【30】愛してるとだけ言ってくれ
私の場合がんカミングアウトは早めにした。仕事するにもプライベートでも言っといたほうが気が楽だと思っていたから。ところが自分の予想に反してカミングアウトしたことで気が重くなることもあったから「言わない」選択を取る人の気持ちも理解できた。
告知を受けた2021年
標準治療を断った私が一番避けていたのは、心配されること。
ご機嫌で全身が正常細胞の自分を抱きしめて過ごしていた。
内側から染み出すように出てくる不安や恐れ悲しみは、味わってから音霊と一緒に溶かした。端から残さず全部。
私は根っからポジティブじゃない。
前向きでいようと生きているだけの人。
外側からの恐れ、不安、悲しみ、治す気力を削ぐようなエネルギーは全て避けた。内側の綻びと繋がってしまうのを絶つ為に。
身体の一部を異常細胞に占拠されてはいたけど、ネガティブに引っ張られて気持ちが落ちるような事態から全力で遠ざかる。縁切りも辞さなかった。
カミングアウトで「心配は受け取りません」宣言。
受け取らないと公言しても、心配の言葉を伝えずにはいられないタイプの人もいるのを知った。心配が全面に出たり、選ぶ言葉や言い回しが不安寄りタイプの人は、恐れや不安が占める割合高めだと推測。
「かける言葉が見つからないけど気持ちを伝えたいと思う方がいらしたら『愛してる』をお願いします」とSNSに書いてみたら「愛してる」が降ってきて、ちょっとだけ涙出た。言葉がかけられなくてただ回復を願う経験が私にもある。
私の結論は、心配は愛の一部なんだということ。
よって濾過、抽出して愛だけ受け取ることにした。
愛から生まれた心配であっても
私は嬉しく思えなかったけど言葉の先にある想いだけを頂いた。
不遜でごめん。でも、そのくらい気を付けていたの。
その頃の私は嵐の中で崖っぷちにいて
身体を低く四つん這いになって耐えながら
崖を背にして、じりじり前に進んでいたんだ。
遠くに必ず見えてくるであろう光を信じて
ネガティブを振払いミリ単位で前に、前に。
そんな日々の中で、こんな体験をした。
がんである私に対して
自分が感じている不安や恐怖、辛い気持ちを
私本人に言ってくる人に電話対応した時のこと。
鳥肌が立った。
どうしても私に気持ちを聴いて欲しかったのか。
やめてと言っても「でも~」と泣き声で続く。
「止めてもらえないなら切るね」と伝えて電話を切った。
長らく私は、その人の悩み愚痴・不安の聞き役だった。
私が死ぬんじゃないか不安でいっぱいの気持ちを直接受け止めた。もう同じ役柄はできない、してはいけないと思った。こんな時ですら聴く話すがお互いに交代できないような関係性を作ってしまったのは私だ。
耳に残る泣き声を、毎日何度も振り払った。
嫌だと伝えても止めない欲求を押し付けるのはレイプと同じ。
湧いた感情は、日を追うごとに私の内側で暴走した。
もしも私が母親で、愛しい幼い我が子が私を失うかも知れない不安で泣くなら、きっと抱きしめて聞くだろう全力で。でも、私は自分を押さえてその人の気持ちを聴けるほど余裕は無かったし、そこまで愛していなかったんだと思う残念だけど。その人も、私よりも自分の気持ちが優先するくらいの愛だったんだろう。
これからは
共に愛を巡らせる関係の人と、この世界を生きたい。
祈るように願った。
体に出はじめた痛みに堪えつつ生きていた2021年の夏のこと。
良くも悪くもターニングポイントになった体験だった。
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2023年の私が振り返って書いている。
甥っ子が、おしゃぶりを咥えていた頃
叱られた時も、感情がぐちゃぐちゃの時も
「だいすきぃ」と泣きながら言っていた。
あれがいい。
2021年最大の危機を脱して、私は2023年夏を生きている。
これから私がどうあろうとも、何があろうとも
いろんなマイナス感情が沸き上がったとしても
不安でいたたまれなくなったとしても
どう言葉をかけていいか分からなかったら
「愛してる」とだけ言ってくれ。
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