『香雨』1月号
ほかの結社の結社誌も読んでみようと思い、『香雨』(片山由美子主宰)の1月号を拝読しました。
さまざまなコーナーが充実していて驚きました。以下、心惹かれたコーナーです。
★「香雨」3年目に向けて <質問にお答えします> 片山由美子
会員からの質問に片山由美子さんが答えるコーナー。「吟行する時間がないときの作句法や発想法を教えてください」という質問に対しての片山由美子さんの答え。「いろいろな俳句を読むと頭が俳句モードになってきます。私の場合は、句がひらめきやすい句集があります。不思議なことにそれは全然作風の違う人の句集だったりするのです。俳句を真似るのではなく、脳のどこかを刺激してくれる俳人がいるのだと思っています。」
一方、「体調管理・健康増進のために何かしていることは」という質問に対する答えが「私の仕事量が既に限界を超えていることは明らかで、肉体的にかなり無理をしている毎日です。」とのことで、とても心配になりました。また、コロナの流行で、大好きな海外旅行にいけなくなってしまった片山由美子さんがハマったのがトルコのテレビドラマ『オスマン帝国外伝』だった、という意外な情報を得ることもできました。
★私の勉強法
会員が俳句勉強法を紹介するコーナー。高橋獺祭さん(句歴35年)の「散文は歩行、韻文はダンス」というお話が面白かったです。「作品のなかに大なり小なり飛躍した表現を入れる事で、歩行がダンスに替わる」というのはとても納得です。
★リスペクト狩行
鷹羽狩行作品を若手グループが鑑賞するコーナー。若手会員にとって鑑賞文を書く勉強になりますし、なによりも「リスペクト狩行」というコーナー名が良いです。
★採らなかった句
同人・会員の句のなかから、片山由美子さんが採らなかった句を具体的に挙げて、採らなかった理由を述べていくコーナー。
調律を終へたる窓辺小鳥来る、フルートのパート練習小鳥来る、小鳥来る白木造りの大鳥居……
「小鳥来る」という季語は秋の気分を表す便利な季語として安易に使われがちです。近年の歳時記では「小鳥来る」は「小鳥」の傍題になっていますが、定評のある角川書店の『圖説 俳句大歳時記』では「小鳥来る」は「渡り鳥」の傍題となっているそうです。窓辺に一羽やってくるような鳥を「小鳥来る」とは言わない、「小鳥」は大群の渡り鳥に対して少数の渡りの場合に使うとのことです。(これを読んだらしばらくは「小鳥来る」を使えなくなりそうです……。)
日の温み取り込みたくて布団干す → 「取り込みたくて」という言い方が浮いている。「○○したくて○○する」という叙法も散文的。
つつがなき検診結果秋うらら → 日記帳に残すにはいいが、作品としては類想に埋もれる。
ラムネ飲む昭和の音をころがして → 「昭和の○○」は詠み尽くされていて安易。
話また元へと戻る夜長かな → 上五中七が常套的な表現なので避けたい。
以上のように、投句のなかから具体例に挙げて指摘してもらえる、とても勉強になるコーナーだと思いました。
最後に『香雨』1月号より好きだった句を。
面接のごとく向き合ふ初鏡 鷹羽狩行
竹馬の一歩といふを踏み出せず 片山由美子
父のすぐあとに母の忌ぼたん雪 岬雪夫
一雨の涼しさ語る長電話 藤井圀彦
台風の逸れゆく先も人の住む 西宮舞
新涼や腕まつすぐに布を裁つ 馬場公江
転校といふ幕引や一葉忌 千鳥由貴
稲びかり句読点なき母の文 福井貞子
骨休めほどの入院青みかん 荏原やえ子
天ぷらの油に疲れ秋暑し 白橋美智子