セクト・ポクリット「コンゲツノハイク」【2022年8月】 12句選
夏兆す金の油の浮くスープ 対中いずみ(「秋草」)
「金の油」、ありそうでなかったすごい表現です。エネルギーのある季語との取り合わせもよいです。
遠足の子の一人泣きみんな泣き 中村かりん(「稲」)
かわいいです。かわいすぎます。未就学児かなと思いました。
あきることなしはつなつのそらにくも 縄文人(「炎環」)
まず、俳号がいいです。こどもになりきっているのか、ほんとうにこどもなのか。縄文人さんの句、ほかにも読みたいです。
一歳の靴よく歩く豆の花 近藤智敏(「円虹」)
ファーストシューズでしょうか。一歳の靴という端的な表現が見事。すこやかな季語がぴったり。
死に顔を覗いて来たり夜の桜 五島節子(「火星」)
故人との最後のお別れの様子を淡々と描いていて、ぞくっとしました。
弁当に落花一片そのまま食ふ 櫛部天思(「櫟」)
こういうこと、あります。下五がユーモラスで好きです。
花時やがちやと咬ませて下足札 秋山紅(「澤」)
「がちやと咬ませて」が気持ちいいです。花時という季語のロマンがあり、よい取り合わせです。
追ひつける距離を逃げゆく鳥の恋 依田善朗(「磁石」)
恋人同士のじゃれあいのような。鳥の恋というオチが上品だと思いました。
紅梅や胸に抱く子を覗き合ひ 奥田卓司(「たかんな」)
小さい子をもつ親同士のよくある風景。覗き合っているのが、まったく知らない者同士の可能性もあります。桜よりも、控えめな梅が似合う景色。
郵便受ながく塞がれ柿の花 桑原規之(「南風」)
郵便受の口にガムテープが貼られている映像を思い浮かべました。長い時間を詠み込んでいるのが巧みです。
沈みては水よりも冷え新豆腐 山野髙士(「南風」)
水の中から豆腐を掬い上げて売ってくれる、昔ながらの豆腐店。たしかに豆腐は水よりも冷えているのかも。さらりとした秀句です。
花冷や始発電車の生臭き 高橋麗子(「街」)
始発電車なので無臭だと思っていましたが、生臭かったのですね。残念な発見を鮮やかに昇華した一句。季語の取り合わせも絶妙。
また、一歳の靴の句の評をこちらに掲載していただきました。