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【6】私に大事な人を重ねてるんだろな

がん治療をはじめるのから逃げて、家出して2週間近くが過ぎていた。

その間、スマートフォン留守録に担当医師からメッセージが入っていた。
心配している旨と連絡するようにと。申し訳なく思いつつ連絡しなかった。

病の人を助ける志を持っておられるだろう医師をはじめ医療に携わる方々の流れを止めているのは自覚している。それでも自分の気持ちを優先した。

無事なことを知らせる為に葉書を手に取る。
お礼を書いて、ごめんなさいは書かなかった。分かっていてやっていてる大人としてなんとなく書いたらいけない気がした。
療養所にいると付け加えて病院の医師宛のハガキを投函。

たっぷり療養させてもらっている場所の2人とは、もはや新たな家族のよう。味噌づくり体験に誘われホイホイついていった。

美味しいお味噌を仕込み中


子どもたちの手を借りると彼らの持つ常在菌で美味しい味噌になるという。主催者は子どもたちに参加してもらう為に、お餅つきと同時開催にしたと笑っていた。
つきたてのお餅と子どもたち。限界集落の廃校になった場所に元気な足音や声が響いていた。小さな手で大豆を潰して混ぜる姿、一緒にはしゃぐお母さんたち。

幸せだなぁ、と思った。

ゆっくりぼんやりな私に、お母さんの1人がどこから来たのと尋ねた。

県外から来たことを話していると、身を寄せている家の一人が私の側に来た。この方の家で療養させてもらっていると加えて話した。

「すぐに抗がん剤、手術って聞いて・・怖くて逃げてきちゃった」

自分の言葉に怖かったのを自覚した。

私はどんな顔をしていたんだろう。
その方はギュッと私をハグをして、身を寄せている家の方も横からくっついて二重に抱きしめられた。左側の目から涙がボロンと落ちた。

そのお母さんが身内にがんになった人がいると話してくれた。

「応援してるね」

励ましの言葉と眼差し。胸が熱い。
出た涙はポロリなのにとてもくたびれた。

眠って起きたら出発の時だ。
2人と犬、猫たちと一瞬一瞬を味わうように夜を過ごした。
この場所に居られたことは、きっと何度も思い出して力になる。

布団に横になると隣の部屋で作業している音が子守唄のように聞こえた。

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