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【9】がんとソウルサウンドライアー

京都からライアーたちを携えたソウルサウンドライアーの母にお目もじする幸運に恵まれたのは、がん告知後に家出した私が家に戻って3日目のこと。
安心してゆっくりとお茶を飲んで過ごす時間に感謝して、奏でてもらったライアーの響きを私の全てで受け取った。

好んでトネリコ材のライアーを立て続けに作っていた私は、既に異常細胞が増殖を繰り返していた身体の為に準備をしていたのだろうと笑って話せた。

「ワクチンも抗がん剤も私の肉体に入れたくないんですぅ。」
すっかり安心して本音を言えた声は少し甘えていた気がする。

音の振動を體(からだ)に伝える弦楽器としてドイツで産み出されたアンドレアス・レーマン氏のライアーたちの名称「ソウルサウンドライアー」のことは、一個人として、奏でる者の内側が外の世界に響きとして顕れてしまう存在だと認識している。
このライアーは、ほぼヨーロッパの桜材で作られるけれど、楓・トネリコ材は木目が詰まり桜材よりも固く重い為に制作には更にエネルギーが必要になる。トネリコ材は重篤な方へ向いているともいわれ、そのダイレクトな響きは、奏でる者として内側を整えることを更に深く心にとめ細心の注意を払う必要があると個人的に思っている。

全ての物体はそれぞれの振動を持っていて、人間の身体の各部位にも周波数がある。響きで整えてゆける。私には432Hzのライアーやソルフェジオ音階のライアーがいてくれる。

ライアーがいる。大丈夫。私には絶対的な信頼と自信があった。

自分自身がライアーの実験台になれると不謹慎ながらちょっと面白がっていた。ただ、異常細胞という体の中の不協和音を抱える「自分の内側」から、皮膚を挟んで接している「外側の世界」に放ってしまう響きがどんなものかという不安と怖さのことを口に出せたのは少しばかり先になった。
そして、本当の重篤とはどんな状態なのか、どれほどの細心の注意を払う必要があるのかを、この先で身をもって体感することになるのを、この時の私はまだ知らなかった。


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