【小説の仮説】小説の魅力はキャラとモノ(=名詞)にある!?
ウェブ小説では読者の方から感想が寄せられます。
感想を読み解くことで、
その作品の魅力を発見できないか?
あるいは、人気が出る小説の法則を発見できないか?
そんなことを私は考えています。
そして今回、読者の感想を分析して得られた仮説が、
「小説の魅力は名詞に託される」というものです。
今回は、竹神チエさんの『僕の妻は少しオカシイ』を分析しました。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054886840098
本作品の特徴をまず挙げておきますと、
・ショートストーリー集(全編通して同じ設定が使われるが、ストーリーごとの連続性は弱め)
・応援コメント(各話に送れる感想)がたくさんついている
です。
せっかく応援コメントが多数ついている作品で応募していただいたので、
応援コメントを分析しようと決めた次第です。
(計量テキスト分析では、今回のような短い物語の集合体について良し悪しを語りにくいという都合もあります)
というわけで、小説本文と応援コメントでよく使われていた語を比較するところから分析は始めました。
比較していると、一つの傾向があることに気が付きました。
それは、
「本編でよく出た名詞や一部の話で活躍した名詞は応援コメントでも登場する。
だけど、名詞以外の語では小説本文と応援コメントで使われる語がかなり異なっている」
というものです。
名詞というのは例を挙げていくと、
まずはキャラクター名です。
これはもちろん小説の中に出てきますし、感想でも当然使われるでしょう。
さらに作中で活躍したモノも、感想でよく出てきます。
今回の分析対象であれば、
「月」や「トマト」などは、一つの短い物語の中で重要な位置にいる語でした。
話の軸になっていたり、オチなどで使われたり。
そういった作中で特別な意味を持っているモノもまた感想に出てきやすいのです。
そのことを示した表が下の図です。
これは応援コメントにおいてよく出てきた名詞の表です。
背景を緑にしている部分が、小説本編でもよく出てきた語。
太字にしている部分は、サブタイトルに登場するなど、特定の話で重要な役割を与えられていることが明らかな語です。
なお名詞の横の数値はその語が使われた回数です。
初期設定のままで分析をした結果、
「笑」という語が人名にカテゴライズされていますが、
これは、
(笑)のような、笑っていることの表現として用いられていたものですね。
やはりこれは感想特有の語でして、小説本文には全然出てきません。
動詞や形容詞は基本的に感想ならではの語が出てきやすいようです。
それからもう一つ、
特定の話で重要な役割を与えられていた語。
それが感想にもよく出てくるということを裏付けるデータをお見せします。
以下の図では、点線の交わるところが原点で、そこから離れるほど特定の話にのみ出てきたことを示します。
こちらが応援コメントにおける図。
そしてこちらが小説本文における図です。
どちらの図でも「月」や「トマト」が原点から離れている位置にいることがわかります。
小説本文の図でのみ「野矢」という人名がかなり原点から離れた位置で目立っています。
この野矢さんは、主人公が教師をしている学校に在籍している生徒さんです。
登場するのが第2章の第2話にのみなので、このような目立ち方をしています。
ちなみに感想では直接「野矢」という語で触れられることは少なかったみたいですが、
野矢さんよりも、主人公にロリコン疑惑が浮上したことの方が感想で多く触れられていました。
そちらの印象が強くて野矢さんは忘れられてしまったのでしょうか?
それとも応援コメントは基本的に短文の感想ですから、焦点を当てられる名詞に限りがある、ということなのでしょうか?
ともあれ今回の分析から見えてくるのは、
「作中で目立った名詞に、読者は感想で触れることが多い」
ということです。
キャラが活躍したり、印象的なモノが出てきたりすると、読者も感想が書きやすい。
そういうことがまず言えると思います。
今回の分析の結果は、私としてはかなり嬉しい結果でした。
実は計量テキスト分析を始めたばかりの頃、友人の小説を批評したんですね。
その時、計量テキスト分析で見ていくと、物語の中に特徴的なモノが全然出ていないことがわかりました。
そのせいで物語でなにが言いたいのか、なにを見せたかったのか、ぼやけてしまっているんじゃないか?
と推測し、友人にもそう指摘をしたんですね。
今回の分析は、その指摘の裏付けになってくれている感じがあって、
やっぱりそうだったんだ!
と興奮しました。
計量テキスト分析の最大の利点は、
「正しいかどうか、作者が採用するかどうかはともかくとして、
少なくともデータの上ではこういうことが言えるよね」
というアドバイスの仕方ができることです。
辛口の批評、素直な意見。
そういうアドバイスを求める方ってたくさんいます。
あるいは「辛口のアドバイスほしい人は自分のところに来なさい」みたいな募集もよくありますね。
だけどそのアドバイスが的外れっていう可能性があるわけじゃないですか。
私も辛口アドバイスしたことありますけれど、今になって振り返れば、自分の価値観を押し付けているだけで相手の方には不必要なアドバイスが多々ありました。
どうしてもアドバイスって主観が含まれちゃいます。
だからアドバイスをする側も受ける側も、それが的を射た重要なアドバイスかどうか判定するのって難しいんですよね。
計量テキスト分析の良いところは、
「あくまでデータを出すだけ。良いか悪いかを言うわけじゃない」
というところなんですよ。
たとえば、
「キャラクターの存在感が薄いみたい。キャラの魅力をアピールするなら、もっと登場させた方がいいかもね」
「作品を語る上で軸になる名詞が少ないね。もっとモノにメッセージを託すと、読者は感想を書きやすくなるんじゃない?」
というアドバイスの仕方になるんです。
キャラクターの存在感が薄いとかは、コンピューターを使って集計しているわけですから、これは客観性の高い情報です。
その上で「ここを変えると、こんな結果が得られるはずだよ」という言い方になります。
変えて得られるものが作者にとって重要なら変えればいいし、
重要でなかったら変えなくていいんです。
「変えるべきか?変えないべきか?」
「良いのか?悪いのか?」
その判断は作者がすればいいんです。
アドバイスする側はそれを決めなくていいんです。
ですから計量テキスト分析を利用したアドバイスは、する側受ける側の双方にとって精神的負担が少ないんじゃないかと私は思うのです。
単純に分析結果を与えるだけでも良いアドバイスになると思うのですが、
もっとやれることを増やせそうだと最近は感じています。
何作か小説の分析をしてきて、たくさんの仮説が発見できそうだと感じます。
たくさんの小説を分析すれば、新しい仮説が出てくるし、既存の仮説を裏付けるデータ、既存の仮説を否定するデータも出てくることでしょう。
そうやって仮説の信頼性を高めていくことで、
「データ+仮説」のパッケージで作者に提供できるようになります。
もしかしたらこの計量テキスト分析は、
私が最初に感じたよりもずっとずっと小説の腕を磨きたい人たちの強力な武器になるのかもしれません。
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