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蒼海2号すきな句

蒼海2号は2018年12月発行。おもに夏から初秋の句が掲載されています。あ、でも巻頭の白山土鳩さんの句は冬ですね。(発行時期に合わせたのでしょうか。)

蒼海2号の好きな句をいくつか挙げていこうと思います。

妖怪の指折るごとく生姜折る  堀本裕樹

生姜を折る生々しさがリアルに伝わってきます。不規則に凸凹とした生姜の姿を「妖怪の指」に見立てたところ、そしてそれを「折る」という措辞で、気持ち悪い感覚を読者に追体験させたところ、さすがの一句です。

空港にパティシエ着けば風花す  白山土鳩

たんぽぽ句会に出たときから思っていたのですが、韓国ドラマのような句ですよね。句材が独特なのですが、しっかりとピントが合っていて像が結べるからすごいです。

夏逝けりモデルルームの皿に蝿  さとう独楽

東南アジアなどの管理の行き届いていないモデルルームを想像しました。そして夏の終わりの気だるい空気を感じました。大好きな句です。

金魚に麩わたしに卵かけごはん  三橋五七

五七さんの句、全部食べものです。連作の楽しさですね。この句は対句表現がよく効いています。金魚ってお麩が好きなのでしょうか。「わたし」はきっと卵かけごはんが好きですね。

腹ばひのサーファー海の鼓動聞く  矢崎二酔

サーフィンはしたことがないのですが、小さいころよく海水浴をしました。波打ち際で腹ばいになっている感覚をリアルに思い出しました。山田航さんに「矢崎さんの句、けっこう僕のツボに入るみたい」なんて言われて羨ましすぎです。

新しき寝間着の硬さ秋に入る  森沢悠子

新しいパジャマ、あるいは洗いたてのパジャマに袖を通して硬いとちょっとうれしくなります。「寝間着」という懐かしい響きもいいです。季語「秋に入る」がぴったり。

立漕ぎの配達員や夾竹桃  窪田千滴

となりのトトロの冒頭のシーン(「おまわりさんじゃなかった」「おーい!」というシーン。)を思い出しました。ノスタルジーの句。季語もいいです。

腰骨の張れる尼僧や若葉風  福嶋すず菜 

尼僧をみて「腰骨張ってるな」と思うのはいかにも女性らしい視点だと思います。そして季語がさわやかで気持ちがいいです。すず菜さんの句にはいつも作者独自の視点があって面白いです。

缶ビール二本ぶらさげ従弟くる  井上芽音

従弟(年下)がいいですね。楽しい夏の夜を思わせるさらっとした一句。

母の日やマフィンのバター柔らかに  枝白紙

マフィンの上にバターがのっているのでしょうか。音のやわらかさにやられてしまいました。

ハンモツク百を数へて交替す  斉藤洋子

斉藤洋子さんの全句をつらぬく素直さとおおらかさ。おかあさんの日記のような。とても心を惹かれました。

玉葱を吊りて防犯連絡所  沢いづみ

すこし田舎の景色ですね。「玉葱」の俳句ってとても難しいと思うのですが、これはとても上手い句。実家の車庫で玉葱を吊っていたことを思い出しました。

コマ割りの大き漫画やソーダ水  杉澤さやか

ソーダ水が最高に効いています。夏の休日、予定のない昼下がりのアパート、、でもいいですが、きっと多くの方が子どものころの夏休みを思い出すのではないでしょうか。はじめてこの句を見たとき、こんな句を作りたいと強く思いました。

触れねども佳き人と知る夏の宵  福田小桃

主宰に自分の句と対で評していただいた句なのですが、私はこちらの句のほうが好きです。隣に座ったときに心地の良いひとに惹かれることがあって、その感覚と同じかな、と思いました。夏の宵なので触れなくとも皮膚の熱さを感じることができそう。

荒梅雨や宿のポットと時代劇  吉野由美

ポットと時代劇から醸し出される国民宿舎感!荒梅雨が旅の気分を盛り上げてくれそうです。とても好きな句です。

シェラトンワイキキ泳がずに浮いているだけ  千野帽子

だらっとしたリズムもバケーションの気分とリンクしていていいです。シャラトンのプールってプールと海がつながってみえる、あのプールですね。(インフィニティプールというらしい。)あと、とにかくハワイに行きたいです。

あめんぼの下をめだかの流れかな  古川朋子

シンプルな句なのですが、立体感があってすごいなと思いました。「あめんぼ」と「めだか」がひらがななのも牧歌的でかわいいです。

大鉢の冷麦囲む帰省かな  高橋京子

なんて素直で気持ちのいい句なのだろうと思いました。季重なりものびのびとしていて健やかです。帰省の記憶と器の記憶がリンクしていることってあるなと思いました。

上からも下からも来る暑さかな  木月太郎 

そうそう暑さってそうだよね!と思い出させてくれる一句。俳句はシンプルイズベストだと再確認。

パソコンに繋ぐひとりの扇風機  鳥居美穂

USB型の扇風機ですね。現代の景をシンプルに詠んでいて大好きです。「ひとりの」がいいなと思いました。扇風機を独り占めしているような気分。

妻ある人を振つたらし夏神楽  松本恵

リズムが独特で面白いです。妻ある人を振ったのは誰なのか、それを「振ったらし」と言って噂しているのは誰なのか、想像が膨らみます。ちょっと昭和の空気感、そして大人の色気があって好きです。 

共学に憧れし日やメロン熟る  小谷由果

関東圏は別学が多いのですよね。わたしの育った新潟県は共学しかなかったので、逆に女子校って楽しそうだなという気持ちがあります。下五「メロン熟る」に女子から女性への成長の感じがでていて好きです。

さいごに拙句をひとつ。

夕立を合図に愛し合ひにけり  千野千佳


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