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蒼海創刊号すきな句


蒼海の創刊号は2018年9月発行。2018年1月に発足した蒼海俳句会の記念すべき結社誌創刊号です。

蒼海は1年に4回発行。10句投句で掲載は最大8句です。

創刊号はとにかく豪華。錚々たる俳人の方々からの寄稿、さらに豪華作家陣の随筆も。とくに町田康さんの「なんでしたっけ?」が好きでときどき見返しています。


最果てを見むと沖見るさやけかれ  堀本裕樹

主宰として結社「蒼海」を立ち上げた決意を感じる一句。季語は「さやけし」。明るい、清い、すがすがしいといった意味で、秋の季語「爽やか」の傍題。さやけしの命令形のさやけかれを俳句に用いるのはあまり見たことがないと思いました。余談ですが、角川俳句年鑑2021の年代別収穫40代の欄の筑紫磐井氏による堀本主宰の紹介文に「口触りのよい俳句が身上である」とありました。「そうだろうか?」と思いました。

濡れてゐる種を見たくて枇杷を剥く 加藤ナオミ 

枇杷を剥く目的が枇杷を食べるよりも濡れている種が見たいというところに、大人の遊び心と色気を感じます。独特の美意識をシンプルに17音で表現されているさすがの一句。

春の夜や最敬礼のドアボーイ  白山土鳩

「ドアボーイ」という都会的な句材をシンプルに一句に取り込まれているところが良いです。ドアボーイの深くて美しいお辞儀とともに洗練された笑顔も見えるようです。「春の夜」の艶っぽさがよいアクセント。

模範囚のごと顔上ぐる五月かな  森沢悠子

冒頭の「模範囚」にどきっとします。それでいて読後感が爽やか。読者の感情は揺さぶられます。外からは幸せそうに見えるひとでも、それぞれ隠された傷やドラマがあるというようなことも考えました。

塀を行く猫の平然クレマチス  加留かるか

「平然」という言葉のチョイスがすごいです。「塀」と「平然」で韻を踏んでいるところもさりげなくていいです。「クレマチス」という言葉のリズムも猫がすすすすっと歩く雰囲気に合っています。

ビッグデータのゆらめいて蝶生る サトウイリコ

「ビッグデータ」という現代ビジネス用語を俳句に取り入れた点がまず巧みです。データから蝶が生まれるという見立てもスケールが大きく、シュールです。読者それぞれに映像を喚起させる一句。

見送りて門開けしまま夕桜  会田朋代

なんとも叙情性のある句。それでいてベタベタしすぎない感じに好感をもちます。一家の主がお客さんを見送ったついでに夕桜に見惚れている景色を思いました。舞台設定としての「門」が見事です。

海中のくちづけしたる海女と海女  郡司和斗

海女同士のくちづけにどきっとします。ポップアートのようなカラッとした明るさのある句。それでいて「海女」というチョイスが渋くていいです。

土砂降りのずたずたの海西東忌  郡司和斗

「土砂降りの」にたたみかける「ずたずたの」。自分では絶対に思いつかない表現です。まるで西東三鬼の句のようだと思いました。

暖かや男女揃ひの健診着  中村たまみ

健康診断のときに着させられる、浴衣のようなパジャマのようなあの健診着。たいていは色褪せて変な色になっています。普段はスーツや丸の内OLのような服装で決めている同僚たちがいっせいにあの健診着になる風景は可笑しくてほっこりします。「男女揃ひの」の簡潔な措辞が見事。

小公子パンにバタ塗る遅日かな  千野帽子

久保田万太郎の句「パンにバタたつぷりつけて春惜しむ」をまず思い出しました。この「バタ」という言い方が最高です。「小公子」を持ってくることで読者を世界名作劇場の世界へと連れてゆく手腕がすごいです。

パスワードPASSWORDとす春の風邪     五戸真理枝

むかしのパソコンの最初のパスワードは「PASSWORD〜〜」だったなと思い出しました。パスワードにもきっと流行があるのでしょう。春の風邪のあたまがぽわーんとしている感じがよく出ていると思います。

さくらんぼパフェの面倒くさきこと  嶋田奈緒

さくらんぼパフェにはさくらんぼがたっぷりのっていて、一個一個種を取り出しながら食べるのは面倒くさいです。でも最初から種が取られていたらそれはそれで嫌ですよね。「面倒くさきこと」の終わり方、リズムがとても好きです。

掃除機の戻らぬコード鳥雲に  杉澤さやか

この句材を見つけるセンス、本当にすごいと思います。戻すボタンを押しても掃除機のコードが最後まで戻りきらないことがあります。そんなときはコードを引き伸ばして手を離すとコードがきちんと戻ります。ときにはコードがちょっと出ちゃった状態のまま物置に仕舞うことも。日常のちょっとした残念感と季語「鳥雲に」の取り合わせがうまいです。

寝不足に曇天やさし豆の花  福田健太

寝不足だとぎらぎらした太陽を浴びるのは辛いものがあります。いつもは別にうれしくもない曇天が今日はすごくありがたい。人間関係でも、似たようなシーンがあるなぁと思いました。季語「豆の花」の控えめな美しさも味わい深いです。

夕焼は壊れるサーカスは荒れる  ぺぺ女

対句表現と破調のリズムが楽しい一句。サーカスの動物たちは人間の言うことを聞かずに演目はすべて失敗、なかには逃げ出す動物も。観客席は大盛り上がり。はちゃめちゃな映像が頭のなかに浮かびました。なんとも刺激的な句です。

鯉のぼりだらりと眠る男たち  霜田あゆ美

鯉のぼりもだらり、外で昼寝の男たちもだらり。脱力感が楽しいです。「のぼり」「だらり」の韻も心地よいです。

自転車のきれいに沈み春の水  古川朋子

自転車が川もしくは池などに沈んでいくとはなかなか大変な事態なのですが、それを冷静にみて「きれい」と思っている作者の感性がすごいです。季語が「春の水」だからこんなスローモーションに見えるのかなと思いました。

新宿に玻璃降るごとく立夏かな  南波志稲

西新宿の高層ビル群。立夏の日差しを反射したビルの無数のガラスを「降るごとく」と表現したところがかっこいいです。福永耕二の句「新宿ははるかなる墓碑鳥渡る」にも通じる世界観。こんな句を作りたいなぁと思いました。

葉桜やひとりのときのチョココロネ  芳村瑞恵

ひとりで済ませる簡単な昼に好んで食べるものってあるなあと思いました。作者にとってはそれが「チョココロネ」。季語「葉桜」に外ご飯が気持ちよくなったきた季節感も表れていて良いです。チョココロネって響きがかわいいからつい俳句に詠みたくなります。

今日もまたあなたがいれば風光る  狩野壽郎

かもめ句会のアイドルひさおさんの句。素直な恋のきらきら感がキュートです。句会に出されたら間違いなく盛り上がる一句。


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