【22】愛が胸に沁みる
がんカミングアウトしてから、いろんな人が励ましてくれた。
中には、カミングアウトしない人の気持ちが分かるようなこともあり納得もした。私は幸運にも心地いいエネルギーを頂くことがほとんどで、ありがたいなぁと思って過ごしていた。
療養生活の中、娘からメッセージが届いた。ビデオだった。
「ちかちゃん、いつもありがとう」
その可愛い表情と声。
何度も繰り返し見た。
いつの間にか涙が零れていた。
ビデオで私の名前を呼んでくれるのは夫と元妻との娘であり、私たちは夫婦別姓の為に厳密にいえば法的には家族でもない、という遠慮が私にはある。
よって今、もにょもにょしつつ「娘」と書いている。(うきゃー)
娘だと声に出して言うことも、書くことも無かったけれど、可愛くて愛おしくて、心の中では密かに「娘」という言霊を温めていたのだ、実は。
最初の結婚生活でお腹に宿した経験はあるけど、私には今世で子どもを産み育てた経験が無い。夫との子宝に恵まれたくて高齢ながら人工授精や体外受精までチャレンジしたこともある。結局、産み育む人生にはならなかったけど、幸運にも姪・甥たちや夫の最愛の娘たちのお陰で疑似体験をさせてもらえてている。
「ちかちゃん、いつもありがとう」
涙が収まってからも数秒のビデオを気が済むまで何度も再生し、落ち着いて夫に報告のメッセージをした。すぐに返事が来た。
「ああ、母の日だからか」
!!!!!
言葉にならない声を発しながら私はクッションを抱きしめた。
優しい彼女のことだから、私を励まそうと撮影してくれたのかもしれない。またも目頭を熱くしながら、元気になっておかあさんごっこをさせてもらおうと息を吐いた。
喜びに胸が熱くなる
多くは望まない・・・と思いつつ「行ってらっしゃい」「おかえりなさい」からはじまって、ウエディングドレス姿を眺めたり、もしかしてベールダウンのリハーサルさせてもらえないかな、本番はママだろうから・・などとイメージが膨らみ、私は留袖か?夫はタキシードかと具体的な想像になりバージンロードを歩く夫には現在のふっくらしたお腹周りをなんとかしなくてはと真剣になる。更には、孫を抱っこするなどあらぬ方向へ飛躍。目も脳も冴えわたり興奮して就寝時間に眠れない。
深呼吸して現実に戻り、がんなんてサッサと治して体力づくりをしなくちゃ!孫のお守りの為に・・と現実と空想未来を行ったり来たり。
胸に花のように希望が咲いた日のことだった。