アートをより、多くの人へ届けるための仕組み
普段、コンサートに行きたいな。美術館に行きたいな。と思っても、ちょっと遠いな、とか。なんだかハードルがあるな、と感じる人はそれなりにいるのではないでしょうか。
私は割に好きな方なので、自分で調べて、少し遠くても時間を見つけて行ったりするのですが。一般的には、図書館などの公共施設よりも、少しハードルが高いと思う方が多いのではないかと思います。
そんなハードルを、少しでも軽減しよう、芸術文化をより多くの人に当たり前にしようとして、昨年取り組んだ事業があります。
アーツ・コミッション・ヨコハマ(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)さんと、ケイスリーとしてご一緒させていただいた、YokohamArtLifeという事業のご紹介をさせていただきます。
横浜市芸術文化振興財団は、「わたしたちは市民とともにアート力を活かすことにより横浜の魅力を高め心豊かで活力に満ちた市民生活の実現を目指します」といミッションの下、事業を行っています。
YokohamaArtLifeという事業は、「なんだか少し遠くに感じる“芸術文化”が、あなたの街のあなたの日常にやってくるプロジェクト」というコンセプトで実施されました。
2019年、2020年と国際的なスポーツ大会が開催される横浜市。横浜市と公益財団法人横浜市芸術文化振興財団は、芸術創造特別支援事業リーディング・プログラム「YokohamArtLife」を実施します。“リーディング・プログラム”とは、“先導的モデル”として、先進的・実験的な新規プロジェクトを公募するプログラムです。多様化する社会において、今よりもっと芸術文化を身近に感じられる街・横浜となるように、皆さまと一緒に進めていくのがこのプログラムの趣旨です。この場所で、今だから、横浜だから楽しめる芸術文化体験が、市民や来街者の皆さまを迎えます。
「ようこそアート、わたしのまちへ。」
街がもっと盛り上がる、そんな機会を「YokohamArtLife」から生み出してまいります。(YokohamaArtLifeホームページより)
具体的には、本事業で採択された「先進的・実験的な」4つのプロジェクトが、それぞれ異なる対象に向けて、各芸術文化団体によって実施されました(私たちは、データ取得、指標の測定についてお手伝いさせていただきました)。
以下が、本事業に関する、報告書です。とても読みやすいので、ぜひ一度ご覧いただければ幸いです。
この事業の特徴には、大きく2つあります。一つは、「普段アートに触れていない人」が来られるような工夫をしていること。横浜市という地域の中でも特に交通の便が悪いところや、団地などの地域に絞ったプロジェクト、普段参加しない人、より多くの人が参加しやすいプロジェクトを採択しているという部分です。
それからもう一つは、データを取る、ということ。どのような人が来ていて、彼らがアートに対してどのような意見を持っているかを可視化したことです。
今回、4つのプロジェクト(採択団体)があり、全体の参加者数は4,905名でした。そのうち、約30%は、普段芸術文化に触れていない人だった。そして、そのうち、約7割の人が、今後芸術文化に触れる機会を増やしたい、と思ったという結果になりました。
つまり、本事業に参加した方のうち、約1,500名の人が普段芸術文化に触れておらず、約1,000人の人が、今後機会を増やそうと思った、ということです。
こういった形で一つ一つ機会提供を丁寧にし、新しく関心を持つ方々を増やす、というのは、まさに公益財団として芸術文化振興を行う意味だと思います。
さらに今回良かったのは、各採択団体さんと共に、測定すべき指標、取得すべきデータを決め、各団体主体でデータを取得したというところです。
例えば、写真のワークショップを実施した、ザ・ダークルーム・インターナショナルさんが取ったデータの一つには、「写真ワークショップで視点の変化がありましたか」というもの。結果として98%がそう思う、と回答しました。こうした団体がプロジェクトをとおして実現したいことに関してデータを取得することで、各事業の広報となるとともに、事業の改善につなげていくことが可能となります。
どのようなデータを取るのかを決めるときに、実施団体が確認しないまま、勝手に決められた指標だと、うまく運用されないことがよくあります。そのため、各団体との協議の下、コンセプトに沿った指標を設定できたことは、各団体にとっても、(大変ではあったと思いますが)よかったことだと思います。
本事業で全体として実施したことは、プロジェクト実施により、①(市民の芸術文化活動に対する)参加のハードルを下げ、②芸術文化を身近に気軽に届け、③参加者数を増やし、④関心を高める、ということ。そしてその4つに関する大まかなデータを取得し、確認したということ。
そうすることで、市民に本当に芸術文化が届いているのかを確認することができ、今後、各採択団体が継続して事業を実施する場合にも、どのような工夫があればよいのかの材料になります。
芸術文化はすべての人に開いているものである。そうしたコンセプトの下、より広くの人に届けようとする試み。そして、それを明らかにし、伝え、今後に活かそうとする試み。こうした取り組みは、市民への説明責任果たすとともに、芸術文化の本来の役割が機能し、すべての市民に本質的に届いていくために、とても重要だと思います。今後もこうした事業が、より多くの公益財団等で実施されるよう、我々としても活動、支援を継続していければと思います。