第70回 角川俳句賞
受賞作「熊ン蜂」より感銘句。
熊ン蜂ぶーんと尻の行つたきり 若杉朋哉
どこからが梅林といふわけでなし 同
毛虫の毛風に押されて前向きに 同
梅落とす棒乱暴になつて来し 同
朝顔に近づいてみて微風あり 同
日向ぼこ口の中にも日の差せる 同
種袋振つて励ますごとくなり 同
若杉朋哉さんの句のファンであるわたしにとっては、いわば「推し」の受賞。若杉さんの作品はほのかなおかしみがあり、俳句らしい余白があり、とても読み心地がよかった。全句すばらしかった。選考座談会での岸本尚毅さんの「(意識して二物衝撃を避けているというより)そういう体質の作者」「じっくり対象を見ていると、二物目が出てこないんですよ。」の発言が嬉しかった。
次席はわたしとおなじ「蒼海」の三橋五七(みつはし・ごしち)さん。なんと今回がはじめての角川俳句賞の応募であったそう。岸本尚毅さんの「川柳と俳句の相互乗り入れ地帯はあるわけで、その中のとてもよく出来た作品」という発言があり、仁平勝さんは「僕は楽しければいいじゃんと思う。」と自論を展開していて面白かった。五七さんの活躍に大興奮した。
以下、次席、佳作、推薦作品の好きな句。
私立北中代田に浮かびたる頃か 三橋五七
目をかけてきた台風が逸れてゆく 同
蜻蛉やヒーローショーの殴る蹴る 同
絵を褒めてまはる小母さん秋の園 同
朱いクボタ青いヰセキと田を打てり 同
尾を跳ねて鼠去りけり朝顔市 野城知里
ハードルの揺れて倒れず花梓 同
草餅や坐つてをれば膝に雨 山口遼也
線香を火の降りてゆく櫻かな 同
水平に見えて清水の流れをり 同
冬空や影みづいろにしらす丼 同
無人フロント歯ブラシが聖樹横 古田秀
寒泳の腕みづ引き締めてゆく 三枝ぐ
遠足の歩幅のすでに二年生 金澤諒和
我が社なし祭櫓の提灯に 黒岩徳将
阿波より速し高円寺阿波をどり 同
ホスピスの土用鰻のきざみ食 根岸哲也
箸もて食へソフトクリーム十段巻き 同
まぐはつてゐる修司忌の機械と火 垂水文弥
瓶ビール犬もさびしいのだと知る 同
わたしの応募作品「宝塚」もありがたいことに佳作で50句掲載いただいた。