弁護士の私がパブリックアフェアーズを仕事にするようになるまで
法務系Advent Calendar 2019 に初めて参加します。うどっぴ(@_udoppi_)さんからバトンをいただきました。
リーガルテック関連の記事にしようかとも思いましたが、ちょっと趣向を変えてパブリックアフェアーズをテーマに書いてみることにしました。
自己紹介
弁護士の南知果(みなみちか)と申します。弁護士になってちょうど丸4年が経とうとしています。2016年に西村あさひ法律事務所に入所し、弁護士生活をスタートさせたのですが、自分でもびっくりなことに2年3か月で西村あさひを飛び出してしまい、今は法律事務所ZeLo・外国法共同事業という新しい事務所に所属しています。
大学・ロースクールの同期や、前の事務所の同僚から「ちかちゃんは最近一体なんの仕事をしているの?」とよく聞かれることもあり、この記事では、M&Aやジェネラルコーポレートを中心に仕事をしていた私が、パブリックアフェアーズを仕事にするようになるまでのストーリーを書いてみようと思います。
大手法律事務所を辞めた
2018年3月、憧れて入所した西村あさひ法律事務所を辞めました。ZeLoには創業者の角田弁護士が大学時代の先輩だった縁で入所することを決めたのですが、当時のZeLoはまだできたばかりの新しい事務所で、ZeLoに飛び込むことは、楽しみな面もありつつ、正直かなり不安も大きかったです。
これまでやってきたM&Aや株主総会対応などの会社法関連のアドバイスであればまだしも、知識も経験もまだまだ足りない弁護士3年目の私が、クライアントに対して価値のあるリーガルアドバイスがきちんと出来るだろうか。もし弁護士としてうまくいかなかったら、地元のスナックで働かせてもらおう、、と結構本気で思っていました。
Fintechのスタートアップをお手伝いすることになる
ZeLoに入所してすぐの2018年4月ころ、代表の小笠原弁護士から「Fintechのサービスを新しくやる会社から、週2くらいで手伝って欲しいという話があるんだけど、南さんどう?」と聞かれました。
会社で働いたこともなければ、Fintechも全然よく知らないし、何をどう手伝うのかもよくわからず、「どう?」と言われましても、、という感じでしたが、とにかく何でもやってみるしかない状態だった私は、その場で一応「はい」と答えました。
数日後、小笠原弁護士から「渉外」の仕事を手伝うことになると言われました。
当時の私は、「渉外」=海外案件だと思っており、「英語か、、そこまで得意じゃないし、役立たずですぐに切られるかもしれないけどまあやってみよう」といった感じでした。
「渉外」が海外案件ではなく、「政府渉外」を指していると理解したのは、その会社で働き始めてからでした。笑
キャッシュレス/Fintech関連の会議に出席する
2018年6月からお手伝いすることになった会社は、当時まだサービスもリリースしておらず、社内は「スタートアップ的カオス」な感じでした。
私の仕事は、リーガル部門で契約書のレビューなども担当しつつ、経産省で行われているキャッシュレス関係の会議(キャッシュレス推進協議会の前身のような会議)に出席したり、Fintech協会の分科会などの色んな会議やイベントに参加して、その場にいる方々と情報交換をすることがメインの業務でした。
が、最初は本当に、なんのために自分がそういった会議に参加するのかもよく分かっておらず、ただ依頼されるがままに会議に赴いては必死にメモを取る日々でした。特にキャッシュレス関連の会議では、QRコードが「静的」やら「動的」やら「MPM」やら「CPM」やら「EMV」がどうのこうのと、当時の私にとっては、とても日本語で話しているとは思えない会話がなされており、メモを取ることもままならないような状態でした。
Fintech関連の本や記事を読み漁る
周囲の方々が話す内容についていきたい、なにか自分も価値を発揮しなくてはとの一心で、Fintechや金融法制に関する本や記事を読み漁るようになりました。法律の専門書だけではなく、ビジネス書や新聞、Webの記事などもたくさん読みました。報酬に見合った成果を出さないと(弁護士としてやっていけなくなるかも、、)との焦りやプレッシャーも結構感じていたのもあったためか、とにかく毎日必死でした。
資金決済法は少しかじったことがあったものの、犯罪収益移転防止法や割賦販売法は「はじめまして」な法律だったので、片っ端から本を買っては読みました。
▼繰り返し読んでいる本たちの一部。版が古いものも混ざってしまっていますが。
会社で仕事をした後、夜は築地のZeLoの事務所に戻って、顧問の対応をしたり、契約書のドラフトやレビューをしたり、DDをしたり、訴訟の準備書面を書いたりといった弁護士業務もやっていました。事務所から徒歩2分のところに住むというスーパー職住近接生活で、なんやかんや日付を回るくらいまでは仕事をする日々でした。
省庁や勉強会など色んなところに出かけるようになる
会社をお手伝いし始めて3か月くらい経って少し慣れ、自社サービスに関する理解も進んでくると、外部の様々な情報から自社に必要な情報をピックアップできるようになってきました。
金融庁、経産省、総務省、内閣官房、内閣府あたりのHPを頻繁にチェックし、自社のビジネスに関係がありそうな会議を見つけては傍聴し、情報を社内にフィードバックするようになりました。
特に金融庁のHPは毎日アクセスしていました。2018年9月に金融庁で始まった金融制度スタディ・グループは毎回傍聴し、Fintech業界に大きな影響のある「決済の横断法制」に関する議論状況をキャッチアップできるようにしていました。
▼日本経済新聞社と金融庁が共催する日本最大のフィンテック&レグテック カンファレンス「FIN/SUM」にも足を運びました。
金融関係のニュースが分かるようになる
金融制度スタディ・グループに毎回出席していると、当日聞いた議論の内容を翌日の新聞やニュースで目にするようになります。会議での生の発言を聞いているので、「この部分がピックアップされてこんな風に記事になるんだな」など、その記事の背景が分かるようになりました。
また、週一で届く「週刊 金融財政事情」という雑誌を読むのが一週間の楽しみになりました。ちなみにこの雑誌は、金融関係の最新情報やトレンドが正確かつタイムリーに解説されており、年間購読しても全然高くないので、めちゃくちゃオススメです。
▼愛読雑誌。
情報を的確に伝えられるようになる
社内では最新ニュースへの感度がとても高く、日経新聞などでFintech関連のニュースが出ると、すぐにSlack上でシェアされ、記事に関する議論がなされていました。記事には書かれていない背景事情や今後の方向性などについて分かることがある場合には、出来るだけコメントするようにしていました。
また、省庁の会議に出席した後は、どんな議論がなされて、それが当社のビジネスにどう影響がありそうかをタイムリーにSlackで報告していました。
すると、会ったことのない他チームの方からも、「この件に関する議論状況詳しく教えてください!」と30分のMTGが組まれたりして、社内にどんどん知り合いが増えていきました。
ビジネスサイドの相談先になる
会社では、渉外・政策企画業務以外に法務のお手伝いもしており、主に契約書のレビューを担当していました。ビジネスサイドの方と、契約書のコメントバックの交渉方針について話したりするなかで自然と結束力が生まれ、契約書レビューとは全然別の場面で、「実はKYCに関するこんなことで困っているのだけど、この法規制って変えられないのかな」といった相談を受けることがありました。
そういった相談の中で、自分が想定していなかったところで、法規制によるビジネス・実務上のネックが色々とあるのだなと痛感し、自分からも積極的に法規制によってビジネスサイドが困っているようなことがないかを目をこらすようになりました。
社内と社外をつなげられる存在に
2018年秋以降は、会議を傍聴するだけではなく、個別に省庁の方々とアポをとり、Fintech企業として、現状の法規制や今後あるべき法制に関して意見交換するMTGにもたくさん出席しました。
MTGにあたっては、ビジネスサイドからの意見をできるだけ吸い上げ、法的な整理が必要な部分については規制の趣旨や内容についてリサーチをし、主張を資料にまとめて持参しました。
弁護士がメインで使うツールはWordなので、Googleスライドで資料をつくるのには最初こそ苦戦しましたが、だいぶ使いこなせるようになったと思います。笑
ある意味狭い業界なので、社外のステークホルダーの方々ともかなり顔見知りになり、「うちはこんなことで困ってるんですが、御社はどうですか?」といった形で議論が始まり、しょっちゅう意見交換もさせていただくようになりました。
パブリックアフェアーズという領域
以上が、私がパブリックアフェアーズを仕事にするようになるまでのストーリーです。
パブリックアフェアーズは、「M&A」「ファイナンス」「訴訟」みたいに、弁護士が活躍する領域としてのプラクティスが確立している分野ではないかもしれません。
でも、「M&A」だって、私が生まれたくらいの頃にはおそらくまだ日本ではプラクティスなんてなくて、先輩方がチャレンジし、道を切り拓いてきてくださったから今があるのだと思っています。
ひょんなきっかけではありましたが、Fintechの世界に身をおいたことで、ビジネスと法規制が切っても切れない関係にあることを実感しました。社会にとってあるべきルールを考えるにあたり、ビジネスと法律の両方が分かる存在は非常に重要だと感じています。
「パブリックアフェアーズ」として弁護士がどんな活動をすればよいか、はっきりとした正解を持っているわけではありません。
それでも、私はこれからも弁護士として、この「パブリックアフェアーズ」という領域でもがき続けてみたい。
そんな決意も込めてこのnoteを書きました。
チームメンバーへの感謝
私がこんな風にのびのびと働けたのは、本当に会社の皆さま、チームメンバーに恵まれたからだと思っています。
政策企画チームのメンバーは、週に3日しかオフィスにいない私をチームの一員として受け入れ、分け隔てなく接してくれました。情報もオープンで、とにかく働きやすかったし、会社に行くのが楽しくて仕方なかったです。
マネージャーは、右も左もわからなかった私に沢山のことを教えてくれました。新しい世界の扉を開いてくれたマネージャーには、心の底から感謝しています。
おかげさまで、自分でもまったく予想していなかったキャリアをいま私は歩んでいます。笑
会社をお手伝いしていたのは2019年5月までなのですが、チームメンバーの皆さまとは、またどこかで一緒にお仕事できればいいなと願っています。
もしご興味があれば・・・
今年は恐縮&ありがたいことに、インタビュー記事やイベントレポートをたくさん書いていただきました。
もしパブリックアフェアーズの世界にご興味があれば、こちらも読んでみていただけるとうれしいです。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
明日の法務系Advent Calendarは、@msut1076さんです。
メリークリスマス&よいお年を!