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創造性のとびらをノックする~沖縄・読谷村で作曲教室を開催しました~

2022年10月15日(土)、16日(日)に、「変な音を、つくってみよう!~エル・システマ作曲教室~」を沖縄県読谷村で開催しました(CoArとエル・システマジャパンの共催)。とても楽しい場であったと共に、多くの学びがあったので、背景や準備段階のことなども含め、書き残しました。文章をとおしても作曲教室の魅力をお伝えし、みなさまの創造性のとびらもノックできれば幸いです。

Born Creative震源地

”Born Creative”
「ボーン・クリエイティヴ」、略して「ボンクリ」。
これは、「人間は皆、生まれつきクリエイティヴだ」という意味。

ボンクリウェブサイトhttps://www.borncreativefestival.com/about

この言葉を教えてくれたのは、現代音楽作曲家の藤倉大さんです。大さんには、2016年でしょうか、エル・システマジャパンさんが行う作曲教室で初めてお会いしました。
世界的な現代音楽作曲家で、ヴェネツィア・ビエンナーレの銀獅子賞、尾高賞、芥川作曲賞を受賞されていたり、映画『蜜蜂と遠雷』の楽曲を手掛けていたり、世界で、現代音楽界で、Dai Fujikuraを知らない者はいないくらいの、もうなんだかすごい人だということで、私はちょっと緊張していたのですが。
もちろん音楽・作曲の大天才なわけですけれど、何よりおどろきだったのは、大さんが超気さくで、誰とでもフラットに楽しくお話する、陽気な楽しい方だったということ。大阪生まれで15歳からイギリス在住ということもあってか、ユーモアのセンスでも右に出る人を探すのが難しいくらい、本当に面白い。お腹がよじれるくらい笑います。
一緒の空間にいるだけで、みんなの創造性、感性の輪がわんわん広がっていくような、まさにボンクリを思い出させてくれる、創造の震源地みたいな人なんです。(ちなみに、大さんの面白さを最も簡単に体験できるのは、こちらの本。おススメです)

エル・システマ作曲教室

そんな藤倉さんが監修する、エル・システマ作曲教室。福島県相馬市で年に数回開催されてきたこの教室は、①教えない、②強制しない(作曲しなくたっていい)、③譜面を通したコミュニケーションをする、というルールの下で実施される、とてもユニークな教室。教室には現代音楽作曲家(主には大さん)と、(たくさんの面白い奏法がある)現代音楽を演奏する演奏家がいらっしゃいます。
エル・システマジャパンさんとは評価のお仕事をさせていただいたり、ボランティアやスタッフとしてお手伝いさせていただいたりというご縁の中、私は初めて見た時からこの教室の虜になり、とにかく作曲教室がある時には相馬に通い詰めました(好きすぎて、友人に紹介して、相馬に四時間以上かけてみんなで来てもらったりもしてました)。世界で一番、楽しくて素晴らしい教室だと思うんです。
この作曲教室、何を私はそんなに興奮するのかというと……それは、約2時間という短い時間の中で、(4歳でも高校生でも)子どもたちが自分の音を探し、大さんや演奏家と譜面をとおして(対等に)コミュニケーションし始めること。最初はどうしたらいいかわからない……はずかしい……もじもじ……といった子も、音符で書けなければ言葉で書いてもいいんだ!こんな風に書くとこうなるんだ!大さんとの会話の中で、演奏家の人の出す音を何度か聴く中で、お、この音の方が面白い!といった形で、少しずつの発見をとおし、自分の表現を始めてゆきます。まさに水を得た魚のように、ぴちぴちっと創造性があふれだしてくるのです。

読谷村での作曲教室での楽譜①上がっていくグリッサンドのような音を、イメージしたのかな
読谷村での作曲教室での楽譜②吹きながら声を出す奏法が気に入ったみたい

やるなら絶対、読谷村!

そんな素敵な作曲教室も、コロナの影響などで4年間、開催されていませんでした。私もエル・システマジャパンさんのお仕事はしておらず、代表の菊川さんと時折雑談する、というような形でした。
個人的には2020年7月に沖縄県読谷村に移住し、多くの時間を執筆や芸術文化団体と子ども支援団体の支援に充てながら、畑仕事、散歩、子どもと遊ぶことに夢中になってのんびり生活をしておりました。
そんな折、2022年の初めに「作曲教室、沖縄でやらない?」と菊川さんにお声がけ頂いたのが始まり。
私は作曲教室の虜ですから、やらないはずがありません。二つ返事で「やります!」と言い、「やるなら絶対、読谷村がいいです!」と言いました。
好きなものを十個あげなさい、という問いがあれば、その中には作曲教室と読谷村が入るでしょう。
読谷村は沖縄県の中部・西部に位置する村で、日本一人口の多い村でもあります。陶芸の里やちむん、座喜味城、残波岬、ジンベイザメのいけす、紅芋、天然のビーチ、豊かなサトウキビ畑、おしゃれカフェ、優しい人びとなど、魅力がたくさんありすぎて、家族でここに永住しよう、と心を決めるほどの(実際とても移住者の方も多い)村です。
自分が住んでいることももちろんですが、学習支援教室でアルバイトをする中で村の子どもたちと直接話す機会もあり、島草履で(時にはだしで)走り回る姿を見て、なんて自由で楽しい子たちなんだ!と日々実感していたこともあり、作曲教室をやったら読谷村でやったら楽しいにちがいない、と確信しました。
読谷村役場の方々も快くご協力してくださり、村には伝統文化に触れる機会は多くあっても、クラシック音楽や現代音楽に触れる機会は少ないため、とてもよい取り組みになるだろう、というお言葉もいただきました。

今回の会場、海のテラスよみたん都屋。すぐ外はプール、その先は海という、開放的なホールをお借りしました©海のテラスよみたん都屋
会場の多目的ホール©海のテラスよみたん都屋
徒歩一分の自然ビーチ©海のテラスよみたん都屋

バーチャル大さんをつくる

さて、やることは決まったけれども、準備することが色々あります。チラシの作成・配布、会場探し、助成金申請、メディア対応、申込者とのやり取り、キャンセル待ちの調整、ボランティア募集……あらゆることに奔走しました。人・もの・金の見通しがない中、今となっては喉元過ぎれば……と言いますが、直前に国内外の出張が度重なり、夫にうわー、と泣きついた日もありました。
そんな中、大変だったけれども最も楽しかったのが、バーチャル大さんを会場の中につくりあげることです。
大さんはロンドン在住。コロナだし、大さんはオンライン大好きで(笑)、オンライン・オフラインのハイブリッドでやりましょう!となりました。Zoomでやるけれど、ネットワーク環境大丈夫かな?マイク、スピーカー、撮影、当日の緊急連絡用のスマホ、あれ?機材足りなくない?というようなことがまずあって。本番の何日か前に、会場でリハーサルをしたわけです。そこで大変抜けているところが私は、「あれ、マイク忘れちゃいました!スピーカーのことも考えておりませんでした泣」となり、優しい大さんもさぞかしあきれたことでしょう……仕切り直して、再度リハーサルをすることになったわけです。二度目のリハーサル、家にある最もよいマイク、スピーカーを夫に借りまして、カメラもスタンドもパソコンもiPadも全部持ち込み、よし!と意気込んで臨みました。
そこで面白かったのは、「はい、あのー、出来る限り大きな声であー!って言ってみてください。あ、声の調子はまだ大丈夫ですかね?」、「マイクのそのつまみを、こうしてもらって」、「ちょっと色々話しながら、端から端まで歩いてもらえますかー?」といった音の調整。音の天才と呼ばれる方と音の仕事をするっていうのは(私はその意味で大さんから見たらとんでもなく低レベルなことでつまづいておりましたが)、こういうことなのかー、と焦りつつも、うっとりしてしまいました。
最終的に、音声を拾う一つのマイク、音を拡張する一つのスピーカー、大さんの顔を主に映すプロジェクター、その他全体撮影用、手元や譜面撮影用、とスマホなどをそれぞれ用意することで、バーチャル大さん(ベータ版と言えるでしょう)の完成となったのです。

ハイブリッドでホルンの奏法とその記譜について説明する福川さん、大さん
バーチャル作曲家と演奏家と一緒にコミュニケーションを取り、イメージを膨らましてゆきます

無限パフェ、福川さん

作曲教室というのは先ほども書いたとおり、作曲家に加えて、直接その場で演奏する演奏家の方が必須です。今回は、大さんも楽曲をいくつも提供されている(「ぽよぽよ」とか「ゆらゆら」、面白い曲ばかりです。下のリンクから聴けます)、ホルン奏者の福川伸陽さんが来てくださいました。元NHK交響楽団首席、いうなれば日本トップの、現代音楽の難しいテクニックも何でもできる、スーパーなホルン奏者です。

福川さん、超絶技巧はさることながら、会場を包み込むような音色でみなを魅了し、柔らかい雰囲気でとても素敵な方。それに加えて私が何より感動したのは、子どもとのコミュニケーションの上手さ、深さです。
「それってこういう音かなぁ?」、「どっちがいい?あ、じゃあ、こんな風にしてみようか」、「それってもっとこう?大さん、どう思う?」
決して押し付けない、ちょうどよく子どもがゆっくり言語化するのをくすぐるような声掛けをしてくださるのです。また、大さんは「へぇ!いいじゃないですか。続きもお願いしますよ」というような感じで、まさに対等に一人前の作曲家として子どもとやり取りします。このお二人のバランスも、子どもたちにとってちょうどいいのかもしれません。お二人とお話した子どもたちは、みな筆をどんどん進めていくようになります。
さて、福川さん、言葉でのコミュニケーションもさることながら、譜面をとおしたコミュニケーションも秀逸。短い小節のリピートをする子が何名かいたのですが、その時は福川さんの解釈で表現を少し変えたり、それぞれの曲の雰囲気を吹く中で感じながら、さらに面白い曲に仕上げてゆく。その細やかな演奏家と小さな作曲家のやりとりを間近で感じ、身体が芯から揺さぶられました。
さらに、沖縄県立芸術大学の学生さんがボランティアや見学に来てくれていたのですが、彼らとも終了後、気さくに和気あいあいと話し、打ち上げの場ではお酒を楽しくたくさん飲み、空き時間には読谷村の歴史を勉強をし、飛行場までお送りするまでの間にはご自身で今考えている新しいアイディアを熱く語ってくださる。
終わってみて、こうして振り返ると、福川さんて無限パフェみたいではないか、と思います。上層部にあるクリームみたいなホルンのすごさを知って感動していたら、子どもとのコミュニケーションのすごさが中間層に隠れていて、その下にも下にも、たくさんの重層的な魅力がどんどん出てくる。こういう方と、音楽をとおして子どもたちがコミュニケーションを取ると、様々なものを肌で感じるにちがいありません。

楽譜をとおして丁寧な会話をする福川さん
こんな音?ちがうかな?

創造性のとびらをノックする

そんな大さん、福川さんと濃密な2時間を過ごした読谷村の子どもたち。週末の二日間で開催し、4歳から15歳まで、全部で40名を超える参加がありました(そして20名ほどのキャンセル待ちもいただいておりました)。
参加した彼らはどうなったかというと……
創造性のとびらをノックされて、ドキドキして、何だかとてつもない力を手に入れたような顔で、帰って行きました
もちろん全員とはいかないんですが。まっさらな五線譜の一枚紙を目の前にして最初は固まってしまった子どもたちが、こんなのでいいかな?こんな音がよかったかな?と書いた一音一音。それを大さんや福川さんと「こんな感じはどうだろう?」「こうじゃない?へー、それ、面白いんじゃない?」と話すことで、さらに次の小節を書き進める。最初はおそるおそるだった筆も、気づくとさらさらと何小節にもなって、二ページ目を書く子も。最後に福川さんに演奏をしてもらって、「かんぺき!」と満面の笑みを浮かべる子、恥ずかしそうににやりと笑う子。「つづきを書いた!」と持って来る子。大さんに「メシアンの影響を強く受けた作品でしたねー」、「とっても優しい音の、きれいな作品でしたね」と言われ、さらに嬉しそうに笑う子。(当日の様子を、読谷村のFMよみたんさんが取材、放送してくださいました。どうぞご覧ください)

Born Creative。人は皆、生まれつきクリエイティヴ。それは、その人にしかないもの。何が正解ということもないし、誰かにどう評価されるかということも関係ない。自分がどうしたいのか。自分が何を書きたいのか。自分が何を作り出したいのか。誰と共に、誰のために作っているのか。
そしてそれを、人生でずっとそういう行いをしている作曲家、演奏家のお二人と共に感じ、考える。
それはきっとどう生きるのか、ということと同義で、出会った人の人生を応援し合うということと同じ
作曲教室は、自分を生きるということが凝縮された、体験、実験の場なのだと思います。だから気分が乗らなければ、作曲しなくたっていい
テスト、受験、大会などによる競争社会・点数主義で閉ざしがちになってしまう、子どもたちの心の底にある創造性のとびらを、作曲教室でちょんちょん、とノックする。創造性のとびらは、開けるのが難しいこともある。コンコン、と強くノックしても中々開かない。ちょんちょん、とお誘いすると、あれ、なんだろう?と少し顔を出す。そして気分が乗れば、湯水のように創造性があふれ出て、とびらが急にがばーっと開く時がある。あるいは、ちょっとだけ顔を出したまま、様子をうかがっている場合もある。でもそのとびらは誰にでも、ある。
それでも、保護者の方がいわゆる「正しい」音符の書き方を教えに行ってしまったり、どう思われるかの怖れが強かったり、さまざまな理由で、とびらが固く閉ざされたままになるケースもある。それでも作曲教室は、その閉ざされたとびらを、優しくノックし続ける。
今回、少なくとも30名ほどの子どもたちが、創造性のとびらをいつもより大きく開けて、帰っていきました。
また日常に戻れば、とびらが閉じてしまう場合もあるかもしれないけれど、一度開いたことのあるとびらは、きっと開きやすい。それに、何度も開いたことのあるとびらは、もう閉じることはない
自分を信じて、自分を生きる。
自分が感じたこと、思うこと、やりたいこと、それらを素直に表現する。
そしてそれぞれの感じたこと、思うこと、やりたいこと、それらを素直に尊重しあう。
作曲教室は、そういう生き方、人と人とのあり方に、大きなきっかけを与えてくれる場
なのだと思います。

子どものアンケートの一部①
子どものアンケート②

創造性の潤滑剤

作曲教室を読谷村で実施し、子どもたちと一緒に取り組んで、これを継続しなくては、とあらためて思いました。大さんも菊川さんも、もちろんめちゃめちゃ乗り気で、既に次回のことでお話したりもしています。
私はじゃあ、作曲教室で何がしたいのかというと。やっぱり一番好きなのは、子どもたちが一歩を踏み出すお手伝いをするところだと思いました。まっさらな五線譜、メシアンの楽譜、藤倉大さんの楽譜を前に固まってしまって笑、どうしよう、となった子に、ちょっとだけ声をかけにいく。福川さんや大さんとの会話のきっかけをちょっとだけアシストする。もう飽きちゃったー、という子に、別に外に行ってもいいよ、と言う。演奏が終わったあとに、感想を伝える。それがとても楽しい。
あぁそうか、これは何かに似ていると思えば、クレ5-56だなぁと。あの、自転車の錆び対策に使う防錆潤滑スプレー、クレ5-56。(夫に知らないよそんなの、と言われましたが、知りませんかね……)
大さんと福川さん、演奏家の方、作曲教室という場自体が、子どもたちの創造性のとびらをノックする。その時に、固くって中々開かない、内側から引っ張って閉めちゃっている、そんなケースがあった時に、とびらに向き合う。作曲家、演奏家とのコミュニケーションがより円滑になるように動く。機材周りを整えて、バーチャル大さん(正式版)をつくる。音楽以外の気持ちについて、子どもたちと話す。感じていることを一緒に感じ取ろうとする。そういう潤滑剤です。
創造性のとびらの、潤滑剤になる。それを目指して、これからも精進していこうと思います。
エル・システマ作曲教室を読谷村で、これからも。
創造の輪が、広がっていきますように。

最後に譜面とみんなで、記念撮影

読んだ方が、自分らしく生きる勇気を得られるよう、文章を書き続けます。 サポートいただければ、とても嬉しいです。 いただきましたサポートは、執筆活動、子どもたちへの芸術文化の機会提供、文化・環境保全の支援等に使わせていただきます。