斉藤志歩句集 『水と茶』
斉藤志歩さんの句集『水と茶』、すごくいいです。
オーソドックスな俳句らしい形の句が多いところがまず好きです。そして生活感があるのに、同時に清潔感があります。
非常にレベルが高くて(捨て曲ならぬ)捨て句がゼロです。わたしももっと俳句がうまくなりたいと思える句集でした。
好きな句といえばすべてなのですが、最初に読んで印象に残った句を。
手の甲にカーテン支ふ冬の月
「手の甲」の細かさと「支ふ」の動詞のうまさ。
けふは肉あすは魚に年忘
平和な年末です。
紐引いて橇の散歩は木の間ゆく
橇(そり)が主役の物語。
雪かきの赤きがわれのスコップなり
雪国では一人にひとつスコップがあります。
朝練へ雪のスナック街抜けて
日本海側の雰囲気がとても好き。
雪解や瞼の覆ふ目のかたち
季語が巧み。
花の名の御膳ふたつやあたたかし
○○御膳という名前、それだけでうれしい。
間奏を揺れてゐる歌手手にミモザ
上五中七の冷めた目線を下五がポジティブに転換しているように思いました。
後ろから卒業式の椅子を蹴る
この雑な感じが愛おしい。
遠足や眠る先生はじめて見る
この臨場感はすごい。
冷蔵庫の明りの中でハムを食ふ
冷蔵庫を開けたまま。ハムをそのまま食べるのはこのシチュエーションがとてもしっくり。
うつむきて夏着の縞を数へゐし
行動の無意味さがすごい。とても好きです。
引き出して麦茶パックのひとつなぎ
麦茶「パック」に注目するところがすごい。
病みたれば網戸の穴を広げてゐ
この病み方は夏着の縞を数える人物像と矛盾しません。
チャンネルの一つ少なし避暑の宿
「チャンネル」という言葉の愛らしさ。
包丁がしあはせさうに桃に沈む
包丁、恍惚。
蜻蛉に肉の貧しき軀かな
「肉の貧しき」の的確さ。
宴とほく月の廊下にすれ違ふ
雅です。
先に起きて枝豆の殻捨てておく
人間関係もさらりと描く。
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