ステイシーくんと一緒に
カラカラ回し車を爆走する毛玉ちゃんに私はすっかり魅せられていた。
可愛い。可愛いしかない。
想像、いや妄想していた儚げなコではなかったけれど、元気いっぱいのデグーちゃん。ああ、このコだ。このコと一緒に暮らしたい。
振り返ってお店のおねえさんを探したが、おねえさんは既に店内を忙しそうに歩き回っていた。
すみません、と声を掛け「見せてもらったデグーをお迎えしたいです」とどきどきしながら伝えると、おねえさんは「はい、わかりました。じゃ、手続きお願いします」とあっさりと言った。クールだ。
「ケージとかは用意してあるのですが、このコが食べていたチモシーとかペレットはこちらで用意したいのですが・・・・・・」と伝えると、おねえさんは「はーい」と言いながらお店の中を案内してくれた。
「こちらをどうぞー」とおねえさんが差し出すカゴを持ち、後をついて回ると、「チモシーはこれです。あと、うちではバミューダヘイもあげてます。ペレットはこれ。おやつにあげるならこのチモシースティックと押し麦。あ、砂もいります?」
クールなおねえさんは実に淡々と、そして容赦なく商品を手に取り、私の持っているカゴに放り込んでいった。
い、いや、あの、重いです・・・・・・。
砂を入れた時点でカゴはいっぱいになった。
「あとはもういいですかー?」と言うおねえさんに、はい、とりあえずこれで、と答えレジに向かう。
おねえさんが「デグーのお迎えです」とレジの向こうにいた人のよさそうなおじさんに声掛けすると、おじさんはニコっと笑いながら私に飼育上の注意事項を説明してくれた。ひとつひとつ、ふんふんと聞きながら、最後に書類にサインし、お会計をすませる。
「じゃあ、いきましょうか。入れ物はありますか?」
私は持参したキャリーケースを見せた。
おじさんと一緒に、再びデグーちゃんのいるケージのところに向かうと、まだ回し車を爆走中だった。
おじさんがケージの扉を開けると、デグーちゃんは回し車を止め、ぴょんぴょんと軽やかに扉の前に寄ってきた。そしておじさんの手にじゃれつく。
よしよしとあごの下をなでなでしながら「人懐こいコなんですよ」とおじさんは言う。心なしか、その声は嬉しそうだった。
おじさんはデグーちゃんがケージの中から出てこないように、手早くケージの中のチモシーをつかんでキャリーケースに入れ、最後にデグーちゃんをキャリーケースに誘導した。
「はい」
そう言われて渡されたキャリーケースには、確かにデグーちゃんの重みがあった。小さく軽い、けれど大切な重み。
「ありがとうございましたー」
おじさんの声を背中に、私は両手でキャリーケースを持ちながら、ゆっくり店を出た。
さあ。車に乗って一緒におうちまで帰ろう。車は初めてかな。揺れるけど大丈夫? できるだけゆっくり運転するからね、ステイシーくん。
声に出したら変な人だと思われるので、心の中で呟きながら、私は車のドアを開けた。
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