波多野爽波俳句全集 その3
波多野爽波の第三句集『骰子』です。昭和55年から59年までの430句と、巻末に「湯呑」時代として40句掲載されています。
あとがきによると、昭和58年に爽波はサラリーマン暮らしに結着をつけて俳句だけの生活に入ったそうです。かねてからの念願であった「多作」について大分やり易い状況になった、と記されています。
『骰子』は好きな句がたくさんありました。ふふっと笑える句もけっこうありました。
炬燵出て歩いてゆけば嵐山
大皿のなまぐさくあり八重櫻
炭斗と固く絞りし雑巾と
手に軽く握りて鱚といふ魚
三尺寝あたりに殖ゆる柳の葉
天ぷらの海老の尾赤き冬の空
避寒して鏡台の気に入らぬまま
診察の椅子をくるりと鴨の湖
骰子の一の目赤し春の山
鰻屋の二階がよろし走り梅雨
夜業の灯砂地あかるく照らしをり
お涅槃の蓋開いてゐる救急箱
花満ちて餡がころりと抜け落ちぬ
孑孑や中年にして博士号
青花を摘む奇怪な雲が湧き
汗かかぬやうに歩きて御所の中
畳まれて巌のごとし大屏風
赤福の餡べつとりと山雪解
洗面器うすき湯気立つ花の宿
壬生狂言買ひし花鉢足もとに
桃の葉を畳に拾ひ星祭
鴨居に頭うつて坐れば水貝よ
船遊びよくぞ着て来しこの柄を
背高に育つかこの子水遊び
煮南瓜の大いに余り星月夜
冬ざるるリボンかければ贈り物
この人の才能は未知おでん酒
無花果を捥がむと腕をねぢ入るる
手洗ひて靴に飛沫や入学す
天気図や菊人形に隈どり濃き
釣堀の四隅の水の疲れたる