトケッチャプソースをたっぷりとかけてくれるのがたまらない。
もう、通いはじめて30年以上になる。結婚する前に奥さんをこのお店に連れて言った時に、「あんた、はじめて女の子連れてきたな」とママさんが言ってくれた。
そのお店は住宅街の中にあるのでお客さんはご近所の常連さんが多い。寒い冬の日に、中年の男性客が数人カウンターで珈琲を飲みながら、マスターと話をしている。僕は少し離れたテーブル席でその話を聞いていた。テーマは「パッチ」らしい。いわゆるアンダーウエアのことである。おじさんたちは「パッチ」と呼んでいる。中には「バッチ」と言うおじさんもいた。
マスターは「僕は今年はまだ、パッチを穿いていない。まだ、大丈夫だ」と話している。中年客の一人は「ワシは昨日は穿いていたが今日は穿いていない」と言いながらマスターと張り合っている。他の中年客は「ワシもまだ今年は穿いていない、まだ大丈夫だ」とやっぱり張り合っている。
男達はどうもパッチを穿かないのが元気な証拠と思っているフシがある。僕も小学校の時に、真冬に半ズボンで小学校にいつまでいけるか友達と張り合っていたのを思い出した。僕もまだ今年はパッチを穿いていないと、離れた席からおじさん達と静かに独りで張り合う。
すると奥からママさんが出てきて大きい声で「さっさとパッチ穿きなさい。風邪引いたらどうするの。何をしょうもないことで張り合ってんの」と言い放った。男達はしょんぼりとして、静かに珈琲を飲むともなしに飲んでいる。論争に決着がついた。
ママさんが僕の席へ来て「ねぇ、全く」と言って同意を求めるが、僕も飲むともなしに空になったコップの水を飲んだ。
明日からパッチを穿こう。風邪を引かないうちに。